全住民が避難している福島県楢葉町は、早ければ来春にも帰還を宣言します。
しかし本当にそこに住めて、町の主産業である農業が営めるのでしょうか。
東京新聞がある専業農家の自宅、周辺、田んぼ、沢などの汚染状況を調べた結果は下記のとおりでした。
居間 0.25~0.3 マイクロシーベルト/時 (2.2~2.6ミリシーベルト/年)
田んぼ 0.7~0.8 〃 〃 (6.1~7.0 〃 〃 )
ため池 0.6~0.8 〃 〃 (5.3~7.0 〃 〃 )
沢 0.6 〃 〃 ( 5.3 〃 〃 )
田んぼの土壌中のセシウム量は3785ベクレル/kg、農業用水のため池は5451ベクレル/kgでした。
とても居住したり農作業が出来るような環境ではありません。これでは町民は帰還できません。ムラ(村)=マチ(街)が形成されなければ、生活は成り立ちません。
東電はある訴訟で、汚染された環境を元通りにしてくれと言われたとき、「元通りにするには5兆円も掛かるから出来ない」と言ったそうです。そういう問題でしょうか。たとえ除染の費用が10兆円・20兆円になったとしても、国と東電は元通りの、健康的な環境に戻す義務を負っている筈です。
東大の児玉龍彦教授は福島原発の事故が起きたときに、国会で、たとえ数十兆円が掛かろうとも早く除染しなければならないと強調し、「国会は一体何をしているのですか」と訴えました。
しかし、国はその金が惜しいがために、なんと年間20ミリシーベルト以下は問題ないという、チェルノブイリの実態からも大きく逸脱したことを言い出し、それで政策を立てて今日に至っています。
年間1ミリシーベルトが限界というのは国民の常識になっていたのに、事故が起きてから「20ミリまでは安全だ」と言い出しても誰も信用しません。
食品についても、それまではキロ当たり100ベクレルを超えるものは放射性廃棄物であるとして厳重隔離・保管を義務付けていましたが、事故が起きると今度は「100ベクレル以下であれば食べても大丈夫」に変わりました。
これがチェルノブイリの事故の約25年後に起きた福島原発事故への国の対処です。
東京新聞の記事を紹介します。
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楢葉 来春にも帰還宣言だが… 農家「生活成り立たず」
東京新聞 2014年6月10日
東京電力福島第一原発事故で全住民が避難している福島県楢葉(ならは)町が、早ければ来春にも帰還を宣言する。町の主産業は農業。ある専業農家を例に、帰還して暮らしていけるのかみてみると、田んぼや水源が放射能汚染で脅かされ続けている厳しい現実があった。 (大野孝志、山川剛史)
いわき市に避難中の専業農家塩井淑樹(よしき)さん(63)の協力を得て、本紙は楢葉町の自宅や周辺、田んぼ、そこに流れ込む水の水源地など暮らしにかかわる場所の汚染状況を調べた。
測定の結果は図の通り。国の本格除染は終わったものの、放射線量を測ると居間が毎時〇・三マイクロシーベルト弱、田んぼは〇・七マイクロシーベルト前後あった。屋外にいる時間が長いだけに、一般人の年間被ばく線量限度(一ミリシーベルト)の三~四倍を覚悟する必要がありそうな環境だ。
健康面だけでなく、専業農家として農作物が収入になるかが重要だ。独協医科大の木村真三准教授の協力で採取した田んぼの土の放射性セシウム濃度を測定すると、高い地点は一キログラム当たり約三八〇〇ベクレルとかなり高い値を示した。田んぼで使う水を引き込むため池や、水源地の汚染も調べると、人里から離れ、上流側になるほどセシウム濃度が高くなる傾向は明らかだった。
農林水産省の調査では、カリウムを適正量まけばイネはあまりセシウムを吸収せず、食品基準(一キログラム当たり一〇〇ベクレル)を大きく下回るとの結果が出ている。
塩井さんはこうしたデータは知っているが、「いくら基準を満たしたコメだと言われても、田んぼにはしっかりセシウムが残っている。被ばくのことより、作物を売って生計が成り立つかどうか見極めている。生活の先行きが見えないうちは帰らない」と話した。
基準を満たしたコメはJAが全量を買い上げ、当面は政府備蓄米として国に買い取ってもらう。福島県の担当者は「なるべく通常に流通させたいが売れない。当面は備蓄米を活用する」と話した。ただ備蓄米は毎年、国と都道府県が協議して出荷量の枠を決め、その枠内でJAが落札する仕組み。JAが農家から集めたコメの売却枠を十分確保できるかどうかは不透明だ。
◆新しい農地提供も
元国会図書館職員で内外の農業事情を調べてきた農業情報研究所主宰の北林寿信(としのぶ)氏の話
カリウム散布などセシウム吸収抑制策により、作られたコメは安全かもしれない。しかし、熱心な農家ほど喜んで食べてもらうのが喜び。無理に営農を再開させても、生きがいは感じられないだろう。国や自治体は、新しい農地を提供する道も模索すべきだ。