2014年10月19日日曜日

チェルノブイリ原発事故28年後の現実

 チェルノブイリに関する二つのニュースを紹介します。
 一つは、チェルノブイリ原発事故で、約5万人の住民が去っていったプリピャチの街を、見学バスツアー訪ねると、28年経っても誰も住まずに、そこは動植物の楽園になっていたというものです。
 見学のガイドは、高濃度の放射性物質を含むキノコ類には触らないこと、戸外で物を食べたりタバコを吸ったりして、放射線を発する物質を体内に取り込まないことの注意を繰り返していたということです。
 
 もうひとつは、チェルノブイリから1500kmはなれたノルウェーのトナカイの肉の放射能が今年急上昇し、1キロ当たり最大8200ベクレルセシウム137に達したというニュースです。この時期は、トナカイがショウゲンジ(キノコ)を食べるためで、初霜が下りて食べられなくなれば濃度は下がるということですが、恐ろしいレベルにまで生物濃縮が起きるものです。
 
 1000km以上離れていても放射能のプルーム(気流)に襲われれば、高濃度に汚染されることと、セシウムの半減期である約30年が経過しても、まだまだ驚くべき濃度が維持されていることに、二つながら驚かされます。
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チェルノブイリ原発事故、28年後の現場を訪ねる
日経BPネット 2014年10月17日 
 1986年4月26日、チェルノブイリ原子力発電所世界最悪の事故を起こした。2011年、その周辺地域を訪ねる見学ツアーが公に始まった。よりによって福島の原発事故が起きたこの時期に重なってしまったが、私はこのツアーに興味をもち、申し込んだ。約5万人の住民が去っていったプリピャチの街や周辺の集落の現状を見てみたいと思ったのだ。
 
 人の心の奥底には、惨劇が起きた場所を見てみたいという欲求が潜んでいる。火山の噴火にのまれたポンペイ、南北戦争の激戦地アンティータム、強制収容所のアウシュビッツ。いずれも今は不気味な静寂に包まれている。そして21世紀に入った今、私たち人間は原発事故の爪跡に恐れを抱きながらも引きつけられている。
 
 ツアーに参加した人々の動機はさまざまだ。私が最も興味をそそられたのは、モスクワから参加したアナという若い女性だった。チェルノブイリを訪れるのは3度目で、年内に予定された5日間のツアーにもすでに申し込んだという。「放置され、朽ち果てていく場所に魅力を感じるんです」とアナは言う。
 
無人の立入禁止区域は動植物の楽園
 バスの車中では、ガイドが2日間のツアー中の注意事項をもう一度繰り返した。高濃度の放射性物質を含むキノコ類には触らないこと。戸外で物を食べたりタバコを吸ったりして、放射線を発する物質を体内に取り込まないこと。
 
 ウクライナ共和国の首都キエフから100キロほど離れたチェルノブイリ原発周辺の立入禁止区域には、外界から遮断された大自然が広がっていた。事故から28年の間に、ほとんど人の住まなくなった一帯には、バイソンやイノシシ、ヘラジカ、オオカミ、ビーバー、ハヤブサなどの野生動物がすみついている。ゴーストタウンと化したプリピャチでは、人の住まなくなったソ連時代の集合住宅の屋上にタカが巣を作っていた。
(ナショナル ジオグラフィック2014年10月号特集「原発事故の現場を訪ねる チェルノブイリ見学ツアー」より)
 
 
トナカイ肉の放射能濃度が急上昇、ノルウェー
AFP通信 2014年10月10日
【10月10日 AFP】旧ソ連のチェルノブイリ(Chernobyl)原発で大事故が発生してからほぼ30年が経過したが、数千キロ離れたノルウェーでは最近、トナカイの肉に含まれる放射能濃度が急上昇し、食肉として消費するのは不適格となっている。同国政府機関が9日、明らかにした。
 
 ノルウェー中部では今年、原発事故で大気中に放出された放射性同位元素のセシウム137のトナカイの肉に含まれる濃度が1キロ当たり最大8200ベクレルに達した。同地域は1986年の原発事故で発生した「放射性プルーム(放射性雲)」により甚大な影響を受けた。
 ノルウェー放射線防護機関(Norwegian Radiation Protection Authority、NRPA)の研究者、インガー・マルグレーテ・アイケルマン(Inger Margrethe Eikelmann)氏は、AFPの取材に「これは、トナカイの食肉処理を行える上限値をはるかに上回っている」と語った。
 
 2年前にトナカイの肉に含まれていたセシウム137の平均値は1500~2500ベクレル。同国の許容限界値は3000ベクレルに設定されている。結果、毎年9月末に伝統的に行われているトナカイ数百頭の食肉処理が実施されることはなかった。
 「生態系では長年にわたってセシウムの減少がみられており、今年のトナカイでも基準値を下回ると考えていた」とアイケルマン氏は話す。
 
 放射能濃度が上昇に転じた原因は、今年の夏の暖かく、湿気の多い気候が、「ショウゲンジ」というキノコの成長を促進させたことにある。ショウゲンジは、トナカイやヒツジなどの放牧されている家畜が好んで食べる餌の一つだ。
 ショウゲンジは、土壌上層部に含まれる栄養を吸収する。ここにはセシウム137の大半が存在する。
 アイケルマン氏によると、トナカイがショウゲンジを食べなくなれば、体内の放射能濃度は2~3週間で半減するという。またショウゲンジは初霜が降りると、自然に姿を消してしまう。
 ただ野生で得られるトナカイの餌に改善がみられない場合、所有者らはトナカイを囲いのある牧草地に閉じ込めて適切な餌を与えることで、11月~12月には射殺処分することができるようになるとアイケルマン氏はみている。(c)AFP