愛媛県の住民が伊方原発3号機を運転しないよう求めた仮処分申請に対して、高松高裁はそれを退ける決定を出しました。
「新規制基準の下で原子力規制委が行った審査には合理性がある」という型通りのものでした。一方、住民の避難計画については「民間のバス会社に協力を要請できないことや海上輸送能力に懸念がある」等の住民の主張を認めていますが、米国の様にそのことをもって「再稼働を止める要因」とは見做しませんでした。
火山リスクについては、「阿蘇カルデラで運用期間中に破局的噴火が起きる根拠は不十分」なので、再稼働を取り止める理由にならないとしましたが、当初から火山学会が「噴火の予知は不可能」とした中で作られた「火山条項」なのに、「破局的噴火が起きる根拠」が示されなければダメということであれば、「火山条項」は永久に生かされることはありません。
また地裁で、「約九万年前の阿蘇カルデラ噴火の火砕流が、同原発がある佐田岬半島で確認されたとの知見がない」からと申し立てを却下したのも、火砕流が常に同じコースを通ることを前提にした誤りですが、それも正されませんでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
伊方原発3号機 運転停止申し立て 退ける決定 高松高裁
NHK NEWS WEB 2018年11月15日
愛媛県の住民が伊方原子力発電所3号機を運転しないよう求めた仮処分の申し立てについて、高松高等裁判所は退ける決定を出しました。伊方原発3号機は広島高裁が出した運転を認める決定を受けて先月再稼働し、今後も運転が続くことになります。
愛媛県内の住民11人はおととし5月、四国電力に対して伊方原発3号機を運転しないよう求める仮処分を申し立てました。
審理では地震に対する安全性やおよそ130キロ離れた阿蘇山で巨大噴火が起きた場合の影響などが争われ、去年7月、松山地方裁判所が申し立てを退けたため住民側が抗告していました。
15日の決定で高松高等裁判所の神山隆一裁判長は「新しい規制基準の下で原子力規制委員会が行った審査には合理性がある」として、松山地裁に続いて住民の申し立てを退けました。
一方で、住民の避難計画については「民間のバス会社に協力を要請できないことがあると明記されている点、海から避難する場合の輸送能力に懸念がある点、屋内退避の施設が不足している点で不十分だと思われる」と指摘しました。
伊方原発をめぐる仮処分では去年、広島高等裁判所が運転を認めない決定を出しましたが、四国電力が異議を申し立て、ことし9月、広島高裁の別の裁判長が決定を取り消しました。
これを受けて伊方原発3号機は先月27日、およそ1年ぶりに再稼働し、今後も運転が続くことになります。
住民側「いつの日か伊方原発を止めて廃炉に」
決定を受けて裁判所の前では、住民側が「不当決定」とか「司法は福島原発事故を忘れたか」と書かれた紙を掲げました。
仮処分を申し立てた住民の1人で「伊方原発をとめる会」の松浦秀人事務局次長代行は、「10万年以上、核の廃棄物を管理しなければならない原発を止めることができない裁判所に怒りを覚えている。この決定を乗り越えて、いつの日か必ず伊方原発を止めて廃炉にしていきたい」と話していました。
四国電力「妥当な決定」
(中 略)
伊方3号機 停止認めず 「破局的噴火 根拠不十分」
東京新聞 2018年11月15日
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを求め、愛媛県の住民が申し立てた仮処分の即時抗告審で、高松高裁は十五日、申し立てを退けた松山地裁決定を支持し、運転を認める決定をした。四国電は十月二十七日に3号機を再稼働させており、運転を継続する。
神山隆一裁判長は火山リスクについて、伊方3号機から約百三十キロ離れた熊本県・阿蘇カルデラで運用期間中に「破局的噴火」が起きる根拠は不十分で「立地が不適とは考えられない」とした原子力規制委員会の判断を追認した。また規制委が策定した新規制基準のうち、耐震設計の目安となる地震の揺れ(基準地震動)に関する定めに合理性があると判断。3号機は基準に適合し「最新の科学的、専門技術的知見に照らしても相当」とした。
一方で避難計画について「住民の輸送能力や放射線防護施設の規模が不十分」と指摘し、改善を求めた。
伊方3号機を巡っては広島高裁が昨年十二月の仮処分決定で、阿蘇カルデラで破局的噴火が起きた際の火砕流到達のリスクを指摘し、運転禁止を命令。しかし今年九月の異議審決定で同高裁が覆し再稼働を認めた。昨年七月の松山地裁決定は、国内最大級の活断層「中央構造線断層帯」の近くに立地する伊方原発の基準地震動について、震源モデルを適切に考慮するなどし不合理な点はないと指摘。火山についても約九万年前の阿蘇カルデラ噴火の火砕流が、同原発がある佐田岬半島で確認されたとの知見はなく、運用期間中に危険性がないことは相当の資料で立証されたとし、申し立てを却下した。
<伊方原発> 四国電力が愛媛県伊方町に持つ計3基の加圧水型軽水炉。1977年に運転を始めた1号機、82年開始の2号機(いずれも出力56万6000キロワット)は、巨額の安全対策投資に採算が合わないとして廃炉が決まった。3号機は94年に運転を開始。プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料によるプルサーマル発電を行う。