2017年11月8日水曜日

大洗被爆事故 規制委はなぜ「最終報告書」を了承しなかったのか

 産経新聞が、原子力規制委が大洗被爆事故についての原研報告書について、「事故を招いた組織の問題についての分析が不十分」として再提出を要求した(10月25日)理由を詳しく報じる記事を出しました。
 この件に限らず、産経新聞はしばしば、それぞれのテーマについて一定の時間を掛けて、概要が一通り理解できる詳しい記事を出してくれるので助かります。
 以下に紹介します。

  (関係記事)
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茨城被曝事故「最終報告書」が規制委にダメ出しされた理由とは
産経新聞 2017年11月7日
 日本原子力研究開発機構「大洗研究開発センター」(茨城県大洗町)で6月に起きた被曝(ひばく)事故で、機構が9月下旬に原子力規制委員会に提出した最終報告書が、10月25日の規制委定例会合で「事故の組織的な要因の分析が不十分」などとして再提出を求められた。核燃料物質の貯蔵容器を21年間も放置していたり、事故発生後に除染用シャワーが故障で使えなかったりなど数々の「ずさん」が露呈したこの事故。報告書にはどんな問題があったのか。(社会部編集委員 鵜野光博)

「国内最悪」から一転
 事故をおさらいしておこう。6月6日、同センターの燃料研究棟で作業員が点検のため核燃料物質の貯蔵容器の蓋を開けた際、中でプルトニウムなどを包んでいたビニールバッグが破裂し、飛散した粉末を吸って5人が内部被曝した。
 機構は当初、1人の肺から2万2000ベクレルのプルトニウムが検出されたと発表。被曝線量は今後50年間で最大12シーベルトに達する恐れがあり、「国内最悪の被曝事故」として大きく報道された。

 ところが、事故翌日に千葉市の放射線医学総合研究所で体表面を除染してから再計測したところ、一転して非検出に。機構の施設内での除染が不十分だったことが明らかになった。
 5人はそれぞれ内部被曝はしており、被曝線量は最も高い作業員で100ミリシーベルト以上200ミリシーベルト未満(今後50年間)と推計。5人とも現在までに体調に変化はみられないという

 また、事故後に作業員が汚染された部屋から退出するための「グリーンハウス」と呼ばれる設備を設けるのに2時間近くの時間がかかり、除染用シャワーは故障で使えず、施設外から引いたホースで体を洗っていたことなどが判明した。

「なぜ事故を想定していないのか」
 報告書はビニールバッグが破裂した原因について、核燃料物質に添加されたエポキシ樹脂が長年の間に放射線で分解され、ガスが発生したためと結論。10月25日の規制委では、こうした結論を「妥当」と評価したが、「直接的な原因とその対策にとどまっている」として、報告書の再提出を求める声が相次いだ。
 「シャワーが使えなかったとか、グリーンハウスの設置に手間取ったとかは、まさに組織的な要因があったということ。できるだけ早くそういう面についての報告をきちんと出していただきたい」(石渡明委員)
 「機構の、今までとにかく開発一辺倒でやりっ放しであったというところが、根本にあると思う」(伴信彦委員)

 事務局から最終報告書について説明を受けた更田(ふけた)豊志委員長は「『グリーンハウスを設置しなければならないような事故を想定していなかった』と書かれているが、なぜ想定していないのか。粉末も含めた核燃料物質を扱う施設で、汚染は起きないと頭から思っていたということなのか」とただした。
 さらに、「内部被曝に関して、過大評価だったからいいではないかと言わんばかり。(体表面の)汚染と内部被曝がごっちゃになって過大評価してしまったのは、仕方なかったという評価なのか」とも。
 事務局は「機構ははっきりとは言っていないが、たぶん、仕方なかったと言っているように聞こえる」と説明。「きちんと分析評価をして説明していただきたいと考えている」と続けた。

被曝線量の具体的数値報告せず
 このほか、機構が規制委に報告した5人の内部被曝線量が、放医研が報道発表した「100ミリシーベルト以上200ミリシーベルト未満」とするデータを引用しただけで、機構自身が評価したものではなかった。これについて伴委員は「私が耳にしているのは、(内部被曝線量の)分析やデータの取り扱いは放医研ではなく機構でやっている。にもかかわらず、放医研が評価したと言っているのはどういうことか」と不透明さを指摘。「個人の医療情報なのでプライバシーの問題があるとしても、機構は事業者として線量評価をしなければいけない法律上の義務がある。それを放医研にやってもらったというのは、おかしな話だ」と重ねて疑問を呈した。

 機構は最終報告書を提出した後の会見で、作業員の被曝線量の具体的数値を公表しないことについて「情報を出すことで個人の利益の侵害につながる可能性が高い」とし、「本人への偏見とか、差別的扱いとか、風聞を振りまかれたりとかが一般的に懸念される」と説明していた。
 定例会合後の会見で更田委員長は「個人情報であっても商業機密であっても、規制当局はそれが安全にかかわる問題であると認識した場合には報告を求めることができると思っている。今回の問題で言えば、結果的にどれだけの内部被曝があったのかは事態を捉える上で重要な情報だから、公表するしないの問題とは別に、規制当局への報告はあってしかるべきだ」と述べた。

「事故の原因分析も不十分」
 事務局は最終報告書について、機構が「状態が不明瞭な核燃料物質を確認する場合は、フード(簡易作業台)以外の場所を選定して作業計画を作成すべきだった」としていることについても、「状態以前に、そもそもビニールバッグにプルトニウムを入れるのは適切ではなく、原因分析が不十分」と指摘。再発防止についても「マニュアルの改善が具体的ではない」としている。

 規制委はこれらの問題点を踏まえた上で、報告書を再提出するよう機構に求めた。
 更田委員長は会見で「機構はこれから廃止措置に向かうさまざまな施設を抱えており、放射性物質に関しては処理なり処分なりを進めていかなければならないという問題がある。解決策はすぐに見つかるわけではなく、地道に一つ一つの措置を進めていくしかない」と述べた。

 日本原子力研究開発機構 平成17年、旧日本原子力研究所と旧核燃料サイクル開発機構が統合し、独立行政法人として発足。27年、国立研究開発法人に改組。日本で唯一の原子力に関する総合的研究開発機関。高速増殖炉原型炉「もんじゅ」、高速実験炉「常陽」、高温工学試験研究炉(HTTR)、試験研究用等原子炉施設(JRR-3)などの施設を保有している。