「希望の牧場・ふくしま」は福島第1原発から約14キロ北西の避難地域(浪江町)にある牧場で吉沢正巳(61)さんが運営しています。そこには被曝後に出された国の殺処分命令を拒否して、被曝牛330頭がいまも飼われています。勿論肉牛には出来ないので、ひたすら牛の余生をそこで送らせるのが目的です。
東日本大地震が起きたとき、吉沢さんは南相馬市のスーパーで買い物をしていました。それから必死で牧場に戻り、給水用の電源が失われたので1週間はそこに泊まりこみました。その後は二本松市の自宅から片道2時間かけて牧場に通いましたが、毎回、避難地域への立ち入りを防止する警官たちと怒鳴りあいをしながら、ともかくも牛の命をつなぐために侵入しました。
それから4年8ヶ月、監視突破の苦労はなくなりましたが、330頭分の牛の飼料の確保、とりわけ冬の分を確保するのは何よりの難問題になっていました。
宮城県白石市は同市で保管している汚染牧草(キロ100以上8000以下ベクレル)を「希望の牧場」の飼料にしてもらおうと、14日、約1400万円をかけて牧草ロール全量(畜産農家が保管していた835個、約260トン)を搬入しました。
それに対して浪江町長は20日、白石市を訪れて「他自治体から汚染廃棄物の搬入誘発につながる恐れがある」などと抗議しました。
「希望の牧場・ふくしま」の代表吉沢正巳さんは20日、宮城県庁を訪れ、放射性物質を含む牧草や稲わらの提供を各市町村に認めるよう求める要請書を提出しました。
そして記者会見で、白石市の提供事業を「冬越しの貴重な餌で、市の英断に感謝する」と評価し、「牧草の行き場が見つからない自治体も助かり、何より被曝牛の命を救う合理的な処理方法だ」と理解を求めました。
それとは別に、宮城県栗原市金成では20日、畜産農家菅原実悦さん(67)が汚染牧草を約150キロ南に離れた「希望の牧場」に提供するため、運送会社のトラックに積み込みました。同牧場に初めて搬出する菅原さんは「対策を講じない行政への抗議の意味を込めた」と話しました。
「希望の牧場・ふくしま」をめぐっての3つの記事を紹介します。
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<汚染牧草> 浪江町長、白石市に抗議
河北新報 2015年11月21日
東京電力福島第1原発事故で発生した放射性物質を含む汚染牧草をめぐり、福島県浪江町は20日、町内の牧場に牧草を持ち込んだ白石市に正式に抗議した。これに対し受け入れた牧場側は、各市町村に牧草提供を認めるよう宮城県に要請。原発事故から4年半を経てなお、汚染牧草が被災地の重荷となっている実態が浮き彫りとなった。
福島県浪江町の馬場有町長は20日、放射性物質を含む牧草を被ばく牛の餌として「希望の牧場・ふくしま」(福島県浪江町、南相馬市)に市の事業として運んだ白石市を訪れ、「他自治体から汚染廃棄物の搬入誘発につながる恐れがある」などと抗議した。
抗議文は「町民の帰還意欲の低下を招き、町や福島県全体への風評など深刻な影響が懸念される」と指摘。「同じ東日本大震災と原子力災害を被った自治体として、著しく配慮を欠いた行為」と批判した。
白石市役所で非公開の関係者による意見交換が約40分間行われた。国と東電に原発事故の責任があるとの認識は一致したが、汚染牧草を「飼料」とみなす白石市、「放射性廃棄物」と訴える浪江町の主張は平行線をたどったという。
終了後、馬場町長は「白石市から事前の通告も相談もなく、大変遺憾。他の自治体から浪江町で受け入れたと思われると残念だ」と述べた。対応した佐々木徹副市長は「われわれの行動は違法ではない。人道的、動物愛護の観点から決断した」と話した。
市は14日、畜産農家が保管する1キログラム当たり8000ベクレル以下の牧草ロール全量(835個、約260トン)の運搬を終えた。事業費は約1400万円。
[希望の牧場・ふくしま]福島第1原発から約14キロ北西の避難地域にある牧場。広さ約30ヘクタール。震災後、吉沢正巳さんらが一般社団法人を設立し運営する。国の殺処分命令を拒否した畜産農家の被ばく牛330頭を「原発事故の生き証人」として調査研究目的で飼育する。食用出荷はできないため、餌代など運営資金は募金などで賄っている。
<汚染牧草> 牧場代表「宮城県は容認を」
河北新報 2015年11月21日
福島第1原発事故で被ばくした牛を飼育する「希望の牧場・ふくしま」の代表吉沢正巳さん(61)が20日、宮城県庁を訪れ、放射性物質を含む牧草や稲わらの提供を各市町村に認めるよう求める要請書を提出した。
記者会見した吉沢さんは汚染牧草を牧場に搬出した白石市の事業を「冬越しの貴重な餌で、市の英断に感謝する」と評価。「牧草の行き場が見つからない自治体も助かり、何より被ばく牛の命を救う合理的な処理方法だ」と理解を求めた。
吉沢さんは「他にも牧場への搬送に関心を寄せる自治体がある」と説明。「330頭の牛を見捨てることはできない。餌を集めるため闘い続けるしかない」と話した。
宮城県は汚染牧草などの搬出をめぐり、市町村に「早期帰還や復興に取り組む福島県や自治体の動きを阻害しかねない」として自粛を要請中。横山亮一県農林水産部次長は「同じ被災県として容認できない。全て福島に集約すればいいという流れを招きかねない」と懸念を示した。
<汚染牧草> 「行政へ抗議」提供決意
河北新報 2015年11月21日
宮城県栗原市金成では20日、畜産農家菅原実悦さん(67)が汚染牧草を約150キロ南に離れた「希望の牧場・ふくしま」に提供するため、運送会社のトラックに積み込んだ。同牧場に初めて搬出する菅原さんは「対策を講じない行政への抗議の意味を込めた」と話す。
同市金成の採草地で午前9時ごろから約50分かけ、汚染牧草120~200キロのロール36個を農機でトラックの荷台に積んだ。菅原さんは所有するほかの157ロールも「年内をめどに順次、希望の牧場に運びたい」と話した。
汚染牧草はいずれも国の基準(1キログラム当たり100ベクレル)を超過するという。原発事故があった2011年の牧草のほか、草地を除染しても基準を超えた本年産の牧草も含む。
菅原さんは「国も市も対応が悪い。4年間も個人で管理している。行政や国民も畜産農家の窮状を知ってほしい」と訴える。提供の理由については「同じ牛を飼う者として殺処分は受け入れがたい。餌に困る希望の牧場を応援したかった」と語った。
「希望の牧場・ふくしま」に提供するために積み込まれる汚染牧草=20日、栗原市金成