シリーズ最終回は、ブラックアウト中でも、昨年蓄電池付きの太陽光パネル発電設備を個人住宅に取り付けた家庭が、照明・テレビ・冷蔵庫を生かせたケースや、都市ガスなどで発電し、廃熱を給湯や空調に使うガスコージェネレーションシステム(コジェネ)を持つ施設がガスタービンでの発電に切り替えて電力を供給し続けたケースを取り上げました。
ブラックアウトは本来あってはならないことですが、事前に対策を施しておけばそれなりにしのげるという例です。
このシリーズは今回を以て終わりとなります。
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<原発のない国へ 全域停電に学ぶ>(4)家庭や企業「電気使い続けられた」
東京新聞 2018年11月7日
最大震度7の地震が起きた九月六日午前三時すぎ、札幌市中央区でも震度4を観測した。税理士の堀江勇気さん(42)は揺れで目が覚めたが、すぐにまた寝入った。自宅の電力管理システムが停電を感知し、非常電源モードに自動で切り替わっていたことに気付いたのは、いつも通り午前七時頃に起きてからだった。
昨年六月に自宅を新築した。電気代を安くできれば。そう考え、屋上に太陽光パネル、自宅裏に蓄電池を設置した。通常、日中に太陽光でつくった電力を使いながら、蓄電池に充電し、余った分を北海道電力に売る。夜は蓄電池の電力を使い、足りない分を北海道電から買う。電気代の負担は以前と比べ半分に減った。設備の設置に約百五十万円かかったが、十年もかからずに元が取れる見込みだ。
停電しても、自宅の太陽光パネルと蓄電池が電力を供給する。節電のため、使えるのは居間の照明、テレビ、冷蔵庫に絞られるが、生活するには十分だ。
「怖い、怖い」。六日夕、日が落ちて街が暗闇に包まれると、長女真綺(まき)ちゃん(3つ)は外の様子を見ておびえた。だが、居間の照明がつくと、思わず「わーっ」と歓声を上げた。身重の妻美穂さん(35)は「電気を使い続けられる安心感は大きかった」と振り返った。
太陽光発電協会によると、全域停電の中で、蓄電池付きの太陽光パネルがある道内の住宅千百三十四軒のほとんどが、電力を使えたとみられる。堀江さん宅を手掛けた大和ハウス工業(大阪)によると、太陽光パネルと蓄電池を備えた住宅は、二〇一七年度に全国で販売した約九千軒の新築一戸建ての三割を占めた。
家庭だけでなく、都市ガスなどで発電し、廃熱を給湯や空調に使うガスコージェネレーション(熱電併給)システムを持つ施設も、電力を供給し続けた。
札幌市厚別(あつべつ)区の「ホテルエミシア札幌」は、普段から電力の八割をガスエンジンで自家発電。残り二割は、北海道電の送電線を通して北海道ガスから購入している。停電時はガスエンジンの稼働を増やして補った。十日までの四日間、自家発電で全電力を賄い、高層のレストラン以外は、ほぼ通常通りの営業を続けた。
商業施設のあるオフィスビル「札幌三井JPビルディング」は停電を受け、重油を使うガスタービンでの自家発電に切り替えた。停電時は自動的に外部からの電力供給を止め、自前の電源に一本化する。入館証に反応するドアやトイレなど共有部分のほか、非常時の電力供給を事前に契約していたテナント(全体の三割)に電力を送り続けた。
ホテルエミシアも三井JPビルも、一階ロビーを市民に開放。多くの人が携帯電話を充電し、家に帰れない人たちが身を寄せた。
災害時の電力への関心が高まった東日本大震災以降、三井不動産グループは各ビルに七十二時間の非常用燃料を備蓄するなど災害対策を強化した。札幌三井JPビルを運営する三井不動産ビルマネジメントの藤野和仁札幌支店長は言う。
「災害時の電力確保は、テナントや地域への責任です」 (伊藤弘喜)
◆省エネ・防災意識高まり普及
停電時も動く電源を備える動きが、省エネ対策と相まって進みつつある。札幌のビルで活躍したガスコージェネレーションには、停電時も稼働するタイプがある。経済産業省によると、北海道の全域停電では医療機関やホテルなど二十三施設で活用された。
日本ガス協会によると、二〇一一年度は停電対応型が全体の7%未満だったが、一三年度に10%を突破。一七年度は13・6%に上った。東京ガスによると、首都圏でも東日本大震災のあった一一年以降に増えコージェネ全体の四割近くが停電対応型だ。
法令では、不特定多数の人が出入りする施設で、利用者の避難に必要な、最低限の非常電源を義務付けている。消火設備や非常灯、排煙機を三十分間使えなければならない。
自主的に法定以上に備え、ビルの魅力を高める動きもある。日本ビルヂング協会連合会が一七年度に実施した全国九百五十一棟への調査(回答率68・1%)によると、法定以上の非常電源を備えたビルは東京で70・0%、大阪で84・1%に上った。運転可能時間は平均十八時間半だった。
=おわり