5月31日のブログ「とある原発の溶融貫通(メルトスルー)」に「低線量被曝データはあった なぜ誰もそれに言及しない?」とする記事が載りました。
その元記事は2011年8月26日付の夕刊フジの同題の記事で、要旨下記の内容です。
(財)放射線影響協会が作った「原子力発電施設等 放射線業務従事者等に係る疫学的調査(第Ⅳ調査)平成17年度〜平成21年度」で、原発で働く人22万7000人を対象にして追跡調査を行った結果、平均の累積被曝線量13.3ミリシーベルトでも、通常の人に比べて癌の発症が4%増えることが明らかになった。
4%といえばインフルエンザが猛威をふるうときの罹患率に相当するもので、極めて高率です。
ちなみに原発などで働く放射線業務従事者の通常の放射線被曝限度は、1年で50ミリシーベルト(以下mSvと略)、5年で100mSvと定められているので、それを大幅に下回った値でも、極めて危険であるということが明らかにされたわけです。
元記事(=3年前の夕刊フジの記事)を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~
低線量被曝データはあった なぜ誰もそれに言及しない?
夕刊フジ 2011年8月26日
見えない恐怖が続いている。放射能は無味無臭で見えない。見えないのだから、政治が悪い。トップの菅直人首相が悪い。いや、信用できないから辞めていただこう。いや、できる限りのことはした(菅首相)。こんな不毛な応酬が続く。これでいいのか? そんな国会中継のTVをつけていたら、こんな声が聞こえた。
「今までICRP(国際放射線防護委員会)も含めてですね、全然データがないんです」
8月1日、参議院復興特別委員会で質問に立った古川俊治議員の声だった。そして、こう続いた。
「実際、長崎、広島、原爆の問題。その後チェルノブイリが1回あっただけです。60年前ですね。その頃の科学的知見は十分ではなかった。チェルノブイリではなかなかモニタリングができなかった。ほとんど世界にデータがないんです。何もわかってないのが現状」
その通り! と相槌を打った。だから、政府、経産省、原子力委員会、東電は、いたずらに「ただちに健康に影響はありません」と繰り返すのでなく、データを公表し、正確にはわからないと告げ、避難については個人の判断にゆだねるべき、と思ってきた。
ところが、古川議員からは意外な言葉が飛び出した。
「22万7000人ばかりを調査した、立派な調査があります」
それは、文科省の委託を受けた財団法人放射線影響協会が作った「原子力発電施設等 放射線業務従事者等に係る疫学的調査(第Ⅳ調査)平成17年度〜平成21年度」である。原発で働く人を対象にした追跡調査。世界で同様の調査は行われているが、戸籍制度がしっかりしている日本のものが、実は最高に優れているという。
その資料を持ちだして、古川議員は何を問おうというのか。
「放射線従事者の方々は長期被曝しておられます。一般の方々と比べた場合、癌のリスクは1.04倍になります。明らかに偶然では説明できない差をもって、放射線従事者のほうが、癌がたくさん発生してるんですね」
原発などで働く放射線業務従事者の通常の放射線被曝限度は、1年で50ミリシーベルト(以下mSvと略)、5年で100mSvと定めている。であれば、少なくとも限度以内では安全、と思う。ところが、1.04倍。100人に4人は癌の発症が増える。
古川議員はさらに決定的な数字を突きつける。
「この放射線従事者の方々の平均の被曝線量は累積で13.3です。20ミリ以下ですね」
そして、労災認定の例を挙げる。
「過去に癌を発症して労災認定をされた方は10人いますが、最も少ない人は5ミリの被曝だったんですよ。政府が被曝との因果関係を認めてるわけですよ」
5mSvの労災認定とは、中部電力浜岡原発で働いていた孫請け会社元社員・嶋橋伸之さん(当時29)が慢性骨髄性白血病で91年に死亡し、94年に認定されたものだ。嶋橋さんの放射線管理手帳によれば、約8年10カ月で累積被曝線量は50.93mSv。従事年数で累積線量を割れば、約5.6mSvとなる。
では、文科省が決め、内閣参与の東大教授が涙ながらに辞任した「校庭利用限度20mSv」は?
「1年経過後に白血病を発症する生徒の皆さん、みーんな補償することになりますよ」(古川)
最も大きな問題は原子力安全委員会が持っていた緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム「SPEEDI」を5月2日まで公表しなかった点だ。
細野首相補佐官(当時)が「(公表すれば)パニックになるから」と言ったことを指摘し、古川議員は「被害を知らなかったとすれば無能だが、故意に隠したなら刑事責任を問われる」と責めたてた。
菅政権が無能かどうかなど問題ではない。原発事故への対応は犯罪だった。これが核心である。
【医師である古川議員が指摘する隠された問題】
参院議員会館へ古川議員を訪ねた。医学博士でありながら司法試験に合格し、弁護士も務めることで話題になった有名人だ。 議員は、放射線影響協会がまとめたデータと政府が安全指針とするICRPのテキストを並べ、「19年間調査した立派な資料です」と、国会答弁と同様に言った。
いわば、政府は国際基準よりずっと詳細なデータを持ちながら、低線量被曝のデータに弱いICRPばかりを根拠にしてきた。
古川議員は「普通の議員では、放影協会のデータは、読み解くことができない」とも言う。
議員は、120ページにおよぶ平成22年度の調査書を繰りながら、放射線による有意な(偶然ではない)癌発生との関連を「タバコと飲酒のせいにしている」と憤る。
放射線をたくさん浴びた作業員は喫煙と飲酒量が多いという馬鹿げたグラフがあるのだ。
59ページには「累積線量との関連が認められた食道、肝臓および肺の悪性新生物(癌のこと:筆者注)に、喫煙等の生活習慣が交絡している可能性も否定できない」とある。
つまり、放射線と癌の関係は低線量でも認められるのに、それを生活習慣のせいにしている。
それこそ、無知か故意かはわからないが、閣僚たちは原子力村がねじ曲げた結論を基に、「健康への影響はない」と言い続けているのだ。
古川議員は議会で被災地域の約20万人のうち3割、6万人が癌で亡くなると断言した。20mSvの被曝なら約960人が、10mSvなら約480人が亡くなる。増えた分はSPEEDIを隠した政府の責任だ。
菅首相は「(SPEEDIを)知らなかった」と応えた。
今後の福島県の調査で数十年後癌患者が増える、その補償をどうする、との問いに海江田経産相は驚くべき答弁をした。
「訴えてください」と言ったのだ。
議論がかみ合っていなかった、とは私も感じた。だが、それは政府側が自分の頭で考えず、原子力専門家の意見を鵜呑みにしているからだ。医師でもある古川議員は非常に重要なことを言った。
従来ないとされていた低線量被曝の影響データは、実は日本にある。あるのに国は目を留めず、この日のやり取りは、どの新聞もTVも取り上げていない。
■低線量被曝データが存在?
福島原発事故以降、放射性物質拡散と低線量被曝の危険性について政府は、国際放射線防護委員会(ICRP)の基準を元に、安全との見解を示してきた。だが8月1日、参議院復興特別委員会で自民党の古川俊治議員が放射線影響協会の資料を示し、低線量被曝の国内調査結果が存在すると主張。それまで同件の国内調査結果はないとされていた。