今回の小出裕章ジャーナルは、四国愛媛県西端の半島佐多岬の付け根にある伊方原発の再稼動問題を取り上げました。
半島の住民5千人は玄界灘を船で越えて九州方面に逃げるしかありませんが、波が高くて船を港に着けられないこともあるし、津波が来るときには勿論船は来ません。結局そのときには住民は見捨てられることになりそうです。
そういう原発でも平気で再稼動させるという精神が理解できません。
聞き手の西谷氏は、九州や四国などの再稼動反対の人たちが集まりにくいところで先ず稼働させて、稼動実績を積み重ねようとしているのではと問題提起しました。
追記 文中の太字強調は原文に従っています。また原文では小出氏には「さん」がついていましたが、この紹介文では外しました。
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伊方3号機再稼働か(小出裕章ジャーナル)
~第151回 小出裕章ジャーナル 2015年11月28日
「既成事実を積み重ねていって、大飯でも高浜でも順番にやっていくという、そういうやり方を彼らが選んでいるということだと思います」
西谷文和: 今日のテーマはですね、「伊方原発3号機、年明けにも再稼働か」と題してお送りしたいと思うのですが。伊方原発については、このコーナーでも何回も取り上げましたが、小出さん、残念なことにですね、愛媛県の中村知事、伊方町の山下町長、伊方原発3号機の再稼働に同意を示したが、これのニュースを聞かれて、小出さんご感想はどんなもんでしょうか?
小 出: はい、もちろん残念ですけれども、予想通りというか、中村さんが少し頑張るような素振りを見せていたわけですけれども、それも結局は自分の責任を逃れられればそれでいいということだったわけで、「あ、やっぱりな」と思いました。
西 谷: 私のような素人から見ればですね、鹿児島県の川内原発から入ったでしょ。そして伊方原発が続きますよね。これね大阪や東京や神戸や広島や、この原発に反対している人はなかなか行けないじゃないですか、こんな遠い所に。これ、大飯原発やったら行けるんですよ。だから、その国はですね、反対運動が起こりにくい所から無理やり稼働させてですね、既成事実にしたいのではないのでしょうか?
小 出: もちろんおっしゃる通りだと思います。もうやったぞやったぞという既成事実を積み重ねていって、大飯でも高浜でも順番にやっていくという、そういうやり方を彼らが選んでいるということだと思います。
西 谷: この国って結構、役人の世界もそうなんですが、この横並び志向ってあるじゃないですか? AさんもやったからBさんもやったからって、それでね次C、Dがやりやすくなりますもんねえ。この最初のやっぱり川内原発、ここでものすごく皆さん頑張ったんですけど、やっぱりここ大きかったでしょうかね。
小 出: はい。川内の方々、ずいぶん頑張ってくださったし、伊方の方々だって頑張ってくださってきたわけですけれども、それでも国がやると決めてることなわけですし、いわゆる私が原子力マフィアと呼んでいる国や原子力会社、原子力産業、ゼネコンを含めた土建屋さん、マスコミ、全てが一体となって、今再稼働に動いているわけですから、容易なことでは止められないだろうと思います、残念ながら。
西 谷: 小出先生がおっしゃるからこの言葉重いわけですが、小出さんは伊方原発、裁判でずっと戦っておられましたよね?
小 出: そうです。
西 谷: 佐田岬の付け根に原発があるじゃないですか? ということは、半島の人は、これ逃げられないんじゃないですか?
小 出: 事故が起こったら、逃げることはできません。唯一、逃げられるとすれば、船に乗って大分県に逃れるという、それぐらいのルートしかありません。
西 谷: でもその船って、津波で流されてるでしょ?
小 出: もちろん、そうです。そんなたくさん船が来てくれるわけもありませんから、結局、住民の避難というのはできないことになると思います。
西 谷: 自衛隊のヘリで運ぶ言うても大した人数じゃないですもんねえ。と言うことは、もう切り捨てになるんでしょうね、実際は。
小 出: はい。川内の場合もそうですけれども、鹿児島県の知事自身が30キロ圏の避難なんかできないと、初めからもう言ってしまっているわけであって、避難計画ができないことはもう原子力発電所の事故を考えれば、もう仕方のないことだし、避難計画も作れないようなものは、本当はもうそれだけの理由で受け入れてはいけないということだと私は思います。
西 谷: ただ地元の方々はね、やっぱり長年、この原発産業でもういわゆる麻薬のように打たれてるわけですから。だから地元の方を責めるというのも非常に酷ですよねえ。
小 出: はい、そうなのです。長い間、原子力に依存して町を作ってきてしまったわけですから、原子力がなくなってしまって交付金、固定資産税等がなくなると、間違いなく財政自身が崩壊してしまうという、そんな状態になっているわけです。ですから簡単には、その地元の人達を責めるというようなことはできないと思います。
西 谷: そうですねえ。本当なら鹿児島県ってすごいおいしい魚が獲れるし、愛媛県もそうですし、みかんもできますから。そういうその本当に村の産業でね、本当は村おこしができたのに、それさえも許さない原発なんでしょうね。
小 出: まあそうですねえ。日本というこの国が、いわゆる1次産業を潰して、工業化すれば豊かになれるんだというふうに思ってしまったわけですね。
次々と農業もつぶされ、漁業もつぶされてきて、結局地方が過疎になって、東京・大阪というような所にみんな労働者として吸い上げられてくる。結局、地方は立ち行かなくなって、原発にすがざるを得ないという、そんなことにされてきてしまったわけです。
もう一度やはり、国というのはどんなものなのか、人々が生きるということはどういうものなのかということを考え直さなければいけないのだと私は思います。
西 谷: その上にTPPですよ。こんなこと来たらもうねえ、もう村がつぶれちゃいますし。私、農業、農産物とかエネルギーは地産地消でないといかんと思うんですけど。
小 出: そうですね。農業はもちろんそれが一番いいですし、エネルギーだって、本当はそれがいいはずなのであって、都会で使う電気を過疎地から長い送電線で送るという、そんなやり方自身が間違えていたんだと気が付かなければいけないと思います。
西 谷: 長い送電線を使ったらロスするでしょ?
