2014年12月31日水曜日

野生キノコの出荷制限 基準は厳しすぎるのか

 
 福島民報が福島県内の野生キノコの放射性物質検査の問題を取り上げました。
 
 それによると県内55市町村で続けられている野生キノコ出荷制限の解除は、3年続けて基準値を下まわった品目に限るとされていて、2年目は1年目の数値よりも下がっていること、3年目は60地点から60検体を採取して全てが合格しなければならないこと、などとハードルが高いとしています。
 
 しかし検査対象はセシウムのみで、その基準値は1キロ当たり100ベクレルというものです。これは福島原発事故前なら放射性廃棄物に当たる濃度で、それを3年連続でクリアしたから安全だといわれても直ちには受け入れがたいものがあります。
 そもそもセシウムの半減期は約30年なので、高濃度汚染された土壌で育つキノコの汚染濃度が僅か数年で急速に減少することなどあり得ません。それは事故後30年近く経っているチェルノブイリの現状を見ても分かるとおりです。
 
 公開されているキノコの放射能写真(ラジオグラフ)を見ても、うっすらと浮かぶキノコの画像(セシウムベースと思われます)の所どころにまるでホタルが止まったかのように点々と明るい点が見られますが、あれは一体何なのでしょうか。もしもセシウム以外のベータ線発出源などであれば大変なことです。
 
 キノコ採取業者から見ればハードルは高くて不便なのでしょうが、将来に渡る国民の健康維持にとっては現行の基準は絶対に必要である上に、逆に1キロ当たり100ベクレルなどの基準は緩すぎて話しになりません。
 
 汚染された土地に育つキノコを僅か数年で食用に供しようという考え方にも無理があります。
 業者には必要な賠償を行って、その一方で国民の健康維持に役に立つ検査基準に改善して欲しいものです。
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野生キノコの出荷制限 1年目クリア3町村 森林除染なく手続き厳格
福島民報 2014年12月30日
 東京電力福島第一原発事故に伴い、野生キノコは県内55市町村で出荷制限が続いている。政府は3年続けてで基準値以下だった品目に限り制限を解除する方針だが、今秋、1年目の検査をクリアしたのは会津地方の3町村にとどまる。森林除染が実施されない中、関係者は「消費者に安心してもらうため厳格な検査は仕方がないが、何とか改善できないか」と頭を抱える。県は検査要件の見直しを林野庁などに求めている。
 
■高いハードル
 野生キノコの品目ごとの出荷制限解除に向けた検査手順は【図】の通り。山林に定点を5地点設け、採取した5検体全てで放射性セシウムが食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)以下だった場合、2年目の検査に進む。2年目は、基準値以下に加え、前年度より低下しなければ3年目に進めない。
 3年目にはこれまでの検査のほか、最終検査がある。林野庁方針では、60地点から60検体を採取し、セシウムが全て基準値以下でなければ出荷制限が解除されない。
 検査機器の精度によって違うが、1検体当たり約200~700グラムが必要。マツタケなどの希少種は60検体の確保が困難とみられる。
 検体の必要量確保の見通しが立たず、今秋、1年目の検査に臨まなかったのは49市町村に上る。
 
■検体確保できず
 1年目の検査をクリアしたのは西会津町の野生ナメコ、会津美里町の野生ナメコとムキタケ、北塩原村のマツタケだけだ。
 一方、喜多方市はマツタケ、只見町はウラベニホテイシメジとコウタケ、ナラタケの出荷制限解除を目指したが、5地点の採取場所を確保できなかったり、検査に必要な量を集め切れなかったりしたという。会津地方の1自治体はサクラシメジで基準値を超えたため、来秋再挑戦する。
 「マツタケを60検体集めるのはかなり厳しい」。北塩原村で長年マツタケを採取してきた落合義美さん(85)は言う。1検体約700グラムとした場合、マツタケ10本前後は必要だ。天候などに左右されるため、採取場所に何本自生するか分からない。村担当者も「マツタケは全く出ない年もある。60検体を集めるのは非現実的」と指摘している。
 
■平行線
 県や林業関係団体は、品目によってはセシウムが安定的に基準値を下回っているにもかかわらず、全ての野生キノコの出荷が制限されているのはおかしいとして、政府に対し見直しを求めてきた。要望を受け、政府は今春、安全性が確認された品目から出荷制限を解除する方針を決めた。
 さらに県は、制限解除に向けた検査期間の短縮や検体数の削減を林野庁や厚生労働省に要望している。県林業振興課の担当者は「実態に即した現実的な検査方法に改めるべきだ」としている。
 一方、林野庁の担当者は「(最終検査の)60検体は厳しいと思うが統計的、確率的に信頼を得るために必要」と説明する。政府の方針と県側の要望は平行線をたどる。
 
■市町村 検査に二の足
 野生キノコの出荷制限解除に向けた最短3年の検査に市町村や林業関係者は二の足を踏む。背景には森林除染を進めない限り、安全性を十分に担保できないとの考えがあるとみられる。
 
■下がらない数値
 棚倉町にある山本松茸組合は平成23年秋から恒例の「きのこまつり」の中止を余儀なくされている。
 マツタケのモニタリング検査を続けているが、食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)超えが続き、横ばいのままだ。山の手入れは歩道の整備だけにとどまり、出荷制限解除に向けた見通しが立たない。東電からの賠償金などで組合の運営をつないでいるという。
 「森林の除染をしなければ(マツタケの)数値は下がらない」。陣野稔組合長(63)は、早急な森林除染の必要性を訴える。ただ、「広大な山林全体は除染できない」とも話し、途方に暮れた。
 
■データ蓄積必要
 出荷制限の解除に厳格な手順を踏まざるを得ない背景には、野生キノコの特性にある。林野庁によると、キノコは地面や樹木表面から栄養分のカリウムを取り込むため、カリウムと性質の似た放射性セシウムも一緒に吸収する。キノコの採取場所によって、含まれるセシウム濃度が違うという難点もある。
 福島大の小山良太教授(農業経済学)は「最初から解除ありきでなく、定点の観測は評価できる。ただ、出荷制限を解除した後の基準値超過は許されない」と語る。雨の多い年に野生キノコのセシウム濃度はどうなるかなど、さまざまな条件のデータを蓄積した上で「水産物や農産物の出荷制限解除のように、慎重に進めてほしい」としている。