あれだけ深刻な原発事故を引き起こし、いまも10万人を超える避難者を抱えながら大量の放射能で空と海を汚染続ける日本ですが、まだ4年しか経っていないのにまっしぐらに原発再稼動に向かっています。
原発再稼動数に関する基本的な数値を決めるところが経産省総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会で、経産省は委員14人中、再稼動賛成派の委員が多数を占めるように委員会を構成しています。
3月30日に開かれた第5回の小委員会の様子について、東洋経済の記者が、委員会の中に少数ながら配されている良心的な委員の発言を中心に紹介しています。
橘川武郎・一橋大学大学院教授、高村ゆかり・名古屋大学大学院環境学研究科教授、河野康子・全国消費者団体連絡会事務局長などです。
しかし、経産省=小委員会の目指すところはベースロード電源比率を原発25%で、事故前と変わらないレベルに維持することにあるといいます。
原発の事故は一度起きればもう取り返しのつかないものであり、日本はまさにそのことを眼前にしているのに、何故こうしたことになるのでしょうか。
経産省が省益(多数が原子力関連に天下りする)に走ることが先ず許されないことですが、良識を発揮すべき委員たちまでなぜそれに同調するのでしょうか。学者たちが矜持を捨てて役人の覚えを「めでたくしておきたい」と思っているのは情けない話です。
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経産省の狙いは「原発比率を下げないこと」
公約に反し、原子力の比率を高めに誘導
中村 稔 :東洋経済 2015年04月10日
(編集局記者)
「こんなことは言いたくないが、この委員会(の議論)を聞いていると、どうしても原子力の比率を上げたい、上げたいという雰囲気が伝わってくる」
橘川武郎・一橋大学大学院教授(4月から東京理科大学大学院教授)はそう苦言を呈した。3月30日に経済産業省が開いた総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会(委員長は坂根正弘・小松製作所相談役)の第5回会合でのことである。
この小委では1月30日の第1回会合以来、2030年の望ましいエネルギーミックス(電源構成)について有識者の委員14人が議論している。2010年度には火力61%、原子力29%、再生可能エネルギー10%(うち水力9%)だった。東日本大震災後に原子力発電所が相次いで停止していった結果、2013年度は火力88%、原子力1%、再エネ11%(うち水力9%)となっている。これを長期的にどうするか。
経産省の狙いは原子力比率25%程度か
第5回会合では、事務局の経産省が「各電源の特性と電源構成を考える上での視点」と題した資料を提出。この中で、地熱、水力、原子力、石炭火力をベースロード電源(発電コストが低廉で、安定的に発電できる電源)と定義したうえで、ベースロード電源比率を大震災前と同水準の6割程度に維持することが国際的に見て望ましいとの考えを示した。
経産省は、2030年における地熱と水力の導入見込み量について、それぞれ最大で98億キロワット時、953億キロワット時と推計している。仮に2030年の総発電量が震災前の2010年度並み(約1兆キロワット時)とすると、両者合わせて約10%。また、石炭の比率は現在30%だが、震災前は25%程度。二酸化炭素排出量の多さを考えると、増やすのは限界がある。となると、ベースロード電源比率6割を維持するには原子力の比率を少なくとも25%前後にする必要がある。
経産省の狙いは、原発比率25%程度にあるのだろう。原発比率をストレートに出さず、ベースロード電源比率という形でひとくくりにしたのは、4月12日の統一地方選への影響を考えたからかもしれない。原発比率25%だとすると、震災前からほとんど下がらないことになる。「原発依存度をできるだけ下げる」というのが政府の公約なのだから、国民の多くは納得しないだろう。
再エネ比率にしても、第4回会合で経産省が示した導入見込み量で考えると20~25%程度となる。つまり原発比率を下回る可能性がある。橘川氏ら一部の委員は再エネ比率30%以上(原発比率は15%以下)を主張するが、経産省主導で原発推進寄りに偏った小委メンバーの中では多数意見とは言えない。「どうしても原子力の比率を上げたいという雰囲気が伝わってくる」(橘川氏)のはそのためだ。
しかし、原発比率の高いフランスを含め、欧州主要国が2030年の再エネ比率の目標を軒並み40%以上に置いている中、日本の目標が20~25%ではあまりに見劣りする。「再エネの最大限導入」を標榜する政府の本気度が疑われる水準と言えるだろう。
