強制起訴された東電旧経営陣3人の公判が30日あり、最高責任者だった勝俣恒久元会長(78)は初めての被告人質問に臨み、事故前に東電が得ていた原発敷地を超える最大15・7mの津波試算について勝俣元会長は「知りませんでした」と述べ、あらためて無罪を主張しました。
3人の被告人質問が終わったのを機に東京新聞が社説を出しましたので、併せて紹介します。
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大津波試算「知りません」 勝俣元会長、無罪主張 東電公判被告人質問
東京新聞 2018年10月31日
東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣三人の公判が三十日、東京地裁(永渕健一裁判長)であり、最高責任者だった勝俣恒久元会長(78)は初めての被告人質問に臨んだ。事故前に東電が得ていた原発敷地を超える最大一五・七メートルの津波試算について勝俣元会長は「知りませんでした」と述べ、あらためて無罪を主張した。 (蜘手美鶴)
公判では大津波を予測できたかが最大の争点で、勝俣元会長は初公判で「津波や事故の予測は不可能だった」と主張。自らが出席した二〇〇八年二月と〇九年二月の幹部会議では、原発敷地を超える大津波が来る可能性が資料などで示されており、検察官役の指定弁護士は「予測は可能だった」と訴えている。
被告人質問では、社長だった〇八年三月に子会社から東電原子力・立地本部にもたらされた最大一五・七メートルの津波試算について、報告は受けていないと主張した。会長に就任後の〇九年二月の幹部会議で、元社員が「最大一四メートルほどの津波が来るという人もいる」と報告したことについては「聞いたことがある」と認めたが、「部下のトーンが懐疑的に聞こえた。『そういう話もあるんだ』ぐらいに受け止め、いずれ対策が必要なら説明があると思った」と話した。
この日で三人への被告人質問は終了。武藤栄元副社長(68)は自らの被告人質問で、〇八年六月、最大一五・七メートルの津波試算の報告を受けたが、同年七月に外部機関に試算方法を調査委託する方針を決めたと説明。「先送りと言われるのは大変心外だ」と述べた。武黒一郎元副社長(72)も外部機関への調査委託について「いいと思った」と、武藤元副社長と同様の判断をしたと明かしている。
永渕裁判長はこの日、検察官役の指定弁護士が請求した事故現場周辺の検証は「必要性がない」と却下。次回の十一月十四日は、事故後の避難で亡くなった病院患者の遺族らが意見陳述する。
【社説】東電被告人質問 矛盾が次々噴き出した
東京新聞 2018年11月1日
東京電力福島第一原発事故を巡る刑事裁判で、旧経営陣三人の被告人質問が終了した。責任逃れにも聞こえる発言に終始し、真相究明は程遠い。福島の痛みは置き去りにされたままだ。
人生を暗転させた原発事故の責任の所在が知りたい。福島の被災者らで作るグループの執念が、この裁判の扉を開いた。検察は旧経営陣などを不起訴処分にしたが、グループは市民でつくる検察審査会に審査申し立てをし、旧経営陣三人の業務上過失致死罪による強制起訴につながった。
法廷に立った社員たちの証言などによれば、東電の社内で大津波が決して「想定外」の出来事ではなかったことがうかがえる。
検察が元社員から話を聞いてまとめた供述調書には、勝俣恒久元会長ら三被告が出席した二〇〇八年二月の会議で、国の地震予測「長期評価」を津波対策に取り入れることが了承されたと記されていた。この長期予測を基にした子会社の試算で、津波は最大一五・七メートルになることが判明する。
別の社員は、同年七月にこの試算を基に被告の武藤栄元副社長に判断を仰いだ際、試算手法の研究を専門家に依頼するよう指示を受け、「津波対策をとらないという結論は予想していなかったので、力が抜けました」と法廷で明かしている。
しかし武藤元副社長らは長期予測の信頼性に疑義があったとし、対策の「先送り」を意図したわけではないと主張。最高責任者の勝俣元会長にいたっては「社長の求めで助言することはあったが業務執行はすべて社長に譲っていた」「すべてを直接把握するのは不可能に近い」と自らの権限を否定した。
三被告が責任を問われるか否かは、今後の審理を経て司法が判断する。しかしこれまでの証言をそのまま受け止めるならば、トップと部下の認識の乖離(かいり)は甚だしい。「原発は安全」と繰り返してきた組織の内実がそんな状態であったとしたならば、それもまた住民らへの裏切りではないのか。
裁判では、第一原発近くの病院から避難した入院患者の中には、バスで座ったまま亡くなった人もいたなどの生々しい証言も出た。現在進行形の福島の人々の苦悩が背後に無数にある。
多くの人生を狂わせた事故の教訓について、法廷で三被告から明確に語られることはなかった。そんな組織に原発再稼働の資格はあるのだろうか。