小 出: もちろんです。送電ロスは、たぶん10パーセントとは言いませんけれども、それに近いロスをしてると思います。
西 谷: 例えば、その自然に優しい発電所が近所にあれば、そこで出た熱を供給して、高ジェネレーションと言いますけど、そういうことも都会でできますのに、原発は田舎にあるからできないですよね、それも。
小 出: そうです。今例えば火力発電所、高ジェネのがありますけれども、発生した熱の8割近くまで使えるというようになっているのです。
でも、原子力発電所だけは今、西谷さんがおっしゃって下さったように、都会に建てることができませんので、高ジェネをやることもできない。おまけに、もともとの発電効率が大変低いので、せいぜい3割ぐらいの熱しか使えないというですね、まことにバカげた装置になっているわけです。
西 谷: もう先生からその話聞いて、びっくりしました。僕、なんとなく原発は効率いいもんやと思ってたら、一番悪いんですよね?
小 出: 一番悪いです。
西 谷: もうだから、都会につくれない効率一番悪い、コストも高い、CO2も冷やすためにものすごい出さないかん。ええとこないですよねえ。
小 出: はい。何にも良いことないのですけれども、自民党の人達が何を思ってるかと言うと、原子力を放棄してしまうと、核兵器をつくる能力も無くなってしまうから、やはり、原子力は止められないと彼らが言っているわけです。
西 谷: 石破さんもね、潜在的にって言ってましたもんね、能力持ってる方がいいとおっしゃいましたもんねえ。その自民党の話が出ましたが、安倍首相がこの伊方のことでですね、「万が一、事故があった場合は国が責任を持って対処する」と言ってはるのですが、これを聞かれて、先生ご感想は?
小 出: 今、福島第一原子力発電所の事故が起きて、国が責任を持って、どんな行動をとってるかと言うと、放射線管理区域にしなければいけない汚染地に、赤ん坊も含めて子供達を捨ててしまった。
一度は逃がれた人達も帰れ、2017年4月以降は、もう補償金も出さないぞということを安倍さんが率いる国がやっている。次に川内原子力発電所、伊方原子力発電所で大きな事故が起きれば、やはり周辺の人々が捨てられてしまうということになるのだと思います。
西 谷: 20ミリシーベルトに勝手に引き上げたのも国ですもんね?
小 出: そうです。
西 谷: そんな中でですね、この伊方原発にちょっと戻りますが、これ伊方原発3号機というのはプルサーマルができる原子炉ですか?
小 出: そうです。
西 谷: より危ない原子炉になりますよね?
小 出: もちろんです。どんな機械も、はじめ設計をしていくわけですけれども。例えば、石油ストーブ、ご家庭で使ってる方もいらっしゃると思いますが、石油ストーブというのは灯油を燃やすということで設計してストーブをつくるのですね。その灯油を燃やす石油ストーブで、もしガソリンを燃やそうとすれば火事になってしまう。
西 谷: はい、爆発するでしょう。
小 出: 灯油だってガソリンだって、もともとは原油という同じ物から精製して分離した兄弟のようなもんですけれども、それでも、ちょっと性質が違えば、石油ストーブが火事を起こしてしまうということになるわけですね。
今日、使ってる原子力発電所というのは、ウランを燃やすというために設計された原子炉です。それで、無理矢理プルトニウムという物を燃やそうとしているわけで、危険なことになってしまいます。お金もかかってしまいます。
危険性が増して、金銭的にも損をするということはわかっているわけですけれども、それでもなおかつ、もうやらざるを得ないというところに日本の原子力が追い込まれてしまっているわけです。
西 谷: もう一度確認しますが、ウランの毒性とプルトニウムの毒性は、20万倍も毒性がプルトニウムは強いと聞きましたが。
小 出: はい、おっしゃる通りです。
西 谷: 20万倍ですよね? 20倍じゃなくて?
小 出: 20万倍です。
西 谷: そんな危険なプルトニウムを燃やすプルサーマル計画ができる伊方の原発3号機が再稼働するというのが現実なんですね?
小 出: そうです。
西 谷: はい、よくわかりました。小出さん、どうもありがとうございました。
小 出: いえ、こちらこそありがとうございました。