NHK NEWS WEB 2015年11月8日
先月、地元自治体が再稼働に同意した愛媛県にある伊方原子力発電所で地震に伴う事故が発生したことを想定した国の防災訓練が始まり、住民と、国や県、四国電力など100余りの機関が参加して避難の手順などを確認しました。
この訓練は国が年に1回行っているもので、ことしは、先月、愛媛県と地元の伊方町が再稼働に同意した、四国電力・伊方原発3号機での事故を想定して行われています。
震度6強の地震の影響で原子炉を冷やす機能が失われるという想定で、午後3時半すぎに、安倍総理大臣が訓練のための「原子力緊急事態宣言」を行い、原発の半径5キロ圏内の住民に避難指示を出しました。
半島の付け根付近に伊方原発が立地している佐田岬半島の先端部、三崎地域では、地震の影響で道路が寸断されたという想定で、高齢者や介助が必要な人たちを海上保安部の船で避難させる訓練が行われました。
また、伊方町内にある高齢者福祉施設では、体の不自由な入所者を避難させる訓練が行われ、入所者に見立てた職員を車いすのまま自動車に乗せて1時間半余りかけて受け入れ先の施設に避難させました。車いすに乗って移動した職員は「お尻や首などが痛くなり、ねんざするおそれもあると感じました。体への大きな負担に耐えられる人でないと、避難はリスクが高いと思いました」と話していました。
一方、伊方原発では、3号機の再稼働に向けて新たに建設した「緊急時対策所」を使った訓練が行われ、四国電力の職員らが緊急時の対応を確認しました。原子炉格納容器に上から水をかけることができる大型のポンプ車を使った放水訓練や、放射線量が高くなった場所に入るロボットを操作する訓練も行われました。
訓練は、住民や100余りの機関の担当者ら合わせて1万5000人近くが参加して9日も行われ、9日は佐田岬半島の住民の一部が船で大分県まで避難する訓練が初めて行われます。伊方原発3号機が早ければ来年の春にも再稼働する見通しとなるなか、訓練を通じて広域の避難計画の実効性などが検証されます。
首相らも対応確認
総理大臣官邸には8日午後安倍総理大臣や関係閣僚が集まり、安倍総理大臣が「原子力緊急事態」を宣言して、原発から5キロ圏内の住民などに対し、甲状腺被ばくを防ぐ「安定ヨウ素剤」を服用したうえで避難するよう指示しました。
このあと、政府が設置した対策本部では、安倍総理大臣が関係閣僚などから事故の状況や住民の避難状況について報告を受けました。これを受けて安倍総理大臣は、「事故の拡大防止と早急な事態の収束、国民の皆さんの安全を第一に、自治体および関係機関が連携して対策を実施する必要がある。迅速かつ的確な対応に全力を尽くすよう指示する」と述べ、住民の避難など緊急時の対応を確認しました。
対岸の大分でも訓練
愛媛県の伊方原子力発電所の事故を想定した国の原子力総合防災訓練に合わせて、原発からおよそ45キロの距離にある大分市佐賀関では住民が屋内退避の手順を確認する訓練が行われました。
訓練は午前8時半に震度6強の地震で伊方原発の3号機の原子炉が自動停止したという想定で始まり、午前中、大分県庁では愛媛県から事故の情報を入手したり、ポイントを増やして各地の放射線量を測ったりする手順が確認されました。
午後は伊方原発から県内で最も近いおよそ45キロの距離にある大分市佐賀関で大分県が住民を対象にした屋内退避の訓練を行いました。このうち小黒地区では、防災行政無線の屋外スピーカーから避難の呼びかけが流されると、グラウンドゴルフをしていたおよそ20人の住民が次々に近くの公民館に避難して窓を閉めたり換気扇を止めたりしていました。
参加した66歳の女性は、「伊方原発がある佐田岬半島はとても近いので、事故が起こらないかいつも不安に思っています。きょうは参加できてよかったです」と話していました。
9日は愛媛県からおよそ70人の住民が実際にフェリーなどで大分市に避難する初めての訓練が行われます。
伊方原発 避難の課題は
伊方原発を巡っては、地理的な条件から、避難の課題が指摘されています。伊方原発は海に細長く突き出した佐田岬半島の付け根にあり、原発より西の半島側におよそ5000人が住んでいます。
内閣府によりますと、土砂崩れなどで陸の避難経路になっている国道が通れなくなった場合、半島内の港から船を使って対岸の大分県へ避難を行うなどの対応が必要です。さらに、地震や津波によって港なども使えなくなると孤立するおそれがあり、その場合、住民は半島内の学校や集会所などでの屋内退避をするとしています。
屋内退避が可能な施設は半島内に39か所あり、合わせて1万3000人近くを収容でき、伊方町などはおよそ5000人が1週間生活できる食料や物資を供給するとしています。
ただ、39の施設のうち、放射性物質を取り除くフィルターや外気が入らないための設備など、放射線防護の対策を講じた施設は4つしかなく、収容可能な人数は合わせて468人です。
内閣府は、このほかの施設でもコンクリートでできているなどとして、問題はないとしていますが、今後必要な対策を検討することにしています。