川内原発(鹿児島県)について、原子力規制委は九州電力の安全対策が事実上、審査に合格したことを示す審査書の案を了承しました。
原発の新規制基準「合格第1号」ですが、クリアしたのは設備面でのハード対策のみです。それも基準地震動は従来値の僅か1.15倍アップの620ガルにとどまり、火砕流は当面30年間には発生しないだろうという希望的観測に基くもので、火山学会のトップが「30年以内に起きないかどうかを含めて予測できない」とコメントしているのを無視したものでした。
加えて新規制基準と、原発の安全確保の「車の両輪」の関係にある、防災対策(=住民避難など)の有無や内容については関与しないというものです。
この防災対策は、国際原子力機関が定める国際基準の「深層防護」の第5層「最後のとりで」に当たるもので、米国では規制の対象になっています。にもかかわらず昨年制定した日本の新規制基準ではそれを除外しています。
安倍首相は「世界で最も厳しい」と常々豪語していますが、それも国民を欺く根拠のないウソ・偽りです。
防災対策が基準から除外されている以上、国・行政が責任をもってカバーすべきであり、それは住民の合意の成否以前の問題です。
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川内原発 安全対策「合格」の審査書案了承
NHK NEWS WEB 2014年7月16日
鹿児島県にある川内原子力発電所について、原子力規制委員会は九州電力の安全対策が事実上、審査に合格したことを示す審査書の案を了承しました。
一般からの意見募集を経て川内原発は新しい基準に適合する初めての原発となりますが、そのあとも地元の同意や設備の検査などが必要で再稼働は早くて10月以降になるとみられます。
川内原発1号機と2号機で進められている九州電力の安全対策を審査してきた原子力規制委員会は「原発の新たな規制基準に適合している」とする審査書の案を全会一致で了承しました。
審査書の案は17日から来月15日までの30日間、一般からの意見募集が行われ、寄せられた意見を踏まえた正式な審査書が完成すると、川内原発は原発事故を受けて見直された新しい基準に適合する初めての原発となります。
その後は再稼働の必要性や重大事故への対策などを住民が十分納得できるように国や九州電力の説明がなされるのかや地元自治体がどのような判断をするのかが焦点になります。
また九州電力は原発に設置された機器の詳しい設計の資料などを提出して規制委員会の認可を受ける必要があるほか、設備の検査などの手続きが残されていて、九州電力が目指す川内原発の再稼働は10月以降になるとみられます。
「1つの山を越えた」
原子力規制委員会の田中俊一委員長は会合を終えたあとの会見で、「もう少し早くまとめられるかと思ったが、いろいろあって時間がかかった。安全を確保するため、重大事故対策をハードとソフトの両面できちんと評価したし、自然災害も適切に評価してきた。今後も改善を図っていくが、1つの山を越えたと思う」と、心境を述べました。
審査を経た川内原発の安全性については、「一定程度、高まった」と評価したうえで、「まだ自然のいろいろなことや技術も含めて、分からないことや人知の及ばないことがある」と述べて、基準を満たせば事故のリスクがゼロになるわけではないという考えを改めて示しました。
そのうえで再稼働の判断については、「事業者と住民、それに政府など関係者の合意で決まることで、そのベースとしてわれわれの審査がある」と述べ、規制委員会は関与しないという従来からの考えを強調しました。
一方、ほかの原発の審査については「高浜原発は論点がほぼ整理されているし、玄海原発も相当、詰まってきたと感じている。審査書のひな形ができれば、いつとは言えないが、私が期待したようにある程度、進んでいってくれると期待している」と述べました。
「安全確保に万全期す」
九州電力は「今後とも、原子力規制委員会の審査に、真摯(しんし)かつ丁寧に対応するとともに、更なる安全性・信頼性向上への取り組みを、自主的かつ継続的に進め、原子力発電所の安全確保に万全を期してまいります」というコメントを出しました。
「安全だと理解」
川内原発が立地する薩摩川内市の岩切秀雄市長は審査書案が了承されたことについて、「今後も原子力規制委員会には厳正かつ慎重な審査と確認を行ってもらうとともに、九州電力には適切な対応を求めたい」と述べました。
そのうえで、「厳しい規制基準をクリアして審査書の案が了承されており、川内原発は安全だと理解している。安全を大前提としたうえでの再稼働については、市民の理解を得られていると考えているが、再稼働については今後、議会の意向を踏まえて考えていきたい」と話していました。
「安全なら再稼働進めたい」
安倍総理大臣は、宮城県東松島市で記者団に対し、「原発は安全第一で取り組んでいかなければならない。今般、審査書案が提出されたことは一歩前進だと思うが、規制委員会の審査はこれからも続いていく。世界でも最も厳しい安全基準にのっとって科学的、技術的にしっかりと審査し、安全だという結論が出れば、立地自治体の皆さんのご理解をいただきながら再稼働を進めていきたい」と述べました。
そのうえで安倍総理大臣は、「政府、事業者それぞれが、しっかりとその責任を果たしていくことによって、福島第一原発の事故のような過酷な事故が二度と起こらないようにしなければならない」と述べました。
(中 略)
「課題は人の対応力」
原子力工学が専門で、新しい規制基準を作成した原子力規制委員会の有識者会合の委員を務めた明治大学の勝田忠広准教授は、「審査では、書面上でこういう重大事故対策を取ると言っているだけなので、必要とされる機器や人がきちんと動くのかという問題がある。福島第一原発と同じような事故はそれなりに防げると思うが、違う形態の事故が起きたり、経験したことがない自然災害が起きたりしたときに、どの程度、対応できるかは分からない。課題は人の対応力で緊張感を持って訓練が行われているかを、規制当局や第三者が厳しくチェックできるようにすべきだ」と指摘しました。
また、住民の避難計画を巡っては「どのように避難するかが最も重要なので、安全対策が審査を通ったからこれで大丈夫ではない。再稼働の判断には防災対策が十分かどうかも考慮すべきだ」と話しています。
川内原発:「合格第1号」住民避難なおざりに 規制対象外
毎日新聞 2014年07月16日
国際原子力機関(IAEA)は、原発事故へ対処する国際基準として「深層防護」と呼ばれる5層にわたる多重的な安全対策を定めている。想定外の事故が起きても住民の被ばくを防ぐ「最後のとりで」である第5層の防災対策は、米国では規制の対象だ。原発を稼働する前にNRC(米原子力規制委員会)の認可を受ける必要がある。
だが日本では、東京電力福島第1原発事故後も、第5層の防災対策は依然として対象外だ。住民の避難方法や避難場所などを定める地域防災計画や避難計画は、災害対策基本法に基づき自治体の責任で策定し、政府は策定を「支援」するだけ。川内原発では防災対策の対象となる半径30キロ圏の全9市町が策定を終えたが、規制委を含めた政府は計画の実効性を一切チェックしないままだ。
規制委幹部は「国が自治体の業務に口を出すことは立場上できない」と繰り返すが、原子力行政に詳しい吉岡斉・九州大教授は「規模の小さい自治体が独自に対処できる問題ではなく、規制に組み込む法改正が必要だ」と指摘する。
福島第1原発事故では、放射性物質の拡散情報が住民に伝わらず、入院患者など災害弱者の避難も遅れ、多くの被ばくや関連死を招いた。原発が国策民営で進められてきたからこそ、国は防災対策を自治体に丸投げせず、自ら担うべきだ。事故の最大の教訓の一つである防災対策を「置き去り」にしたままの再稼働は住民の理解を得られまい。【酒造唯】