大飯原発の運転差し止め仮処分控訴審で、島崎東大名誉教授が関電が基準地震動の策定に用いた方法に「過小評価の可能性がある」とする陳述書を提出したことを機に、これまで島崎氏の指摘に関するいくつかの記事を紹介して来ました。
20日付の東洋経済オンラインが、島崎氏の指摘を比較的詳しく説明していますので紹介します。
20日付の東洋経済オンラインが、島崎氏の指摘を比較的詳しく説明していますので紹介します。
その中で、「関電が用いている入倉・三宅式は、垂直型断層や垂直に近い断層に用いた場合には、震源の大きさがほかの式を用いた場合と比べて3.5分の1~4分の1の小さな値になる。実際の震源の大きさが上記の式で得られた値の3倍以上だとすると、短周期レベルの地震動は5割増しになる」と述べています。
要するに関電が採用して規制委が追認した予測式は、一番小さな基準地震動を与えるものであり、島崎氏が熊本地震について検証した結果そのことが明らかにされました。
(参考記事)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
元原子力規制委員が大飯原発の危険性を警告
島崎・東大名誉教授「関電に過小評価の疑い」
岡田 広行 東洋経済オンライン 2016年06月20日
(東洋経済 記者)
原子力発電所の安全審査で中枢にいた専門家の発言が、原子力業界に衝撃を与えている。
2014年9月まで原子力規制委員会でナンバー2(委員長代理)を務めた島崎邦彦・東大名誉教授(地震学)が、6月16日の田中俊一委員長らとの意見交換の場で、関西電力・大飯原発3、4号機再稼働のための安全審査の根幹をなす基準地震動が「過小に見積もられている可能性がある」と指摘。「基準地震動の算出に問題がないかどうか、もう一度精査してほしい」と強く求めた。
これを受けて6月20日午後2時からの規制委会合では基準地震動の検証をやり直すかどうかについて議論することになった。
関電が用いた計算式に欠陥あり
島崎氏は、関電が大飯原発の基準地震動を計算するうえで用いている活断層評価のモデル式に、過小評価を生み出す欠陥があると指摘。
モデルは「入倉・三宅式」と呼ばれるもので、これを西日本で多く見られる横ずれ断層(垂直型断層)や垂直に近い断層に用いた場合には、震源の大きさがほかの式を用いた場合と比べて3.5分の1~4分の1程度の小さな値になると田中委員長らに説明した。
そのうえで島崎氏は、本当の震源の大きさが同式での計算結果の3倍以上だとすると「短周期レベルの地震動は5割増しになる。これはかなり深刻な問題だ」との見方を示した。
大飯原発3、4号機の再稼働をめぐっては、2014年5月に原告住民の勝訴となる運転差し止めを福井地裁が命じている。その判決では次のように指摘されている。
「1260ガルを超える地震によって冷却システムが崩壊し、非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能になり、メルトダウン(炉心溶融)に結びつく。このことは被告(関電)も自認しているところである」
当時、関電が規制委の審査会合で示していた基準地震動は700ガル。その後、規制委との議論を経て856ガルに引き上げて概ね了承を取り付けたものの、今回、島崎氏から「そもそも、関電が基準地震動設定の基礎に用いた式そのものに欠陥がある」との問題が提起された。
しかも驚くべきことに、島崎氏は関電が申し立てた名古屋高裁金沢支部での同裁判の控訴審で、住民側弁護士の依頼で陳述書を提出しており、そこで関電の地震動評価について「過小評価の可能性」を指摘している。こうした流れを踏まえて朝日新聞などが島崎氏の問題提起について報じたことにより、事の重大性が世の中に知られるようになった。
今回、規制委が"すでにやめた人"である島崎氏との面談を設定したのも、こうした経緯によるところが大きい。田中委員長も16日の面談の冒頭で、「本日も大勢のマスコミが集まっている。国民も関心を持っている」などとして、問題が無視できなくなっているとの認識を示した。
このままでは福島の事故が繰り返される
「どうされるかは委員会のマター。くちばしをはさむつもりはない」「すでに辞めた人間が申し上げるのも口はばったいのですが」と言いつつも、島崎氏は田中委員長ら規制委に審査のやり直しを強く求めた。
その理由について、意見交換終了後のぶらさがり会見で島崎氏は、「(東日本大震災と同じこと(=想定外の大惨事)が、日本海側で再現されつつある。今であれば(対策の)やり直しがきく」とし、そのうえで「専門家であれば計算し直すのに大して時間はかからないはず」と述べている。
島崎氏の問題提起は、6月24日発売の岩波書店『科学』(7月号)に掲載される論文に詳しい。
そこで島崎氏は国土交通省が2014年9月に策定した『日本海における大規模地震に関する調査検討会報告書』が日本海「最大クラス」の津波を過小評価しており、「津波の対策がこのまま進めば、再び『想定外』の被害を生ずるのではないだろうか。2002年の津波地震の予測を中央防災会議や東京電力が無視し、『想定外』の災害を起こしたことを忘れてはならない」と警鐘を鳴らしている。
「想定外」が繰り返されるのか
島崎氏は、規制委委員長代理を退任した後、日本海側での津波予測について研究を重ねてきた。さらに熊本地震での現地調査を経て、「入倉・三宅式」を横ずれ断層に用いることによる弊害について、確信を持つようになったという。
島崎氏が「過小評価の可能性が高い」として問題にしている日本海最大の活断層は、大飯原発の基準地震動設定の際にも検証の対象となったことから、学会での報告内容を知った原告の弁護士から求められて陳述書を書いたと島崎氏は舞台裏を明らかにしている。
規制委との意見交換では「入倉・三宅式は適用範囲を頭の隅に置きながら(審査を進めてほしい)ということか」との質問が原子力規制庁の幹部から出たが、島崎氏は「(同式に欠陥があることは)頭の隅ではなく、真ん中に置いてほしい」と釘を刺した。田中委員長からの「(安全上余裕度を持たせている)原発よりも建築基準や高層ビルなどのほうがどうなっているか(気になる)」の問いにも、「(入倉・三宅式が)原子力(発電所の基準地震動設定)でも引き続き使われる可能性がある(ことが問題だ)」と警告した。
「想定外を繰り返してはならぬ」との地震学の専門家による問題提起を、田中委員長ら規制委は20日の会合でどう判断するか。国民を原発事故から守る最後の砦としての責任が問われている。