電力会社が太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電設備の系統接続申請に対する回答を保留したことを受け、経済産業省はその対応策の検討を続けているということですが、この問題の起因するところなどについて、脱原発の第一人者である飯田哲也氏(環境エネルギー政策研究所所長)に、東洋経済の記者がインタビューしました。
飯田氏は、再生エネを送電網に受入れる容量は極めて小さいと電力会社が主張するのは、彼らの電源運用の発想が欧州型の新しいOS(オペレーティングシステム)になっていないからで、気象予測を充実させ発電ピーク時の電力会社分の出力抑制を行い、会社間連係、揚水発電、分散型電源の活用すれば再エネ導入を最大化することができるとしています。経産省もこれまでそれらを促進する態勢ではありませんでした。
より根本的には政府や電力会社が大規模集中型という従来方式に凝り固まっていることで、分散型エネルギーへダイナミックに変わらなければならないのに、系統ワーキンググループで接続可能量を決める際にも、過去30年の原発の平均稼働率を前提とするなど、強引に原発をベースロード電源に位置づけていることを挙げています。
そして「欧州が再エネ導入の制度設計で先行しているのに、日本はそれを学ぼうとしない。日本は先進国だと思っているようだが実は日本は後進国であり、そうした知的コミュニティから日本の役所全体が切断されている。先行した欧州での問題の改善策を学ぶため、欧州ときちんと協力協定を結んだほうがいい」と述べています。
また日本では特に原発は出力抑制はできないことを強調しますが、実際はそのようなことはなく、欧州に学んで出力制御を現状の「30日以内」などと日数単位ではなく、時間単位でやるべきであるとしています。
欧米では原発にコストメリットがないことが実証され衆知の事実であるにもかかわらず、いまだに原発にしがみついていることといい、再生エネの問題でも柔軟で先端的な知識も持たないまま、自分たちの既得権の固守しか念頭にない電力会社やそれを指導する経産省では、今後の前進はとても望めません。
そして世界一の電力料金、日本の電力会社とは??
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再エネ接続問題「経産省は古い発想を捨てよ」
飯田哲也氏に日本の政策の問題点を聞く
中村 稔※ 東洋経済オンライン2014年12月16日
※ 東洋経済 編集局記者
九州電力などの電力会社が再生可能エネルギー発電設備の系統接続申請に対する回答を保留したことを受け、経済産業省はその対応策の検討を続けている。今回の問題の原因と、今後の再エネ政策のあり方について、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長に聞いた。
飯田哲也(いいだ・てつなり)
1959年、山口県生まれ。83年、京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻修了。96年、東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。原子力産業や原子力安全規制などに従事後、「原子力ムラ」を脱出して北欧での研究活動や非営利活動を経て2000年、NPO法人 環境エネルギー政策研究所を設立して所長に就任。自然エネルギー政策に関して国内外で積極的に提言を続ける。
政府と電力会社の古い発想が根本原因
――接続申請の回答保留を巡る混乱の原因をどう考えるか。
直接的原因は、電力会社と経済産業省による制度設計や運用のお粗末さにある。地権者の同意のない場所の案件にも設備認定を与えたり、同じ場所に複数の設備認定を出したりするケースも多い。経産省は外形さえ整えば設備認定を出してしまう。それが電力会社の送電部門で引っかかって、本来の接続義務を果たせない。だから、設備認定量が7000万キロワット以上あっても、導入量は1000万キロワット強にすぎないというギャップができている。
太陽光については、買い取り価格40円(1キロワット時当たり、税抜き)の分が約2000万キロワット、36円の分が約5000万キロワットと大盤振る舞いして設備認定を出した。(価格改定直前の)3月に駆け込み申請が集中することも当初から想定されていたことだ。ドイツのように毎月2%ずつ価格を下げることも含め、FIT導入1年後に制度設計についてもっと詳細に検証すべきだった。
より底流にある原因として、電力会社の電源運用の発想が欧州型の新しいOS(オペレーティングシステム)になっていないという問題もある。気象予測や発電ピーク時の出力抑制、会社間連係、揚水発電、分散型電源の活用などによって再エネ導入を最大化する準備ができていない。経産省もそれを促進する態勢ではなかった。こうした古いOSがアップデートされずにいる。
さらに根っこにあるのは、かつての日本海軍の”大艦巨砲主義”と同様、政府や電力会社が古い発想に基づいたエネルギー政策の神話に凝り固まっていることだ。分散型エネルギーへダイナミックに変わるべき時に、古い固定観念に基づいて、(大規模集中型の)原発がベースロード電源であると強引に認めさせようとしている。
系統ワーキンググループで接続可能量を決める際にも、過去30年の原発の平均稼働率を前提として原子力の枠取りをしようとしている。「脱原発依存」の政府方針、国民総意に反するだけではない。より深刻なのは、ITの技術革新で日本が乗り遅れたように、エネルギーの技術革新においても、世界の潮流に乗り遅れてしまいかねないことだ。
これら「三層構造」の原因があるため、表面の制度的問題の解消だけでは片付かない。
――再エネ導入の制度設計で先行した欧州の教訓も十分生かされていない。
日本が最初に導入したRPS(電気事業者に対し、一定量以上の新エネルギーによる電気の利用を義務付ける制度)であれ、FIT(固定価格買取制度)であれ、欧米には技術や知識、議論の膨大な蓄積があるのに、そうした知的コミュニティから日本の役所全体が切断されている。だから、ゼロからのスタートにならざるを得ない。イタリアやスペインでのバブル崩壊の教訓も生かされていない。
2年程度で担当者がコロコロ変わる役所文化も関係していよう。また、経産省の再エネの担当者は熱心にやるが、省庁内では再エネが本流ではないので孤立している。そうしたいろいろな要因が絡まりあって、お粗末な状況を生んでいる。
事業者側の問題点とは?
