2016年6月30日木曜日

伊方原発の再稼働が迫るものの「不安」は積み残されたまま

 伊方原発3号機で核燃料装塡作業が進んでいます。中央構造線断層帯上で熊本地震が起きた後も再稼働の方針は変わりません。
 地震への備えや安全性、避難計画は万全か・・・高知新聞が伊方原発の「再稼働」を検証しました。
 27日~29日でシリーズ(1)~(3)が連載されましたのでそのうちの
 (2) 「揺れ」への評価に「想定外」ないか
 (3) 避難計画「本当に逃げられるか?」
を転載します。((1)戸別訪問で「本音」聞けたか については、URLでアクセスしてご覧ください)
 
 基準地震動も不充分で装置の耐震性に信頼がおけない上に、細長い半島の根元に伊方原発が位置しているので、万一事故が起きた場合にはその先に居住している人たちの避難は容易ではなく、半島先端の三崎港からフェリーで九州に逃げるという方針も、地震時、台風時、津波時には無理で現実的でないなどの問題が未解決のままであることが分かります。
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【迫る伊方再稼働】(1)戸別訪問で「本音」聞けたか
 
【迫る伊方再稼働】(2)「揺れ」への評価に「想定外」ないか
高知新聞 2016年6月28日
 国内最大級の活断層「中央構造線断層帯」は過去、何度も巨大地震を引き起こしている。
 高知大学理学部の松岡裕美准教授(地質学)によると、大地震は過去7千年で少なくとも5回あった。
 直近は1596年の慶長豊後地震で、震源は別府湾。マグニチュードなどは不明だが、別府湾沿岸は大津波で壊滅的な被害を受けたことが分かっている。数日間のうちに京都などでも大地震が発生したという。
 西日本を東西に横断するこの活断層は、四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)北側の海域を走る。距離は6~8キロ。地質学上では「活断層の真上」とも言える立地が、再稼働を巡る不安の根底にある。
 中央構造線で地震が起きた場合、伊方原発は安全なのか。
 原子力規制委員会の審査に対し、四国電力は「中央構造線による地震が最も大きな影響を与える」とした。その上で、安全設計の基礎をなす基準地震動について「最大650ガル」と設定した。
 ガルは地震の揺れの強さを示す数値で、数字が大きいほど揺れは強く、より強固な耐震性が必要になる。
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 揺れの「想定外」はこれまで、日本の原発で何度か起きている。
 2011年の東日本大震災では、東北電力女川原発(宮城県)で基準地震動580ガルを上回る636ガルの揺れを観測した。
 2007年の新潟県中越沖地震では、東京電力柏崎刈羽原発の揺れが最大1699ガル。想定の4倍近くにもなった。
 
 松岡准教授は言う。
 「女川原発は伊方原発と同じく固い地盤の上にあります。東日本大震災後、女川の基準地震動は千ガルに引き上げた。女川と震源までの距離は約50キロ。それなのに(中央構造線間近の)伊方は650ガル。それでいいのか、と」
 中央構造線を早くから問題視してきた高知大学防災推進センターの岡村真特任教授もこう言う。
 「3号機稼働の1994年当時、基準地震動(473ガル)は『中央構造線は活断層ではない』との前提でした。それを基に造った原発を補強しても、ぼろ屋につっかえ棒をするようなものです」
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 「滑り量」と呼ばれる断層の「ずれ」に関する想定にも疑問が残る。
 中央構造線は東西に長い。四国電力は、長さ480キロが連動して動いた場合を想定。伊方原発前の海域下では、断層の平均滑り量を2・6~5・8メートルと算出した。
 これに対しても松岡准教授は「過小評価ではないか」と言う。
 「長さ480キロで平均滑り量2・6メートル」などとする四国電力の算定は、国内研究者の論文が基になっている。一方、同じ論文で長さ54キロの地震の場合、平均滑り量を2・5メートルとした。
 断層の動く長さが約9倍になっても「ずれ」の差がほとんどない。
 「断層が長くなると滑り量も大きくなるはず。だから『480キロで2・6メートル』は明らかにおかしい。その論文に基づけば、伊方原発付近の平均滑り量は最低でも3メートルほどになります
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 こうした指摘に、四国電力は真っ向から反論する。
 広報部の笹谷誠志副部長は「断層の長さが50キロを超えると、滑り量は飽和傾向になります」と指摘する。
 2016年4月に熊本地震が起きると、震度7クラスの地震が連続した場合の安全対策にも懸念が広がった。原子力部の杉原雅紀・耐震設計グループリーダーは「連続した大地震は設計上想定していない」とした上で言う。
 「(原子炉格納容器など)重要な設備は千ガル程度まで耐震性があります。揺れで原子炉破壊には至らないでしょう」
 
