2018年1月8日月曜日

伊方原発差し止め 「火山影響評価ガイド」に問題?

 日経新聞が、四国電力の伊方原発3号機に対し今年9月末まで運転差し止めを命じる仮処分を下したことに関して、安全審査の内規として原子力規制委が作成した「火山影響評価ガイド」自体に問題が含まれているという観点の記事を載せました。
 高裁の判断が、「火山影響評価ガイド」を厳密に判断したものであることは認めています。

 原子力規制委が13年7月にまとめた新規制基準「火山影響評価ガイド」は、
「原発から半径160キロ圏内の火山を調査し、火山灰に対する防護措置を講じることなどを各電力会社に要求するとともに、火砕流が襲う可能性が明確に否定できない場合は、“立地不適”とする」
というものですが、実際には規制委は、「原発が存続する40年以内に火山噴火が起きる可能性は極めて低い」という論拠で川内原発を再稼働させました。
 それに対して「40年以内に起きないかどうかも含めて火山の予知はできない」というのが火山学会の見解で、当時、田中俊一委員長(当時)は記者団にヒステリックな反応を示すなど、当初から「火山影響評価ガイド」を厳密に適用する姿勢を見せませんでした。
 この件では、結果的にガイドを無視した規制委に非があります。

 そもそも規制委は「火山影響評価ガイド」を策定するに当たり、何故か火山学の見解を十分に尊重せず、原子力規制庁の役人が強引に策定したという経緯があり、それが今も尾を引いている感じがします。
        (関係記事)
                      2014年8月12日 規制委の火山リスク認識には誤りがある
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伊方原発差し止め 自ら作ったルールに縛られる規制委
日本経済新聞 2018年1月7日
科学記者の目 編集委員 滝順一
 広島高裁は昨年12月13日、四国電力の伊方原子力発電所3号機(愛媛県)に対し今年9月末まで運転差し止めを命じる仮処分を下した。広島市の住民らによる仮処分申請にこたえたもので、阿蘇山の噴火の影響を重くみて、3号機の運転を認めた原子力規制委員会の判断を「不合理」だとした。この高裁決定は規制委員会自身が招いた「オウンゴール」の色彩が濃い。

■広島高裁判決、規制委の火山ガイドラインを厳格に適用
 原発の火山リスクに関しては広島高裁の判断に先立って広島地裁や福岡高裁宮崎支部の決定があった。どちらも阿蘇山のカルデラ噴火のような破局的な噴火は発生頻度が著しく小さいうえ、国も防災計画をもたず、国民の間に目立った不安もないので、そのようなリスクは社会的に容認しうるというのが「社会的通念」だとし、運転差し止め請求を退けた。

 これに対して広島高裁の決定は「社会通念」を根拠にした判断に理解を示しつつも、安全審査の内規として原子力規制委が作成した「火山影響評価ガイド」を厳密に運用すれば、そうした判断は「限定解釈」であり「許されない」と結論づけた。これは東京電力福島第1原発事故の教訓として、安全確保のため規制基準の順守には手心を加えないとの姿勢を示したものだと理解できる。

 ただ高裁の決定文には興味深いくだりがある。原発の立地を判断するにあたって、規制委が破局的噴火を「何らの限定を付すことなく」、火山ガイドラインに含めたことに「少なからぬ疑問がないではない」とする。これは火山ガイドラインへの間接的な疑念の表明と受け取れる。つまり決定文は原子力以外の防災では想定されていない破局的噴火について原発の立地判断で無条件で求めて本当にいいのか、と問いかけている。

■多くの学者が指針に懸念「現在の科学では判定不可能」
 この示唆を待つまでもなく、2013年にガイドラインが公表された直後から、多くの火山学者がガイドラインに対し異論や懸念を表明してきた。
 ガイドラインは原発から半径160キロメートルの範囲内の活火山(1万年以内に活動した火山)について、
(1)稼働期間中(40年間)に噴火活動の可能性があるか
(2)可能性がある場合は噴火規模を推定し
(3)対応不可能な事象(火砕流)が原発に到達する可能性が十分に小さいかどうかを評価する――としている。火砕流の到達可能性が十分に小さいと証明できなければ、立地は不適だと結論づける。

 要するに、原発の稼働中にカルデラ噴火の影響をこうむる可能性が高いか低いかの判定をするということで、論理は明快だが、問題は多くの火山学者がこうした判定自体が現在の火山学では「不可能」「過大な期待」とみている点にある。
 いってみれば、ガイドラインは、確実に判定ができないことを審査プロセスの柱にしている。だから四国電力が地質調査やシミュレーションで証明を試みても「十分に小さい」と可能性を払拭するのは容易ではない。

伊方原発3号機運転差し止めの仮処分が決定し、広島高裁前で垂れ幕を掲げる住民側(2017年12月13日、広島市中区)
伊方原発3号機運転差し止めの仮処分が決定し、広島高裁前で垂れ幕を
掲げる住民側(2017年12月13日、広島市中区)