東北電力は女川原発1号機の廃炉を決めましたが、解体作業には30~40年かかり、その費用には432億円が掛かります(17年度末見積りベース)。
1号機の廃棄作業によって発生する膨大な量の放射性廃棄物の処分先は未定で、将来見つかるという保障もありません(廃炉に伴い1号機建屋内の燃料貯蔵プールに貯蔵されている821体の使用済み核燃料は2・3号機の燃料プールに移設)。
電力自由化で競争が激化する中で利益を生まない廃炉は足かせになるのに加えて、2・3号機の再稼働のための安全対策費用等も掛かるので、これまでは「見掛け上」経済性の優位を謳っていましたが、それも維持できなくなるという問題が現実になっています。
河北新報が、東北電が初めて直面する廃炉の課題や影響を探りました。記事は上・下の2本立てです。
(上)廃棄物/行き場なしに現実味
(下)経済合理性/費用増大 再稼働焦る
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<廃炉の課題 女川原発1号機>(上)廃棄物/行き場なしに現実味
河北新報 2018年11月3日
東北電力が女川原発1号機(宮城県女川町、石巻市)の廃炉を決めた。来年度上期にも原子力規制委員会に廃止措置計画を申請する。解体作業は30~40年かかる長い道のりだ。東北電が初めて直面する廃炉の課題や影響を探る。(報道部・高橋鉄男、石巻総局・氏家清志)
<見えぬ再処理>
東北電の原田宏哉社長は10月25日、宮城県庁を訪れ、数時間前に決めたばかりの廃炉を村井嘉浩知事に報告。村井知事は「廃炉は長期間を要する。透明性を持って説明してほしい」と注文し、原田社長も「真摯(しんし)に受け止める」と応じた。
廃炉工程は使用済み核燃料を燃料プールから取り出して設備を除染した後、線量の低い場所から解体する。最初の関門となるのが、使用済み燃料821体の運び出しだ。
搬出先の日本原燃再処理工場(青森県六ケ所村)は2021年度上期の完成を見込んでいるが、これまで完成延期を24回繰り返し、稼働は見通せない。使用済み燃料は冷却する必要があり、女川2、3号機プールに移して留め置かれる事態が現実味を帯びる。
だが2、3号機も容量計5056体に対し、既に新燃料も含め約65%(3281体)が埋まっている。貯蔵余力は10年程度とされ、残された時間は多くない。
対案は、金属容器に入れ空気で冷やす「乾式」による中間貯蔵だ。規制委の更田豊志委員長は「プールではなく乾式貯蔵を導入すべきだ」と安全面から推奨し、東北電も「敷地内外で導入を検討する」と実現性を探る。ただ、中間貯蔵でも地元に長く留め置かれるという懸念が拭えず、今後の地域課題となる可能性がある。
<しわ寄せ懸念>
廃炉廃棄物を最終的に処分する道筋も見えない。
1号機の廃炉では、制御棒や原子炉内の構造物など低レベル放射性廃棄物が生じる。発生量の試算はこれからだが、同じ沸騰水型炉で出力も近い中部電力浜岡原発1号機(静岡県、09年廃炉着手)は、7400トンの発生を見込む。
低レベル放射性廃棄物は電力各社が責任を持って地中などの管理先を決める。処分先は、国が責任を持つ高レベル放射性廃棄物も含めて決まっていない。
「(地元に留め置かれる)懸念はある。処分する場所がなければ、どこかにしわ寄せが出る」
村井知事は原田社長との面会後、記者の質問に答え表情をこわばらせた。石巻市幹部は「女川原発内に何も残さない方法で処分を検討するべきだ」と早くも警戒感をにじませる。
国内初の廃炉に01年に着手した日本原子力発電東海原発(茨城県)は今春、作業を終える計画だったが、廃棄物対応で2度延期して25年度にずれ込んだ。
「廃棄物処分は当事者意識を持ち対応する」と原田社長。廃炉時代に入り、責任は一層重くのしかかる。
[使用済み核燃料]原子炉でウラン燃料を燃やした後の燃料。日本は再処理でプルトニウムを抽出し、再び原発で使う核燃料サイクルを掲げる。再処理後は「核のごみ」と呼ばれる高レベル放射性廃棄物が残る。
<廃炉の課題 女川原発1号機>(下)経済合理性/費用増大 再稼働焦る
河北新報 2018年11月4日
東北電力が女川原発1号機(宮城県女川町、石巻市)の廃炉を決めた。来年度上期にも原子力規制委員会に廃止措置計画を申請する。解体作業は30~40年かかる長い道のりだ。東北電が初めて直面する廃炉の課題や影響を探る。(報道部・高橋鉄男、石巻総局・氏家清志)
廃炉には多額の費用がかかる。東北電力は女川原発1号機(宮城県女川町、石巻市)の廃炉費用を2017年度末時点で432億円と想定していた。
電力会社は廃炉に必要な費用を解体引当金として積み立てている。東北電は既に想定費用の約7割に当たる296億円を積み上げ、残りは今後6年で引き当てる。
東北電の原発4基分の費用は以前、毎月の電気料金に上乗せされていた。標準家庭(月の電力使用量260キロワット時)の場合、月12円程度を支払っていたことになる。
東北電は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の影響を踏まえて13年9月に電気料金を引き上げた際、再稼働が見通せない女川1~3号機の解体引当金を原価算定に織り込めなかった。このため現在は収益から捻出している。
担当者は「原発が再稼働すれば火力発電の燃料費などを削減でき、その分を未引当金に積み上げる」と説明する。ただ廃炉に伴い生じる放射性廃棄物の処分などで、費用が想定より膨らむ可能性がある。
<新電力が台頭>
震災で傷ついた東北電の経営基盤は回復途上。廃炉以外にも再建に向けた不確定要素がある。
電力小売りの全面自由化から2年半が過ぎ、東北電管内でも企業や家庭が料金などを比べて事業者を選ぶ機運が広がっている。電力・ガス取引監視等委員会の7月のまとめによると、東北6県と新潟県の販売電力量全体に占める新規参入事業者(新電力)の比率は13.7%に上った。
中でも企業向けの高圧(契約電力50キロワット以上、2000キロワット未満)は新電力の比率が24.5%に達した。
東北に本社を置く新電力の幹部は「東北電の牙城は崩れている」と自信を見せ、こう言い切った。「販売電力の競争が激化する中、利益を生まない廃炉は足かせになる」
競争に勝ち抜くため、東北電が是が非でも実現したいのが女川2号機の再稼働だ。原田宏哉社長は1号機の廃炉を表明した10月25日の記者会見で「2号機に経営資源を集中して早期の再稼働を目指す」と強調。再稼働を競争に生かしたいという焦りをにじませた。
<安全対策続く>
2号機は13年12月、原子力規制委員会への審査を申請したが、事故後の規制強化で追加の安全対策工事が相次ぐ。今年10月には規制委から「論理展開が十分検討されていない」と追加資料の提出を求められ、19年1月に審査を終えたいとする東北電の方針も不透明感が漂う。
東通原発(青森県東通村)は審査が序盤でつまずき、女川3号機は審査の申請時期も見通せない。
審査の長期化、安全対策費の増大、そして廃炉が現実となり、原発の経済合理性は揺らいでいる。
[解体引当金]
電力各社が1988年度から廃炉に備えて毎年計上する。省令改正で2018年度以降、運転開始から50年だった引当期間が原則40年に短縮された。原発の後処理費には使用済み核燃料の再処理費、最終処分費もある。