埼玉県議会は12月22日に全国ではじめて「原発の再稼働を求める意見書」を採択しました。東洋経済が、意見書の取りまとめに当たった自民党の県会議員にインタビューしました。
「意見書は何処かから要請されたのか」の問いには答えませんでしたが、記者が「電力やエネルギー関連の団体か」と重ねて聞くと、否定せずに「まあ、そういった団体だ」と答えました。
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埼玉県議会が「原発再稼働」を要望した理由
波紋呼ぶ意見書、仕掛け人の県議に聞く
岡田 広行 東洋経済オンライン 2018年1月24日
東洋経済記者
埼玉県議会は2017年12月22日、「原子力発電所の再稼働を求める意見書」を自民党などの賛成により採択し、衆参両議長や安倍晋三首相、世耕弘成経産相などに送付した。福島原発事故の後、都道府県議会が再稼働を求める意見書を採択したのは初めてと見られる。
これに対して、反対する市民が抗議デモを繰り広げるとともに、3000人を超す個人の賛同による抗議文が自民党埼玉県議団などに届けられたことから、一部のマスメディアが大きく報じた。
折しも、小泉純一郎元首相らが「原発即時ゼロ」の法案を発表するなど、原発問題は国会の場でも争点になろうとしている。意見書の取りまとめに当たった田村琢実・自民党埼玉県議会議員(埼玉県議会自民党議員団政務調査会長)に聞いた。
”ある団体”からの要望がきっかけ
――意見書を出した経緯は。
自民党の埼玉県連では、昨年9月下旬から10月上旬にかけて、来年度の予算や施策のあり方について、各種団体を訪問して要望聴取活動をした。その中で、ある団体から、原発の再稼働をお願いしたいとの要望があった。そして、持ち帰って議論した結果、自民党埼玉県議団を通じて意見書として出そうということになった。(議会できちんとした議論がされていないという人がいるが)正規の手続きに則って粛々と進めた。強行採決ではない。反対討論も行われている。
――今回のような意見書はあまり例がありません。
全国でも初めてだと思う。
――どの団体が要請したのですか。
守秘義務があるのでお答えできない。(電力やエネルギー関連の団体かとの記者の質問に対して否定せず、)まあ、そういった団体だ。
――小泉氏らが脱原発活動を強めています。そうした中で、自民党本部など中央から、再稼働の意見書を出してほしいとの要請があったのですか。
ほかのマスコミからも聞かれたが、そうした事実はまったくない。あくまで埼玉県単独のものですよ。
――自民党本部やほかの県連からも注目されているのではないですか。
一部のメディアと反対派が騒いでいるだけで、国政レベルでは全然知られていないと思う。私は自民党本部青年局の地方議員のトップを務めているが、どこからも(よくやったとか)話はない。埼玉県がこんな意見書を出していると知っている人自体が少ないのではないか。そもそも国に提出してどうなるのかという疑問もある。
――団体からの要望は以前からあったのですか。2017年が初めてでしたか。
昨年、突如として上がってきた。
――反対する人たちからはどんな反応がありましたか。たとえば事務所に山のように抗議文が手紙やFAXで届いたりしたとか。
全然ですよ。(手紙やFAXが)2~3通来たりした程度。電話が鳴り止まないということもなかった。3000人以上が賛同していることで県民の声を無視するなと言われても、県民でない人が主導しているのではないか。デモでも戦争反対だとか関係のないのぼりもあった。ただし、県議団が動揺しないように気を配った。これは必要な施策であり、みんなで合意して決めたことだと。
県議団ではほとんど異論はなかった
――今回、反対する人たちとは会いましたか。議論を求められたらどうしますか。
会ってはいない。文書を受け取っただけだ。討論に出て行ってもいいが、かみ合わないと思う。文書で来たら文書で回答する。
――県議団ではどんな議論がありましたか。
多少の文言の整理はあったが、ほとんど議論というか、異論はなかった。
――昨年秋の衆議院議員選挙時の自民党の公約では、「安全性を最優先し……原発の再稼働を進めます」と述べるともに、「原発の依存度を可能な限り低減させます」と書かれています。後者について、今回の意見書では何も書かれていません。
確かに書いていない。小泉さんたちは原発なしでやれるとか言うが、再生可能エネルギーですべてを賄うのは不可能だ。安全が確認できた原発はきちんと動かすべきだ。
――意見書では、「高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた取り組みを強化すること」との記述もあります。こちらについても団体から要望があったのですか。
これはわれわれで付け加えた。核のゴミは原発を動かすと必ずつきまとう。意見書を出したところ、反原発グループから文句を言われた。埼玉県で引き受ける覚悟があるのかと。これは全然違う話だ。原発政策は昭和40年代から始まったが、政府が今まで先送りしてきた。それをきちんとやってくださいというだけの話だ。
――福島原発事故について一言も触れていないとの批判もあります。
われわれは福島にも出向いている。現状はよく分かっている。(福島の皆さんは)大変気の毒だと思う。責任が政府にあるか東電にあるか明確には申し上げられないが、きちんと責任を果たしていかないといけない。
――再生可能エネルギーや火力発電についてはどう考えていますか。
僕自身は、地球温暖化はうそだと思っている。米国のトランプ大統領と同じで。太陽光発電は安定供給につながらない。県による太陽光発電への補助金は間違いだし、計画を潰してきた。電力自由化にも僕は反対している。電力会社による地域独占のほうが正しい。日本人は電力が当たり前に届くと思っていて、安定供給の重要性を分かっていないのではないか。東日本大震災の直後に計画停電があったが、(緻密にできる)あんな素晴らしい技術を持っているのは電力が独占状態だったからだ。自由化が進んだらできなくなる。
――計画停電は韓国や米カリフォルニア州でも実例があるようです。
(東電のように)あんなに一気にはできない、電車の運行をあれだけ緻密にできるのと同じで、日本人はすごい。
核のゴミは「宇宙で処分すればいい」
――原子力をめぐる状況をどうとらえていますか。
60年運転というのは気に入らない。40年で取り壊して新しいプラントを造るべきだ。最初は30年でコスト計算しているのだから、新しいものを建てないとだめですよ。それをやっていたら、福島事故だって起きなかった。高速増殖炉もんじゅはもともと無理なのでもっと早く廃炉を決断してほしかった。(冷却材である)ナトリウムの管理は難しい。
――核燃料サイクルはやめたほうがよいということですか。
いや、それは必要だ。日本はNPT(核不拡散防止条約)加盟の非核兵器国のうちで、唯一、再処理が国際的に認められている。このことは実は安全保障上も重要なことで、いつでも核爆弾を作れますよ、核兵器に転用できますよと言っているに等しい。あまり大っぴらに言う人はいないが、日本は(周辺国による軍事攻撃への)抑止力としてこの権利を手放すべきではない。
――(高速増殖炉実用化のメドが立たないのに)再処理工場を動かした場合、取り出したプルトニウムはどうしますか。当面は(既存の原発で燃やす)プルサーマルで減らしていくべきということですか。
まあそうですね。
――その先はどうするのでしょう。
新しい技術が出てくるのではないか。あまり詳しくはないが、核融合がどうなるかもわからないし。
――使用済み燃料を再処理すると、たくさんの核のゴミが出てきます。
これは私見だが、今後宇宙開発が進むと、宇宙エレベーターが実用化されるのではないか。そうなれば、ロケットを打ち上げなくても、放射性廃棄物を宇宙空間に運んで処理できてしまう。たとえば、太陽に向かって持っていけば、途中で燃え尽きてしまって何の影響もなくなる。それほど難しいことではないと思う。