2018年11月6日火曜日

東京新聞 <原発のない国へ 全域停電に学ぶ> (2)

 今回は再生エネ設備を持っていたケースがどうなったかを取り上げました。
 稚内市は84基の風力発電設備(計約10万6000KW)を持っていたのですが、ブラックアウトに連動して自動停止し、以後は単独で発電を開始させられませんでした。送電網に接続する時点でこういうケースを想定していなかったためでした。
 一方、「道立宗谷ふれあい公園」は、隣接大型蓄電池付きメガソーラから直に送電線をつなぎ、ふだんから電力を受けていたため、市は朝、北海道電の送電網から切り離す「自立運転」に切り替え太陽光による電力のみで通常営業を続けることができました
 メガソーラは大型蓄電池を備えていたためそうした応急的な運用ができましたが、風力発電については、予め市内に直接供給するルートをつくることを工夫すべきであった、という教訓が得られたという話です。
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<原発のない国へ 全域停電に学ぶ> (2)稚内 再生エネ生かせず
東京新聞 2018年11月5日
 「非難ごうごうだよ。こんなにたくさん発電施設があるのに、何の役にも立たねえのかよ、って」
 日本最北端の北海道・宗谷岬近くのガソリンスタンドの社長、安田龍平さん(56)が、九月六日未明に北海道地震で発生した全域停電を振り返った。周辺に数多くの風車が立ち並ぶというのに、知り合いのリース業者からディーゼル発電機を借り、普段より一時間遅れで開店にこぎ着けた。
 岬のある稚内(わっかない)市は海に突き出た地形から、年間を通じて風に恵まれる。市は再生可能エネルギーを中心とした「環境都市」を宣言し、風力発電所の建設を推進している。
 
 市内には八十四基(出力計約十万六千キロワット)の風車が立ち並び、発電能力は市内の電力需要を上回る。それでも、まる二日間、市内のほとんどで停電が続いた。
 たくさんの風車は、停電で安全装置が働き、発電を停止。再開しようにも、北海道電力の送電網が、風力などの再生エネは出力が不安定だとして受け入れられない状態だった。「なぜ停電が続くのか」。市役所には、苦情に近い問い合わせが何件も寄せられた。
 その中で、ほぼいつも通りの営業を続けたレジャー施設があった。東京ドームが十四個入る約六十五ヘクタールの広大な敷地に、ロッジやキャンプ場、パークゴルフ場などがある「道立宗谷ふれあい公園」。隣接地に、市が保有する大型蓄電池付き大規模太陽光発電所(メガソーラー)があり、直に送電線をつなぎ、ふだんから電力を受けていた。
 メガソーラーはつくった電力を蓄電池にため、主に北海道電へ送っている。停電で保護機能が働き、いったんは送電を停止したが、市は朝のうちに、北海道電の送電網から切り離す「自立運転」に切り替え、再開。園の電力は全面復旧し、太陽光による電力のみで通常営業を続けた
 
 職員の田渕百合子さん(31)は「ひょっとすると対策本部をそちらに設置するかも、と市から言われました」と明かす。園内には二十六人の宿泊者がいたが、停電を知らない人もいたという。「停電でほかの宿泊先からこちらに来た人もいた。携帯電話の充電場所も提供しました」
 
 メガソーラーと直につないでいたのはこの公園ぐらいで、市内の多くの民家や施設には電力を供給しようにも手がない。
 この経験から、市は災害時も停電を回避できるように、風車や太陽光が生みだす電力を市内に直接供給するルートをつくれないか模索する動きを急速に強めている。
 風車群の電力は声問(こえとい)変電所に集め、北海道電に売っている。市環境エネルギー課の市川正和課長は「災害時は、この変電所から市内各地に送電できないか。実現すれば、北海道電に頼らずに自立した電源を確保できる」とみている。
 
 実現のためには、天候によって左右される再生エネの電力を、大型蓄電池などを使い安定させて送電網と結ぶ必要がある。市川課長は機運の高まりを明かす。「国の実証事業として、容量を増強するための新たな送電線建設が始まり、かつてない規模の大型蓄電池も併設される。こうした動きもにらみ、自立電源の確保につなげたい」 (山川剛史)