元内閣府原子力安全委員会委員の武田邦彦氏は、原発の耐震限度はおおむね400ガルから600ガル程度であるとして、かねてから「原発は震度6に持たない」と述べています。同氏は福島原発の直後に東北地方の原発を回りその全てで破損事故を起していることを確認しています。
福島原発事故ではたまたま津波が襲いましたので、津波が事故の原因であったことにされて(その対策が宣伝されるなかで)、肝心の耐震性の問題は隠されてしまいました。新審査基準でも原発が安全上準拠すべき「基準地震動」は別に謳わずに、各原発毎に400ガルとか600ガルというようなチマチマした値で論議が進められています。それは既設の原子炉の構造(=耐震性)のままで再稼動させるという基本方針があるからで、そのための辻褄合せに過ぎません。
(ちなみに地球の引力=重力加速度は980ガルなので、400~600ガルとは、地震時に構造物に対して引力の40~60%程度の力が横向きに掛かるという意味です)
(ちなみに地球の引力=重力加速度は980ガルなので、400~600ガルとは、地震時に構造物に対して引力の40~60%程度の力が横向きに掛かるという意味です)
大飯原発の運転差し止めを出した福井地裁判決(14.5.21)は、関西電力が700ガルを超える地震が到来することはまず考えられないと主張したのに対して、平成17年以後10年足らずの間に全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が到来しているとして退けて、「大飯原発に1260ガルを超える地震は来ないと確実に想定することは本来的に不可能である」と述べています(1260ガルはメルトダウンを起す地震動)。
いつものように音声ブログの方が詳細に説明していますので、アクセスしてください。
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原発を再開する前の準備(5)
津波が来なければ原発は安全なのか?
武田邦彦 2015年4月1日
音声ブログURL
東北大震災が起こったとき、福島原発と同程度の揺れを経験したのは、原発だけではなかった。震度7の宮城県などを別にすると広い地域で震度6を記録した。そこには民家も東北新幹線も石油工場も、さまざまな建物があった。
その中で周辺の民家に影響を与えるような大規模な破壊や毒物の流出などがあったのは、もっとも堅牢と言われていた原発だったのはなぜなのだろうか? 津波に襲われた福島原発だけが破壊したのではなく、福島第二と東海第二も全停電して爆発寸前まで行き、女川原発は高台にあったが地震で破壊された。
原発の耐震性はおおむね400ガルから600ガル程度であるが、東北大震災の揺れは3000ガル近かった。そしてマグニチュード9という地震は確かに大きいが、福島、茨城などの揺れは普通の大きな地震と同じ程度の揺れだった。
新幹線も脱線せず、民家も倒壊せず、普通の工場も軽微の損害ですんだのに、なぜ原発は大きく損傷したのだろうか? これを「想定外」とか「津波」などとごまかしていたら、また大事故が起きる。
加速度の計算はややこしいので、とかく素人はだまされるが、簡単に言うと現在の世界の原発は震度5の耐震性で作られていて、「震度6が来る可能性のあるところには原発は建てない」という考え方である。
活断層を調べるという原発独特の立地基準などもそれを示していて、高層ビル、新幹線なども活断層の調査はしない。つまり、「原発は現在の日本の建造物のうち、もっとも地震に弱い構造をしている」といえるのである。
福島事故後、規制を厳しくしたと言われるが、規制というのは技術を伴って居る場合に有効であり、技術がなければ規制など厳しくもできないし、実際厳しくなっていない。
だから原発を再開する準備はされていないことになる。福島の経験からは耐震性は3000ガル程度が必要だが、現在の補強は浜岡原発の1200ガルぐらいがせいぜいで、3000ガルにしたら原発のコストは最悪になる。 (執筆 平成27年3月27日)