2015年11月8日日曜日

なぜ政府は核燃料サイクルにこだわるのか (小出裕章ジャーナル)

 今回の小出裕章ジャーナルは、なぜ政府は技術的な見通しもなく、採算性も全くなく、それを実現させる意味自体がない核燃料サイクルにこだわるのか、がテーマです。
 そうまでしてこだわるのは将来核兵器を作ることを見すえているからではないかというのが、小出さんの見解です。そして一刻も早く断念すべきだと述べています。
 
 なお、文中の太線部は原文に従っています。また原文では「小出さん」となっていますが、転載するに当り 「湯浅」(氏)と整合するように「小出」(氏)に直しました。
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核燃料サイクルの現状
 「もんじゅは1兆円を超えるお金を既に投入しましたけれども、豆電球ひとつつけていないという実に馬鹿げた装置になってしまったのです」
〜第148回小出裕章ジャーナル  2015年11月07日
 
湯浅誠  今日は「なぜ、政府は核燃料サイクルにこだわるのか?」ということについて、小出さんにお話を伺います。小出さん、よろしくお願いします。
小 出 : はい、こちらこそよろしくお願いします。
湯 浅 : 今日のテーマ、「なぜ、政府は核燃料サイクルにこだわるのか?」ということなんですが、原発依存度を減らしていくっていうのであれば、核燃料サイクル必要ないということになるんだと思うんですが。どうなんでしょうかね?
小 出 : はい、おっしゃる通りです。核燃料サイクルというのは、原子力発電所で燃え尽きた使用済み燃料の中から、プルトニウムという長崎原爆になった材料を取り出して、それをもう一度原子炉で燃やすという、そういう構想を核燃料サイクルと私達は呼んできました。
    でも脱原発、つまりもう原子力をやらない、原子炉を動かさないというのであれば、そんなプルトニウムを取り出したところで使い道もないわけですから、全く意味のない作業だと思います。というよりは、むしろ原爆材料になってしまうようなプルトニウムという物質を使い道のないまま取り出してしまうということは、むしろ世界の安全にとって大変な脅威になるわけです
    すでに日本というこの国は、使用済み燃料をイギリスとフランスの再処理工場という所に送りまして、プルトニウムを分離してもらってきたのですが、その量は47トン、48トンというぐらいの量になっています。それで長崎型の原爆をつくろうとすれば、4000発もつくれてしまうというほどのプルトニウムをすでにもう持ってしまっているのです。
    でも世界から見れば、この日本という国、70年前まではアジアを侵略して大変な犠牲を生んだ張本人の国なわけで、そういう国が原爆4000発分ものプルトニウムをすでにもう持っているということ自体が脅威なわけで、日本というこの国は、使い道のないプルトニウムは保有しないという国際公約をすでにさせられているのです。
    そのためどうしょうもなくなって今、日本というこの国では、あり余っているプルトニウムをプルサーマルという、これを説明しようと思うと大変なのですが、普通の原子力発電所で燃やしてしまおうというような危険な行為をやらざるを得なくなっているのです
    そんな時にさらに、プルトニウムを生み出すなんていうことは、意味がないどころか自分で自分の墓を掘るというような馬鹿げた行為になってしまっています。一刻も早く核燃料サイクルなどというものは断念すべきだと思います
湯 浅 : 4000発分っていうのは、なかなかちょっと想像が及びませんけどもね…。実際に経済的にも技術的にも行き詰ってる核燃料サイクルがですね、ということで、新たな対応策ということが出てきてるということなんですが、どういう方法なんでしょうか?
小 出 :  核燃料サイクルの目玉は2つあります。ひとつは、使用済み燃料の中からプルトニウムを分離して取り出すという再処理という作業です。もうひとつは、取り出したプルトニウムを効率よく燃やす原子炉として、高速増殖炉というものを動かしたいということになっていたのです
    その高速増殖炉の方は、日本ではもんじゅという少し大きめの実験炉を造ろうとしてきました。ただ、もんじゅという原子炉は1兆円を超えるお金をすでに投入しましたけれども、豆電球ひとつつけていないという実に馬鹿げた装置になってしまったのです。
    それでもこの日本という国では「いや、いつかはもんじゅが動く。もんじゅが動く」と言って、誰も責任を取らないまま来てしまったわけです。今でもまだ日本というこの国では、もんじゅは動かすと言っているわけですけれども、実に金食い虫だし、意味のないようなことをやろうとしていると私は思います
    そして、もうひとつが再処理というものですが、日本はもともと先の戦争で負けましたので、原爆を造るような技術というのはもう持たせないということで、米国から占領中に規制を受けまして、再処理という力も全くなかったのです。
    そのため先ほど聞いて頂いたように、イギリスとフランスに頼んで、使用済み燃料の中からプルトニウムを取り出してもらうということをこれまでやってきたのです。しかしもし、日本という国が独自で原爆を造りたいと思うのであれば、イギリス・フランスなどに頼らずに自分でやはりプルトニウムを分離して取り出したいと、どうしても思うわけです
    そのため日本というこの国では、青森県の六ケ所村に巨大な再処理工場を造る。どうしても諦めずにそれを造りたいと、これまでやってきたわけです。しかし当初は7600億円だったと思いますが、程度でできると思っていた再処理工場、ほんとであれば、1997年には稼働を始めるはずだったものが、2015年になっても未だに稼働もしていませんし、すでに2兆2000億円あるいは3000億円、それを超えてお金を使ってしまっているという、そういう状態です
    今後もまだまだまともに動くはずがありませんし、仮にまともに動いたところで、イギリスやフランスに委託して再処理をしていた時に比べれば、倍も3倍もお金がかかってしまうというような再処理工場になっていまして、やればやるだけ経済的に損をするということになってしまっています。
    一刻も早く止めるというのが私は当然の選択だと思いますし、やろうとしてるのは日本原燃という、言ってみれば民間企業なのです。実質的には、日本の電力会社が共同出資して何とかもたせているわけですけれども、でも形式的には民間なわけですし、本当に金勘定を考えると言うなら、とうの昔に放棄していなければいけない工場です
湯 浅 : 3兆円ね…まあそれだけあれば、再生可能エネルギーも相当進んでるでしょうけどね。小出さん、今日もどうもありがとうございました。
小 出 : はい、ありがとうございました。