――再エネの事業者サイドの問題点は。
まず一気に(太陽光発電導入に)走ったのは不動産系の人たちだ。それから商社やリース会社など、利にさとい業者が土地の囲い込みを行い、かなり乱暴な設備認定に走った。これらを法律できちんと縛ることができればよかったが、民主党政権は役所をコントロールするガバナンス(統治能力)がなかった。だが、経産省と一体の自民党政権下で制度設計をしていれば、よりひどいものになっていたかもしれない。
再エネには地域のオーナーシップが大事だ。外部資本が土地を囲い込んで、自治体は地代や固定資産税だけを手にして何も考えないというのは、地域社会のあり方として好ましくない。地域の人たちが再エネの担い手となる場合は、外部資本が植民地的にやる場合に比べ、20年間にわたって倍ぐらいの収入が期待できる。
地方自治体があまりに無策なので、吉野ヶ里遺跡にメガソーラーを作ろうとしたり、湯布院で反対運動が起きたり、混乱が起きている。一人当たりの風車密度が世界で最も高いデンマーク(国内に約6500基)などは、土地利用に網をかけて、風力発電の適地を絞り込んでいる。だから、風車が景観を汚しているとか、騒音がうるさいとかの反対運動がほとんどない。
――今後、制度面などでどのような見直しが必要か。
「三層構造」の原因をそれぞれのレベルで解消していかねばならない。制度運用の改善については、系統ワーキンググループで議論されている(出力抑制などの)対処療法も必要だが、もっと先を見据えた制度改正をすべきだ。そのためには、先行した欧州での問題の改善策を学ぶため、欧州ときちんと協力協定を結んだほうがいいだろう。
中国で2005年ごろから風力発電が爆発的に伸びたのは、02年ごろからドイツやデンマーク、スペインの政府の経験者や研究者が中国政府と一体となって制度設計を行ったためだ。
日本は先進国だから自分でできると高をくくっているかもしれないが、実は日本は後進国で、十分にできていない。もっとプログレッシブ(進歩的)な政策を取り入れていくべきだ。出力抑制にしても、現状の「30日以内」などと日数単位ではなく、時間単位でやる。電力会社の接続義務は決まっているのだから、きちんと実体化されるように施行令の見直しも必要だ。
また、FITの法律(2011年8月に成立した「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」)には接続義務は書かれているが、「優先給電」については書き込まれていない。いまだに原子力が優先されている。ドイツもスペインもフランスも、再エネの出力変動に応じて原子力を変動させている。原子力は止めない限りは出力を変動できる。日本では、"政治の空気"によって封印されているが、技術的には可能だ。これはしっかり再検討すべきだろう。
東電管内でも起きている「ローカルネック」の問題については、送電線の費用原則を見直すことが必要だ。送電線にかかる費用は、発送電分離後も総括原価方式によって電気料金で負担される。再エネにも同じ原則を適用すべきだ。今は原因者負担で、再エネ事業者が払っているが、総括原価方式の中でユーザー全体の負担にすべき。これは法律改正なしにできる。
この見直しなしに発送電分離しても、今の状況は変わらない。
――将来的に再エネを最大限どこまで入れていくべきか。その際に、国民負担の抑制とどう両立していくべきか。
まず量的に言えば、可能な限り導入すべきだ。究極の理想は(全需要量の)100%。資源を持たない日本は、自然エネルギー100%を目指すべきだ。数年前までは夢物語だったが、今ではかなりリアリティが出てきている。海外では、風力発電の価格が石炭火力発電の価格を下回っている国も多い。太陽光発電でも、電気料金を下回っている国もある。コストはどんどん低下しており、量的にも爆発的に拡大している。
ドイツは2050年に再エネ比率80%、デンマークは100%を目指している。途中のマイルストーンとして2030年に21%以上(現在の日本政府の目標)というのもいいが、どこまで増やすべきかという観点では100%以外にない。
ドイツでは来年度から賦課金が低下へ
では、コストの問題はどうかというと、風力、太陽光など分散型エネルギーの特徴は、技術や性能の向上に従いコストが低減する技術学習効果が機能することで、それがまさに現実化している。太陽光でいうと、数年前はキロワット当たり(の導入コストが)80万~100万円だったのが、今では20万~30万円程度まで下がっている。1キロワット時当たり40円とか36円とかに固定してしまったのは失敗で、今後のコスト低下を織り込んでいくことが重要だ。
ドイツでは来年度の家庭の賦課金の負担がFIT導入以来、初めて下落に転じる。再エネのコストは無限に上がるのではない。普及につれて段階的に上がっていくが、10~20年後には追加負担なしで普及が進むようになり、賦課金総額はピークアウトする。事故が起こるとどこまで将来コストが膨らむかがわからない原発とはそこが違う。
また、今はたまたま原油価格が下がっているが、ピークオイル論のリスクがあり、どこでハネ上がるかわからない化石燃料と比べた時に、将来的に山を形成したあとに下がっていく再エネの費用は、将来世代に対する”貯金”ともいえる。もちろん、破局的に高い負担はできないが、今の設備認定分がすべて導入されたとしてもキロワット時当たり3円程度にすぎず、東電の原発事故でシワ寄せされた今の電気料金の上がり方と比べても、決して破局的とはいえない。
しかも、再エネはすべて国内投資なので、GDP(国内総生産)にプラスに働く。国民が電気料金で負担しても、資金は国内に回る。原油価格に払うカネはGDPにはストレートにマイナスに働くわけで、資金の意味合いがまったく違うことを認識する必要がある。