原子力のメリットばかり主張しリスクを明記せず
そもそも、経産省が議論の前提とする、各電源の特性や位置づけ自体に多くの疑問がある。
経産省の資料では、原子力は「低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置づけている。エネルギー政策の基本的視点とされる「3E+S」(3Eは安定供給、経済効率性、環境適合、Sは安全性)の3Eにおいて、非常に高く評価した表現となっている。
しかし、原発はひとたび災害や事故が発生すると、現状がそうであるように、出力が一定どころか、急速に低下し、長期停止してしまう。「優れた安定供給性」には強い疑問がある。委員の高村ゆかり・名古屋大学大学院環境学研究科教授は、そうしたリスクを原子力の運転特性として明記すべきと事務局に要求した。
原子力はいったん事故が起きれば、国民の生命をも危険にさらすリスクがある。これは東京電力福島第一原発事故という歴史的事実に基づくことであり、「他の電源とは異なる最も大きな特徴」(委員の河野康子・全国消費者団体連絡会事務局長)である。放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分もまったく先が見えない状況で、原発敷地内での中間貯蔵にも限界があり、危険性がつきまとう。
原子力のこうしたリスクを特性としてあえて明記せず、プラス材料ばかりを並べ立てる経産省のやり方は、議論をゆがめてしまうとともに、政府への不信感を一段と募らせることになる。
「運転コストが低廉」というのも、燃料(ウラン)コストが比較的安いという意味にすぎない。重大事故に備えた安全対策コストや福島事故を含めた事故リスク対応費用、さらに廃炉費用や廃棄物処理費用などを含めた発電コスト全体で本当に割安なのかは大きな疑問が残ったままだ(現在、小委の発電コスト検証ワーキンググループで再検討中)。
“ベースロード電源”の概念自体が過去のもの
ベースロード電源について経産省は地熱、水力、原子力、石炭の4つを挙げるが、橘川氏は「3.11以降、運用の実態としてLNG(天然ガス)火力がベースロードに入ってきたことは紛れもない事実」と指摘する。そして、電力会社の国際提携による交渉力強化など、どうやってLNGの調達コストを下げるかを考えることこそが前向きな議論であり、3.11を踏まえた新しい発想だと主張する。
経産省が必要性を示唆する「ベースロード電源6割確保」が、本当に国際標準的かという点にも疑問がある。欧米のベースロード電源の比率は確かに現在6割程度だが、1990年にはともに8割以上あったものが次第に低下してきた結果だ。今後についても、国際エネルギー機関(IEA)では2030年に5割程度、40年に4割台へ低下する見通しを示している。
「そもそも”ベースロード電源”という概念自体が過去のものになりつつある」と、自然エネルギー財団は2月のレポートで述べている。風力や太陽光などの再エネの価格低下が進み、そうした変動型の再エネを電力系統に安定的に取り込めるような技術が発達しつつある中で、ベースロード電源の必要性が低下しているからだ。
再エネのコストの考え方にも問題がある
“九電ショック”とも呼ばれた昨年の太陽光発電の接続保留問題を機に、国内では再エネの接続可能量が検討された。だが、「再エネの受け入れに技術的上限はないというのが国際的な共通認識。接続可能量などと言うのは日本の再エネ導入技術の敗北を意味する」と、関西大学システム理工学部の安田陽准教授は指摘する。
また、再エネのコストを議論する際には、地域間連係線など送電線の増強費用が再エネのコスト高要因として問題視されている。だが、発送電分離を基本とする電力システム改革の基本的考え方に立てば、系統増強費用を再エネ固有のコストに含めることは不適切とも考えられる。
固定価格買い取り制度(FIT)の賦課金による電気料金の高騰がことさらに強調されるが、再エネの普及とコスト削減の好循環を通じ、長期的には賦課金が下がり、国民負担も収束していく。FITが“将来世代への貯金”とも言われるゆえんだ。経産省はそうした将来見通しのシミュレーションを出す必要があるだろう。そうすれば国民のFITに対する見方が変わる可能性がある。
さらに、温暖化ガス対策としても重要なのは省エネの拡大だ。技術革新やムダ削減などを通じて省エネを拡大することで、エネルギーミックスの分母となる総発電量が減る。ゼロエミッションである再エネの比率向上にもつながる。自然エネルギー財団では、2030年度までに10年度比で30%の電力消費削減が可能と試算している。「省エネやエネルギー効率化は最も安価でクリーンな燃料」であるとの再認識が必要であり、今後の小委の議論でどこまで踏み込めるかが問われる。