2016年6月22日水曜日

高浜原発1、2号機の原子炉の劣化予測 信頼できないと井野教授

 福井新聞が、高浜原発1、2号機の運転延長の問題を取り上げました。
 原子力規制委は「劣化を予測し、更新すべき部分は更新して、新規制基準を60年間維持できる」と判断したということですが、それは周辺の配管や機器類のことで、肝心の原子炉と格納容器は建設当初のものをそのまま60年間使い続けるわけです。
 
 原子炉の耐久性を見る重要な指標が脆性遷移温度で、原子炉内に建設当初に取り付けられた複数のテストピースを順次取り外して測定(破壊試験)し、それから50年後、60年後の脆性遷移温度を予測するのですが、その手法はいわゆる回帰分析的なものであって、充分に理論化されているものではありません。
 
 材料劣化の権威である井野博満・東京大名誉教授は、「予測式自体に信頼性がない。今の時点で、60年まで大丈夫だと保証しているとはいえない」、「一部のデータが非公表で第三者による正確な検証ができない」と述べています
 この「一部のデータが非公表のため、第三者による正確な検証ができない」という問題は、脆性遷移温度の公表の都度指摘される事項で、なぜすべてを明らかにしないのか(一部を隠蔽しなくてはならないのか)不思議です。これでは何らかのデータ偽造を疑われても仕方がありません。
 
 原子力規制委は関電に対して、原子炉が「60年後まで大丈夫」と予測したことに関する全ての資料を公表させるべきです。すくなくともこれに関して権威による評価に耐えるものでなくては、運転の20年間延長などは論外です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
高浜原発の劣化予測、正確さに不安 1、2号機の運転延長を認可
福井新聞 2016年6月21日
 「相当困難」とされていた原発の40年超運転が、全国初申請の関西電力高浜原発1、2号機(福井県高浜町)で認められた。原子力規制委員会は「劣化を予測し、更新すべき部分は更新して、新規制基準を60年間維持できる」と判断した。ただ焦点となった原子炉圧力容器の劣化に関し、予測値が正しいか未知数という不安が残る。耐震試験の一部は未実施のままだ。原子炉等規制法が定める「40年」の制限は、早くも骨抜きとなった。
 
■原子炉容器の脆化
 運転延長審査で議論の一つになったのが、原子炉容器が中性子の影響を受けてもろくなる現象(脆化(ぜいか))だ。温めたガラス容器が急に冷えると割れてしまうようなことが、もろい原子炉では起こりうる。運転延長審査では、脆化の進み具合を関西電力が予測し、その妥当性を規制委が審査した。
 
 関西電力は炉内の試験片の調査結果を元に、運転開始から60年時点でも健全性を保てるとしたが、井野博満・東京大名誉教授(金属材料学)は疑問を呈する。
 高経年化(老朽化)対策の専門家である井野氏は、もろくなり始める温度について、今回の調査結果を踏まえた予測値が10年前の技術評価の結果と比べ大幅に上昇していると指摘。「予測式自体に信頼性がない。今の時点で、60年まで大丈夫だと保証しているとはいえない」と警鐘を鳴らす。また一部のデータが非公表で「第三者による正確な検証ができない」との問題点を挙げた。
 関西電力は、「予測式に余裕を持たせた結果。現段階では問題ないと判断している」と主張。今後の検査で、健全性を再評価していく考えだ。
 
 運転延長が認められる前提として必要な、新規制基準の適合性審査の中にも積み残しがある。蒸気発生器など、一部の耐震試験は後回しになっている。
 「最新の知見を反映したい」(関西電力)として、揺れの収まりやすさについて建設時とは異なる値を設定。安全対策工事が終わった後、使用前検査で実際に揺らして確認する方針だ。検査不合格なら再稼働できないが、合格するまで再改造は可能。合格まで何度でも改造できる仕組みは「後出しじゃんけん」との批判が根強い。
 関西電力は、構造が同じ美浜原発3号機(福井県美浜町)で試験を実施。現段階では、新しい値をクリアできたという。
 
■金掛けるかの「踏み絵」
 高浜1、2号機を再稼働するのに必要な安全対策工事費は2160億円にも上る。格納容器上部のドーム、ケーブルの防火対策、自主対策としての免震事務棟の建設まで多岐にわたる。
 今年7月7日までに運転延長審査を完了する必要があったのは、高浜1、2号機を含め全国に7基あった。このうち高浜以外の5基は、事業者も規制委も安全性を突き詰めることなく、「費用対効果」を理由に廃炉となった
 「事業者が取捨選択するのが40年制限の意味なのか」。20日の会合後、ある記者の質問に、田中俊一委員長は「経済性や新規制基準の適合性も考えて申請してくるのだと思う」と答えをはぐらかせた。運転制限の根拠はあいまいで、県内関係者からは「膨大な金を掛けられるか、規制委が事業者に踏み絵を示しているだけ」との皮肉も聞かれる。
 
 審査を通した以上は規制委の責任も明確になる。田中俊一委員長は「安全対策ができているかは、検査の中でみていく。いろんな形で検査体制は強くなっていく」と強調してみせた。