毎日新聞が、福島原発の汚染水対策の停滞している現状を報じました。
一つは東電が汚染水対策の決定版になるとして着工した「凍土遮水壁」です。
それは3月に一旦完成し4月から凍結を開始したのですが、一向に完全凍結に至らないために発生する汚水量がいまだに1日400トンと全く減りません。
東電は凍結率を海側は99%、山側は91%として、かなり進んでいることを強調したいようですが、仮に全周に渡って99%が凍結したとしても未凍結部分=開口の総断面積は450㎡にも及びます。(全凍結断面積45000㎡)これではとても遮水壁とは呼べませんし、事実発生する汚染水は一向に減じていません。
もう一つはその結果濃厚なトリチウムを含む汚水が1日400トンずつ増え続けていることです。多核種除去設備「ALPS」は、金属イオンに由来する放射性物質は除去できるのですが、トリチウムはそうした膜処理(限外ろ過UFや逆浸透膜RO)やイオン交換樹脂では除去できないために、海に放流できずにタンクに貯蔵するしかなくそれが増え続けています。
新技術の「凍土遮水壁」を採用すれば国から建設費が貰えるからと身勝手な考え方で飛びついた結果がこの始末です。
一刻も早く凍土遮水壁の完全凍結を実現させるしかありません。
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【 クローズアップ2016 】
福島原発事故5年半 汚染水対策、足踏み
毎日新聞 2016年9月7日
東京電力福島第1原発事故の発生からまもなく5年半経過するが、政府や東電の汚染水対策が足踏みしている。地中に「氷の壁」を造り、地下水流入を防ぐ「凍土遮水壁」(全長約1・5キロ)は効果が表れず、放射性のトリチウムが残る処理水の行き先も宙に浮いている。政府は東京五輪イヤーの2020年中に、原子炉建屋内の汚染水処理を完了させる方針だが、黄信号が点灯している。【柳楽未来、岡田英、曽根田和久】
溶ける凍土遮水壁
「大雨の影響で、地下の2カ所で温度が0度以上に上がってしまった」。東電の広報担当者は台風10号が通過した直後の1日の記者会見で、大雨によって地下水が大量流入し、凍土遮水壁の2カ所が溶けたことを明らかにした。
凍土遮水壁は今年3月に凍結を開始したが、一部では地質の関係で地下水の流れが速く、凍結できない状況が続いていた。さらに今回の大雨で凍結部分が溶けるという弱点も明らかになり、専門家からは計画の破綻を指摘する声が上がる。
第1原発の原子炉建屋周辺には、山側から大量の地下水が流入し、これが溶けた核燃料に触れるなどして高濃度の放射性汚染水が1日約400トン発生している。東電はこの流れを断つため、13年に凍土遮水壁の建設を決定。建屋周囲の地下30メートルまで1568本の凍結管を打ち込み、氷点下30度の冷却液を循環させて氷の「地下ダム」を造った。東電は汚染水対策の切り札と位置付け、今年3月から海側での凍結を開始し、6月からは山側の大半で凍結させた。先月時点で海側は99%、山側は91%凍結したとしている。
しかし、凍結を開始して5カ月が経過しても汚染水の発生量はほとんど変わらないまま。先月18日にあった原子力規制委員会の検討会でも、専門家から「いつ効果が出るのか」「遮水効果が高いとの東電の説明は破綻している」などの意見が相次ぎ、東電が答えに詰まる場面もあった。
凍土遮水壁は、20年開催の東京五輪への思惑も絡む。政府は13年9月に、凍土遮水壁などの汚染水対策へ国費を投入することを決定。その4日後に開かれた五輪招致のプレゼンテーションで、安倍晋三首相が「汚染水による影響は第1原発の港湾内の0・3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」と国際公約し、東京招致を勝ち取った。
政府は凍土遮水壁の建設費として国費345億円を投入しており、計画が「破綻」すれば国民からの批判を招きかねない。世耕弘成経済産業相は先月の記者会見で「凍結しづらいのは事実だが、凍結は進みつつある」と強調したが、効果は見えないまま。政府と東電は20年までに、建屋内の汚染水処理を終えるとの廃炉工程表も掲げており、凍土遮水壁は「国際公約」の成否も握る。
凍土遮水壁の効果を上げるため、東電は6月から、温度の下がりにくい部分に特殊なセメントを注入し、凍らせやすくする追加工事を実施している。東電は今後「全面凍結」させる方針だが、効果が表れるかどうかは見通せない。
地盤力学が専門の浅岡顕・名古屋大名誉教授は「凍土壁は『壁』ではなく、すき間のある『すだれ』のようなものでしかない」と指摘。「凍土壁の遮水性が低いことは明らか。早急に別の種類の壁を検討すべきだ」と話している。
2020年完了に黄信号
汚染水対策は「入り口」で地下水の流入を防ぐ凍土遮水壁だけでなく、「出口」も課題を抱え、20年の完了目標の壁になっている。放射性物質の大半を除去した後に出る処理水の処分方法が決まっておらず、貯蔵タンクの容量が逼迫(ひっぱく)しているためだ。経済産業省は今秋に専門部会を設置し、処分方法を検討する方針。現時点で海への放出が低コストで処分時間も短いとされるが、風評被害を懸念する地元が反対している。
東電は原子炉建屋などにたまった汚染水をくみ上げ、62種類の放射性物質を除去する多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で浄化しているが、トリチウム(半減期約12年)は除去できずタンクにためている。トリチウムは、原子核内の陽子数が水素と同じで中性子の数が異なる水素の同位体。トリチウムを含む水は沸点などの物理的性質が普通の水とほとんど変わらず、分離が難しい。
国際原子力機関(IAEA)は13年公表の報告書で「トリチウムは海洋生物の体内に蓄積されず、人体への影響は非常に限定的」と指摘。海に流すことも含めて検討するよう提言した。通常の原発の運転でも、トリチウムを含む排水が国の基準に従って海に放出されており、原子力規制委員会の田中俊一委員長も「海洋放出すべきだ」との考えを示す。
経産省は、トリチウムを含む処理水の処分方法について、海洋放出▽水蒸気化▽電気分解で水素化して大気放出▽セメントなどで固めて地下埋設▽パイプラインで地下に注入−−の5方法を比較。トリチウム水の総量を80万トン、流す量を1日400トンなどと仮定すると、海洋放出の処理期間は7年1カ月〜7年4カ月と最も短く、コストも18億〜34億円で最低になるとの試算を4月に発表した。
ただし、これは濃度を国の基準の上限値(1リットル当たり6万ベクレル)に希釈して流す場合の試算。より低い濃度で放出する場合、放出量を増やさなければ長期化する。国と東電は山側でくみ上げた地下水を海に流す際、トリチウム濃度を同1500ベクレル未満に設定しており、仮にこの濃度で放出すれば、1日400トンの放出量では最大293年かかる計算だ。
一方、福島県漁業協同組合連合会は風評被害を懸念し、トリチウム水の海洋放出に反対している。経産省が試算を発表した4月に開かれた政府と地元との協議会で、野崎哲会長は「慎重に進めてもらいたい」と異議を唱え、タンクで保管を続けるよう促した。
事故後、県漁連は沿岸での操業を自粛。国の出荷制限指示もあり、県内漁港の水揚げ額は15年現在、事故前(10年)の約6%まで激減した。鈴木正晃副知事も協議会で「社会的影響も含め、総合的に議論してほしい」と述べ、海洋放出などについて拙速に判断することがないようクギを刺した。