福島原発事故後の法改正で原発稼働は原則40年と定められていますが、原子力規制委はそれを60年に延長できる道を開き、1000~2000億円程度の費用をかけて周辺の装置(原子炉や格納容器は補強は不可能)を補強すれば可能なようにしました。
それにしても装置の寿命が40年から一挙に60年に延ばせるというのは、あまりにも工学的常識から逸脱しています。さすがにこの制度がスタートした当初は老朽原発の延長は「相当困難ではないか」(田中委員長)としていましたが、実際には運転延長第一号の高浜原発1、2号機の60年までの運転延長審査は規制委によりまさに粛々と進められ、それが通った後は、他の老朽原発の延長申請にも同様に対応するものと見られています。
肝心の原子炉の中性子照射劣化の確認と20年後の脆性遷移温度の見極めの手法などはいまだにオープンにされていませんが、そもそも批判に耐えるものが確立されているのでしょうか。
北海道新聞が、「高浜老朽原発 なぜ原則を曲げるのか」とする社説を掲げました。
極めて当然の指摘です。
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(社説) 高浜老朽原発 なぜ原則を曲げるのか
北海道新聞 2016年6月3日
原子力規制委員会は、運転開始から40年を過ぎた関西電力高浜原発1、2号機(福井県高浜町)の、60年までの運転延長に関する公開審査をきのうで終えた。
今月中にも事実上の合格証をとりまとめる方針という。東京電力福島第1原発の事故後、老朽原発の運転延長が初めて認められることになる。
福島の事故を受けた法改正で、原発稼働は原則40年と定められている。延長はあくまで例外だ。
にもかかわらず、規制委は高浜の運転延長を優先するかのように審査を進めた。このままでは「例外」が「先例」になりかねない。
原発の安全性に対する国民の不安に応えた対応とはいえまい。規制委は安易に老朽原発の運転延長を認めるべきではない。
福島の事故後の新制度では、原発の延長手続きは運転開始40年以内に終えておく必要がある。
高浜1、2号機は制度が導入された2013年7月8日の時点で40年が迫っていたため、特例で3年間の猶予が与えられた。
その期限が7月7日だった。
発足当初、規制委は老朽原発の延長は「相当困難ではないか」(田中俊一委員長)としていた。
ところが、高浜1、2号機の審査では、まるでこの「期限」に間に合わせるかのようにスタッフを集中させ、他の原発を後回しにする「配慮」さえ示した。
再稼働ありきで審査を進めたと受け止められても仕方あるまい。
気がかりなのは、高浜1、2号機が、他の老朽原発の審査のひな型になってしまうことだ。
これでは「40年ルール」が形骸化し、いつまでも原発依存から抜け出せないことになる。
それにしても、最近の規制委の姿勢には疑問が多い。
熊本地震では、震源域にほど近い九州電力川内原発(鹿児島県)と四国電力伊方原発(愛媛県)が不安視されたが、規制委は新規制基準で定められた基準地震動を上回る地震は想定し得ないとした。
国内で唯一稼働中の川内原発の運転継続も認めたが、福島も「想定外」の末、過酷な事故に至ったことを忘れてはならない。
また、九州電力は規制委による川内原発の審査通過後、免震棟の新設を撤回し、建設しやすい耐震施設に変更した。電力各社がこれに追随する動きも出ている。
規制委の存在が問われている。
規制委があるのは、原発を動かすためではない。福島の悲劇を二度と起こさないためだ。