福島県から自主避難し山形県の雇用促進住宅に入居していた8人が、住宅の無償提供が終了した4月以降も住み続けていることに対して、住宅の運営法人が9月22日、退去と家賃の支払いを求める訴えを起こしました。
訴えられた8人のうち3人が16日、霞が関司法記者クラブで記者会見しました。
問題の根源は、国が、年間被爆量最大20ミリSv(シーベルト)にも達する地域が居住可能であるとして避難指示を解除し、そこに帰還しない人たちへの住宅の無償提供を止めたことです。つまり放射線管理区域の最大4倍にも相当する環境を居住が可能とする異常さにあります。
放射能に汚染された地域からの避難については、すでに1991年にロシアの「チェルノブイリ法」で極めて合理的に定められていて、「避難の権利」を確立したものとされています。
「チェルノブイリ法」の概要
年間被曝量が5ミリSv以上になる区域を「移住義務ゾーン」、1ミリSv以上5ミリSv未満の区域を「移住権利ゾーン」と定め、被災者は支援を得て汚染地域で暮らすのか非汚染地域へ移住するかを選ぶことができる。いずれの人も、国の負担による健康診断や薬剤の無償提供、年金の割増しなどの社会的な保護を受けられる。避難(移住)を選んだ場合は、国は住民が失うことになる家屋などの財産について、現物または金銭での補償をする。※
それに比べると日本の基準は余りにも非常識で冷酷・無責任なもので話になりません。誰が考えても放射線管理区域の4倍の濃度の環境に住めるはずがありません。田中龍作氏がいうように「この国の行政は鬼畜」です。
会見で被災者は「支援を再開してほしいです。これは全国に散らばっているすべての避難者の願いです。払えないものは払えない。戻れない者は戻れないのです」と語りました。あまりにも当然のことです。
(関係記事)
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原発事故の自主避難者を被告にした行政の鬼畜
田中龍作ジャーナル 2017年11月16日
この国の行政は鬼畜だ。原発事故からの自主避難者をとうとう被告として訴えたのである。
福島県と国は自主避難者への無償住宅供与を今年3月末で打ち切った。これを受けて山形市の雇用促進住宅で避難生活を送っていた8世帯は立ち退きを迫られた。
立ち退きを拒否したところ、大家である独立行政法人・高齢・障害・求職者雇用支援機構は、8世帯を相手取り、「住宅の明け渡し」と「4月1日からの家賃の支払い」を求める訴えを山形地裁に起こした。9月22日のことだ。
訴えの法的根拠は、災害救助法にもとづく住宅支援の契約が3月31日で切れたことによる。
自主避難者とは避難区域に指定されたエリア以外からの避難者のことである。区域外といえども線量は高い。
国が避難基準とするのは、年間20mSv以上という殺人的な線量だ。チェルノブイリ原発事故のあったウクライナでは年間1mSv以上であれば避難の権利が発生し、5mSv以上は強制移住となる。住民は国家から住宅の提供を得るのだ。世界的に見て日本の避難基準が人権軽視であることがよく分かる。
東電福島第一原発の事故による自主避難者の数は2万6,601人(福島県避難者支援課まとめ=昨年10月末現在)。自らの生活基盤を奪われたのだから、当然収入は減り生活は厳しくなる。
にもかかわらず自主避難者の99%は、4月1日から家賃を払わせられている。彼らの多くは生活に困窮する。これも人権問題である。
裁判に訴えられた被告のうち3人がきょう、霞が関司法記者クラブで記者会見した。
原発事故で、福島市から山形市に移り住んだ主婦は、高校2年と中学3年の子供を持つ。2人とも甲状腺がん検診ではA2の判定だった。
夫は山形から福島への遠距離通勤で体調を崩し、満足に働けない。彼女は福島にいた時は正規雇用だったが、山形に避難してからはパート勤務だ。収入は大幅に減り貯金もない。
彼女は次のように窮状を訴えた―
「生活が厳しいのなら福島に戻ったらいいと言われるかもしれません…(中略)福島は「安全・安心」を宣伝し、除染も済んだので帰還するようにと言っておりますが、原発からの汚染水は止まらず、デブリの取り出しもいつになるか全く分からない状態です」
「支援を再開してほしいです。これは全国に散らばっているすべての避難者の願いです。払えないものは払えない。戻れない者は戻れないのです」。
2020年東京五輪の野球とソフトボール予選の会場となった福島で、原発事故からの復興をアピールしたい。安倍首相がうそぶいた「アンダーコントロール」を力づくでも証明しなければならない。原発事故の避難者がいてはならないのだ ― 霞が関と福島県庁から、そんな声が聞こえてくるようだ。
~終わり~