原賠法の改正案が国会に提出されました。原発の経済性が虚構であるのと同様に、原賠法も、本来であれば1件毎に10兆円ほどの賠償金が必要なのに、電力会社には1200億円の損害保険を掛ければ良いとする一方で、事故時の「無限責任性」も持たせるという矛盾したものですが、それの改正は見送られました。
電力会社に1件10兆円の損害保険を義務化すれば掛金は「約50億円×基数」になるので財政的に困難だし、「無限責任」を除外すれば、今度は国民が原発の稼働を認めなくなるからです
電力会社は当初、事故時の賠償金が負担できないからと原発への参入を拒否したのを、どうしても原発を採用したかった政府が、1200億円の損害保険を掛ければ良いからということで参入させたという経緯があります。
そうなると電力会社と国の連帯責任ということになりますが、どちらにしても事故が起きた時の賠償金を最終的に国民が負担することに変わりはありません。
そもそもがボタンの掛け違いで始まったものなので、原発を全廃する以外に解決する方法はありません。
関係記事
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(社説) 原賠法見直し案の重い宿題
日経新聞 2018年11月6日
原子力発電所の大事故に備えた原子力損害賠償法の改正案が国会に提出された。被災者の早期救済のため、国が仮払金を電力会社に貸す制度などを新設する。一方で、電力会社の賠償額に上限を設けない「無限責任」など、根幹の枠組みには手をつけなかった。
2011年の東京電力福島第1原発事故は、重大事故が現実に起きうることを示した。巨額の賠償や除染・廃炉費用を誰が負担するのか。事故を極力防ぐにはどうすべきか。これらにかかわる原賠法の改正は、重い宿題だ。
しかし、政府の改正案は重要な論点を先送りし、電力会社が事故に備えて用意する賠償金も据え置くとした。国会では原点に戻って審議を尽くすべきだ。とくに、国と電力会社の役割と責任を明確にする必要がある。
いまの原賠法は電力会社が過失の有無にかかわらず責任を負うことや、無限責任が基本だ。福島原発事故でも被災者への賠償は東電が負担している。一方で、国や他の電力会社が東電を支援する原子力損害賠償・廃炉等支援機構が設けられ、除染・廃炉費の一部は国が負っている。これらは急場しのぎの対応と言わざるを得ない。
原賠法のあり方を審議した原子力委員会の部会は無限責任を変えない理由として、国民感情への配慮や、電力会社の安全対策の動機づけにするためとした。
一方で、産業界には反対論が強い。電力自由化で電力会社間の競争が増している。無限責任のままでは原発の事業リスクを高め、安全対策や建て替えの資金調達にも支障をきたすという主張だ。
ドイツでは無限責任が原則だが、電力会社の能力を超えると国が補償する仕組みだ。重要なのは無限か有限かの形式論でなく、電力会社の能力を超えたときの国の責任を明確にしておくことだ。
原発の利用は国が政策を決めて電力会社が実行する「国策民営」で進めてきた。原発を安全に使い続けるうえで、この役割分担を改めて問い直す必要もあろう。