原発の規制基準は、住民を被曝から守るということが最大の目的であり、極論すればそれが唯一の目的ともいえます。ところが昨年制定された新規制基準でも、「住民を安全に避難させる」避難計画の有無や実効性に関しては何も規定していません。最も重要とされている要件が欠落しているわけで、「世界で最も厳しい規制基準」などではありません。
そうであればその欠落を行政面で補う責任は政府にあるわけですが、政府は避難計画の立案を含めて再稼動には関与しないというのが表向きの姿勢=建前です。
安倍首相を先頭にして政府が原発を再稼動を叫んで止まないというのが実態であるのにもかかわらず、何んとも理解のしようもない話です。
それでは地方自治体はどうでしょうか。
川内原発の立地県である鹿児島県の知事は、30キロ圏内の避難弱者の避難計画は立てられないと公言し、避難計画の立案を行う県や市町村の実務者もやはり立案できないことを認めています。
実効性のある避難計画を作るのが実際上不可能ということであれば、原発の運転=再稼動は不可能ということです。これは議論の余地もないことがらです。
実効性のある避難計画が立てられないのは、川内に限らず日本のどこでも同じことです。要するに日本では原発は動かせないということです。
いずれこれが確固たる世論になって行けば、原発の廃止はおのずから達成されることになります。
そのためにも、住民が納得する避難計画が立てられるのかどうか、先ずは取り組んでみる必要があります。
南日本新聞の社説を紹介します。
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(社説) 川内原発の避難 住民が納得する計画を
南日本新聞 2014年7月22日
原発事故時に半径30キロ圏の住民の避難時間を試算した19道府県のうち、市町村が避難計画に試算結果を反映したのは、約3割の6府県にすぎなかった※。
( ※ 添付記事参照 )
鹿児島県内の9市町も反映していなかった。これらの自治体は、10月にも再稼働が見込まれる九州電力川内原発の地元とその近辺である。避難対象の住民は約21万5000人に上る。
国が再稼働を急ぐのなら、避難計画の実効性を高める施策をしっかり打ち出してもらいたい。
9市町が試算結果を活用していないのは県の公表が5月下旬で、まだ間もないこともある。
だが、それより大きな理由は、そもそも県の試算が、9市町の避難計画の充実に役立つほどの中身に乏しいからである。
いちき串木野市の担当者が「市町ごとの避難時間や経路の記載がなく、計画に反映できる内容かどうかも分からない。がっかりだ」と憤るのはもっともだ。
県の試算の「欠陥」はまだある。身障者や高齢者ら避難時の要援護者と離島への考慮もない。避難経路の変更につながる風向きも考えていない。これでは9市町が計画に活用したくでも、できないのが実態だろう。
数々の欠陥を補うため、いちき串木野市議会は6月下旬、伊藤祐一郎知事宛てに「実効性のある避難計画の確立を求める意見書」を全会一致で可決した。
意見書は、説明会で住民から出た「30キロ圏外へ数時間以内で避難できる計画を作る」など、同市の計画への要望をまとめた。そのため、県に再試算を求めたのだ。
ところが県は、7月1日の議会で「市町の担当者から避難時間の要望はない」と、再試算しない考えを明らかにした。理解に苦しむ答弁だ。県民の安全に責任をもつなら、せめて30キロ圏内の声は進んで聞くべきである。
伊藤知事は半径10~30キロ圏の要援護者の避難計画を「現実的ではない。作らない」との見解を示した。軽率ではないか。その後、議会で「保護を最大限図る観点から判断したい」と軌道修正した。
対象圏内には施設などに1万人近い要援護者がいる。ほかに在宅の人も多い。自由に動けない人々への配慮を欠いてはならない。
9市町では、日置市東市来の自治会が市の避難計画を独自に検証したり、姶良市議会が川内原発の廃炉を求める陳情を採択したり、さまざまな動きが出てきた。
避難計画をはじめ、誰が川内原発は安全と判断するのかなど、曖昧なままで進む再稼働への異議申し立てにも見える。注視したい。
原発事故避難計画に反映3割のみ 19道府県の時間試算
東京新聞 2014年7月20日
事故時の住民の避難にかかる時間を試算している原発から半径30キロ圏の19道府県のうち、避難計画などの実効性の向上に結果を反映したのは約3割の6府県にとどまることが20日分かった。秋にも再稼働が見込まれる九州電力川内原発(鹿児島県)など原子力規制委員会の審査が進む原発でも遅れが目立っており、防災面の整備が置き去りにされている実態があらためて浮き彫りになった。
30キロ圏の住民が圏外に出るのにかかる時間は、東北電力東通原発がある青森県で、全国でも最長となるほぼ丸3日間の70時間50分などと厳しい試算ケースもあり、避難計画への活用が難航しているとみられる。 (共同)