2016年6月14日火曜日

福島原発 凍土壁の1割以下が凍らない

 福島原発海岸側の凍土壁は、冷媒の循環を開始してから2ヶ月が経ちましたが、完全凍結はできそうにありません。
 地中に1mピッチで挿入された凍結管の中心から50センチほどが凍結の対象なので、その凍結に何ヶ月もかかる筈はありません。凍結しない理由は地下水の部分流速が速いためで、その部分についてはこの先も凍結しないと考えるべきです。
 
 10℃ 1グラムの水が0℃の氷になるためには、1グラム当たり90カロリー(融解熱80カロリー/グラム)の熱量を放出することが必要ですが、流速が速いと水が凍結する前にその区間を離脱してしまうからです。その地下水の限界流速は10cm/日以下であれば良好に凍り、70cm/日以上であれば凍らないということです。
 
 同原発敷地内の地下には元々阿武隈山系の地下水約1000トン/日が海に向かって流れていました。現在は凍りやすい部分から凍って凍土壁の90%以上が凍ったということなので、残る部分の流速は当然アップしています。
 そうなるともはや凍結させることは無理なので、東電としては凍らない部分の周辺にセメント系の材料を入れることを考えているということですが、小規模なトレンチでも止水には大変苦労しているので果たしてうまく行くのか、結果を見るしかありません。
 
(関係記事) 2014年6月18日 トレンチの水凍らず 凍結壁は無用の長物にならないか
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凍らない凍土壁に原子力規制委がイライラを爆発
「壁じゃなくて『すだれ』じゃないか!」
産経新聞 2016年6月12日 
 「本当に壁になるのか?壁じゃなくて、“すだれ”のようなもの」
 「壁になっているというのをどうやって示すのか? あるはずの効果はどこにあるのか?」
 東京電力福島第1原発で汚染水を増やさないための「凍土遮水壁」が運用開始から2カ月たっても、想定通りの効果を示さない。廃炉作業を監視する原子力規制委員会は、6月2日に開かれた会合でイライラを爆発させた。
 
 凍らない部分の周辺にセメント系の材料を入れるという東電の提案に対しても、規制委側は「さっさとやるしかない」とあきれ果てた様子。約345億円の税金を投じた凍土壁の行方はどうなってしまうのか。
 会合は、冒頭からピリピリと緊迫した空気が漂っていた。
 東電の担当者は2分間程度の動画を用意していた。凍土壁が凍っている証拠を視覚的にアピールするため、地中の温度の変化を動画でまとめていたのだ。
 ところが、規制委の更田豊志委員長代理は「温度を見せられても意味がない凍らせてるんだから、温度が下がるのは当たり前。動画とか、やめてください」とバッサリ。東電の担当者は遮られたことに驚いた様子で、「あ、はい、分かりました。はい。それでは…」と次に進むしかなかった。
 
■セメント注入、それでも「凍土壁」か?
 規制委側から質問が集中したのは、最初に凍結を始めた海側(東側)の凍土壁の効果だ。
 地中の温度は9割以上で氷点下まで下がったが、4カ所で7・5度以上のままだった。さらに、壁ができていれば減るはずの海側の地盤からの地下水のくみ上げ量が、凍結の前後で変わっていないことも判明した。
 更田氏は「『壁』と呼んでいるけれども、これは最終的に壁になるのか。壁じゃなくて『すだれ』のようなもので、ちょろちょろと水が通るような状態」と指摘した。
 
 地下水のくみ上げ量も減っていないことについて、「あんまりいじわるなことは聞きたくないが、これは当てが外れたのか、予想通りだったのか」と東電の担当者を問いただした。
 セメント系の材料を注入し、水を流れにくくする追加工事が東電から提案があったものの、これではもはや「凍土壁」ではなくなってしまい、仮に水が止まっても凍土壁の効果かどうかは分からなくなる。
 検討会はこの日、追加工事に加えて、凍土壁の凍結範囲を拡大し、海側に加えて山側も95%まで凍結する計画も了承した。だがそれは、凍土壁の効果や有用性を認めたというわけではない。「安全上の大きな問題はなさそう」だから、どうせ温度を下げるなら、早いほうがいいという合理的な判断だ。
 
■遠い「完全凍結」 根強い不要説
 最も注目すべきなのは、更田氏がこの日、山側もすべて凍らせる「完全凍結」について、「今のままでは、いつまでたっても最終的なゴーサインが出せない」と大きな懸念を示したことだ。
 規制委は当初から、凍土壁にはあまり期待していなかった。むしろその費用対効果などをめぐり「不要説」が出るなど、懐疑的な立場をとっていた。それでも計画を了承したのは、最も大きなハードルだった「安全性」を東電が担保すると約束したからだ。
 凍土壁のリスクは、完全凍結の状態で発生する。予想を上回る遮水効果が発現し、建屋周辺の地下水が急激に低下した場合、建屋内の汚染水と水位が逆転して汚染水が環境中に漏れ出す危険がある。
 このため、東電は地下水の流れで下流側にあたる海側の凍土壁から段階的に凍結させ、水位の低下を防ぐ計画だったが、仮に海側の壁が「すだれ」の状態のまま上流の山側を完全凍結すれば、水位がどんどん下がっていく可能性がある。
 東電は計画で、山側を完全凍結して遮水効果が80%以上になった場合、水位逆転の危険を回避するためいったん凍結をやめるとしているが、この「80%」を正確に判断するすべがないというのが現状だ。
 「凍土壁の遮水性を示せない限り、このまま膠着状態になる可能性がある」。更田氏は、はっきりとそう指摘している。
 
 安全上のリスクを抱え、膨大な国費をかけながら、なぜ凍土壁を推進しなくてはならなかったのか。仮に失敗した場合、どこが責任を取るのか。今後も目が離せない状況に変わりない。(原子力取材班)
 
《用語解説》凍土遮水壁 凍土壁は、1~4号機の建屋周辺の土壌を取り囲むように長さ約30メートルの凍結管を埋め込み、マイナス30度の冷媒を循環させて地下に総延長約1500メートルの氷の壁をつくる工法。この巨大な「壁」で建屋に流れ込む地下水をせき止め、汚染水の発生そのものを抑えるのが狙い。