金井啓子・近畿大学教授が、福井県おおい町が昨年から行っている学生向けの「まちづくり政策コンテスト」について報告しました。
廃炉後の町の「原発交付金に頼らない財政運営の構想」などを含めて、新しい「まちづくり」には若い人たちの新鮮な感覚が大いに必要に思えます。
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金井啓子の現代進行形
原発立地で政策コンテスト
金井啓子 大阪日日新聞 2017年11月16日
近畿大学総合社会学部教授
おおい町に学生たちが提案
福井県おおい町では昨年度から学生向けの「まちづくり政策コンテスト」を始めた。初回に最優秀賞を取った関西学院大学のグループが提案した「若い女性を対象としたおおい町で輝く就農・起業女子応援事業」。町では早速、今年8月に梅田でフォーラムを開催、10月に就農・移住体験のバスツアーを実施した。
全国には過疎化が進む自治体が多い。そんな中でおおい町が若い“ヨソ者”の声に耳を傾け、良い提案なら積極的に受け入れる姿勢は斬新だと私は思っている。
さて、本年度も夏のフィールドワークを経て各大学から多様な提案が生まれた。そこで私も12日に開かれた発表会を見てきた。昨年度に比べると参加者はやや減ったものの、中塚寛町長の「非常に激戦、接戦」という言葉に象徴される濃い提案が並んだ。
最優秀賞に選ばれたのは、耕作放棄地を活用して養蜂産業を興すという、関西大学のグループの提案だった。私は頻繁におおい町を訪れているが、蜜を取るために植えるレンゲ、菜の花、アカシア、ヒマワリが咲き誇る美しい風景が生まれ、「おおい町ブランド」の高級蜂蜜をお土産に買えるようになる未来予想図は楽しみでならない。
私が勤務する近畿大学も優秀賞に選ばれた。町内にある松井農園の皆さんの支援を受けながら活動する農業サークル「やまぼうし農園」のメンバーである学生が、1年生と2年生の2グループに分かれて参加。見事、1年生が入賞したのだ。内容は空き家活用の提案。ひいき目抜きに、大阪からおおい町に頻繁に通う彼らならではの強みが発揮されたと感じた。
ただ、ここで少し苦言も呈したい。「ポスト原発時代の担い手育成の拠点を作る」という島根大学の提案には特別賞を送ってもよかったと思うのだ。島根大学で財政学を学ぶ学生たちによる、エネルギー政策に左右されない町の財政と経済の確立を目指し、原子力防災と廃炉のための人材育成の拠点を町に作ることも含めた、意欲的な提案だった。町長は「切り込みにくい所にずばっと切り込んだ勇気」をたたえていたが、まさにその通りだろう。内容は、将来の廃炉を想定し、原発交付金に頼らない財政運営を示したものだったからだ。
中には「町でできる提案と言えるのか」と疑問視する審査員もいた。原発政策は国の方針だから、おおい町が提案しても無理だと言いたいのだろうが、そもそも町に原発を誘致する際、国から押し付けられたのか。おおい町が手を挙げたのではないのか。だったら、廃炉後の町のあり方を町自身が決めるのに、どんな不都合があるのだろう。
50年、100年先の町と国の未来を考えたとき、島根大学の提案は無視できないと考える。私の大学の仕事をきっかけに深い関わりができ、愛着を感じるおおい町であるからこそ、このことを声を大にして伝えて今回のコラムの締めとしたい。