 
【迫る伊方再稼働】(3)避難計画「本当に逃げられるか?」
高知新聞 2016年6月29日
 「緊張感? なかったですよ。いつも同じ内容ですから」
 愛媛県伊方町の末光勝幸さん(63)は、2015年11月に政府と高知県が実施した「原子力総合防災訓練」をそう振り返る。
 2011年の東京電力福島第1原発事故後、政府は原発から30キロ圏内の自治体に対し、避難計画の策定を義務付けた。訓練は、それを検証する狙いがある。
 末光さんの自宅は伊方町役場に近い。四国電力伊方原発から約4キロ。訓練の時は、地区自主防災組織の会長だった。
 「愛媛県で震度6強の地震が発生し、3号機は外部電源を喪失して放射性物質が外へ出た」―。そんな想定の下、末光さんらは近くの中学校に集合し、約50キロ離れた公園へバスで避難した。
 内閣府の報告書によると、このバス移動には1時間49分かかった。「事故が起これば、あんなにスムーズにできないよ」と末光さんは言う。
 愛媛県八幡浜市の国道378号で2016年1月、雪や凍結で100台超の車が立ち往生したことがある。渋滞は3キロ以上。車内で夜を明かす人も出た。
 末光さんが訓練で通った道である。
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 「避難計画は現実的じゃない」という感想は、山下三郎さん(70)も抱いた。
 伊方原発は細長い佐田岬半島の付け根付近に位置する。万が一、過酷事故が起きたら、住民たちはどう逃げるのか。
 陸路が使えない場合、原発より西側の住民約5千人は、フェリーやヘリで大分県などに避難する計画だ。陸路とは国道197号。主要道路は片側1車線のこの道しかない。
 山下さんに半島を案内してもらった。自主防災組織の会長を長年務め、防災士の資格も持つ。
 「半島先端の三崎港からフェリーで避難するなんて、実際はあり得ん台風やしけの時は船が岸壁に着けん。津波が来たらなおさら無理
 山下さんの住む集落から三崎港への道は狭く、所々に亀裂もある。
 「この避難路、地震が来て使える? 土砂崩れもある。ここは孤立するよ。急傾斜が多い。ヘリが降りる所もない。フェリー乗り場まで行けん。大半が避難を諦めとる
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 伊方原発が事故を起こすと、風の強さや向きによっては高知県にも放射性物質が運ばれてくる、との予測がある。
 高知県で30キロ圏内に入る地域はなく、避難計画の策定を義務付けられた自治体はない。
 それでも一部が50キロ圏に入る高岡郡梼原町と四万十市は6月、自主的に避難計画を作った。
 梼原町で50キロ圏に入るのは「井高」「文丸」の2集落で、計37世帯、64人が暮らす。
 文丸集落の高齢化率は81・5%に上る。「私は若い方」と話す吉村秀子さん(67)の自宅は、愛媛県境まで約2キロ。梼原町の避難計画では、5キロ余り先まで行き、閉校した小学校に屋内退避することになっている。
 「一本道。あれがつえたら、どこにも逃げれん」
 避難計画を作った側にも不安がある。梼原町総務課の高橋里香係長が言う。
 「高齢者が多く、避難の時間が読めない。移動手段のない人は梼原町がピックアップすることになっているけど、現実的じゃない。そもそも国や高知県からすぐに情報が入ってくるかどうか。情報がなければ、計画を作った意味がありません
 原発に異常があると、四国電力は高知県にメールや電話で通報し、情報はその後、「県→市町村→住民」の順で流れる。
 より重大な過酷事故の場合は、原子力災害対策特別措置法に基づいて首相が「原子力緊急事態宣言」を出し、政府が司令塔になる。
 しかし、福島の事故では、政府や東京電力が大混乱に陥り、情報伝達が遅れ、住民の避難も遅れた。その記憶は新しい。