「原子力市民委員会」が31日、川内原発がある鹿児島県薩摩川内市で開いた自主公聴会には、県内外から約100人が参加しましたが、そこでは「障害者などの要援護者は福祉施設に確実に避難できるのか」「事故が発生したら九電は適切に対応できるのか」などの意見が出されました。
全国の原発の周辺住民の避難時間を独自試算した「環境経済研究所」の上岡直見代表が31日、佐賀市内で講演し、「事故時、現場は復旧に手一杯で外部に情報発信をするのは難しい。そうなると自治体側も住民に具体的な避難指示はできない」ので、その分避難の開始が遅れることや、佐賀県などがまとめた避難時間推計では、汚染検査の時間や30キロ圏離脱後最終避難所までの時間が抜けていることを指摘しました。
南日本新聞は社説で、鹿児島県が公表した川内原発周辺からの避難計画(所要時間試算)には、
・関係住民が最も知りたい市町別の避難時間がない
・身障者ら要援護者や海を隔てた離島の対応策もない
・放射性物質の拡散に影響し、避難経路の変更につながる風向きも考慮していない
などの問題があることを挙げ、特に30キロ圏内に240カ所ある福祉施設の避難計画はほとんど手つかずであること、避難時の風向きによって避難経路や避難先が変わるのを考慮していないことを問題であるとし、避難時間の試算をやり直すべきだとしました。
このように避難計画が一応作られたところでも課題は山積の状態です。
万全な避難方法が整う前に再稼働の議論をすることは、あってはならないことです。
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市民団体が自主公聴会=川内再稼働「避難難しい」-鹿児島
時事通信 2014年6月1日
脱原発を目指し、政府に政策提言を行う「原子力市民委員会」(座長・舩橋晴俊法政大教授)が31日、九州電力川内原発がある鹿児島県薩摩川内市で「自主公聴会」を行った。県内外から約100人が参加し、「完璧な避難は無理」などの意見が出た。
川内原発は、再稼働の前提となる原子力規制委員会の安全審査が優先的に進められており、全国で最も早く再稼働する可能性が高い。市民委員会は、住民の意見を再稼働の議論に反映させる機会がないとして、自主公聴会を企画した。
自主公聴会には、旧原子力安全委員会事務局で技術参与を務めた滝谷紘一氏らが参加。原発の新規制基準や避難計画などについて説明した。
会場からは「障害者などの要援護者は福祉施設に確実に避難できるのか」「事故が発生したら九電は適切に対応できるのか」などの意見が出た。市民委員会は、国や規制委に向けた政策提言に意見を反映させる。
原発避難想定の問題点を専門家が講演で指摘
南日本新聞 2014年06月01日
全国の原発の周辺住民の避難時間を独自試算した「環境経済研究所」の上岡直見代表が31日、佐賀市内で講演した。「重大事故時は自治体も正確な状況把握が難しく、具体的な避難指示が迅速にできるか疑問。住民が被ばくせず避難することは不可能」と避難の難しさを指摘した。
上岡氏は福島第2原発事故時の東京電力の対応を例示しながら「事故時、現場は復旧に手一杯で外部に情報発信をするのは難しい。正確な状況把握ができなければ、自治体側も住民に具体的な避難指示はできない」と強調した。
また、県がまとめた避難時間推計については「スクリーニング(汚染検査)の時間が含まれていない」「推計は30キロ圏外に出るまでの時間だけで、最終避難所までの時間が分からない」などと指摘した。講演会は1日も伊万里市の黒川公民館で開かれる。
社説 [原発からの避難] 県の推計時間で住民は安心できない
南日本新聞 2014年6月1日
これで果たして原発からの避難時間の十分な推計をしたことになるのだろうか。
鹿児島県がようやく公表した九州電力川内原発で重大事故が起きた際、住民の避難にかかる時間のシミュレーションである。
まず、関係住民が最も知りたい市町別の避難時間がない。身障者ら要援護者や海を隔てた離島の対応策もない。放射性物質の拡散に影響し、避難経路の変更につながる風向きも考慮していない。
シミュレーションでは、原発から半径30キロ圏の9市町の住民約21万5000人の9割が車で圏外へ逃げ出すのに、最短で9時間15分、最長では28時間45分かかるという。
最短時間は、好天の昼間、すべての住民が4人ずつ自家用車に乗り込み、道路の不通もなく、警察などの適切な交通誘導を受けた場合などだ。
現実的とは思えない。避難経路の混雑具合から主に運転時間を試算した結果の一つにすぎない。
住民の避難時間の目安は国の原子力災害対策指針が示している。放射線の空間線量率が高い地域は避難指示から24時間以内、それ以外は1週間以内とする。
県は指針を基に「おおむねこうした行動がとれる」と評価した。
だが、この結果だけで被ばくを避けられると安心するのは早計だろう。シミュレーションの気象条件は悪天候時の車の速度低下しか考えず、最も重要な風向きは無視しているからだ。
■県は再検討すべきだ
「自宅から、避難完了まで何時間かかるのか」
薩摩川内市や出水市など県内各地であった避難説明会で相次いだ住民の質問である。
シミュレーションはそれにこたえるはずだった。なのに、9市町ごとの避難時間はもとより、それぞれの避難所までの所要時間も示されなかった。
「地域によって避難にかかる時間は異なる。はっきり言って全く参考にならない」。関係市町の防災関係者からこうした批判が上がるのは当然である。
うまく事が運べば最短で9時間余と言われて、納得する自治体や住民がどれだけいるだろうか。
先ごろ公表された佐賀県玄海町にある九電玄海原発での住民避難の推計時間は、こうした懸念にほぼ対応している。
福岡、長崎も含む3県の30キロ圏の全住民約27万3000人が圏外へ出るまでに、標準ケースで約25時間とした。
「対象地域の住民が一番知りたい避難所までの到達時間の推計はないが、30キロ圏を出る時間はだいたい分かった。今後の避難計画に生かしたい」
玄海原発から20~30キロ圏に住む約1万5000人の避難を担う福岡県糸島市の担当者は語る。
「避難先が風下なら、どこへ避難すればよいのか」
これも鹿児島県内の避難説明会で再三出た放射性物質の拡散による汚染を心配する住民の声だ。
県や当該市町の答えは「避難先が汚染される可能性がある場合、調整して新たな避難先を示す」だった。汚染の可能性は風向きが大きく関係するのに、そのシミュレーションはなかった。
県は、今回のシミュレーションを「5~30キロ圏の全方位に居住する住民が一斉に避難する最も厳しい想定」と説明する。
分かりにくいが、逆に言えば実際の避難指示は全住民に一斉にすることはない、という意味だ。
県の避難指示は、5キロ圏は一斉避難とし、5~30キロ圏は風向きなどを基に、放射性物質の広がりを把握しながら避難指示地域を決める手はずだからだ。
この説明が不足している上、住民が危惧する5キロ圏内も含めた全住民が一斉避難する想定がないため、不安が高まっているのだ。
そもそもシミュレーションの目的は避難計画の実効性を高めることだった。そのためには住民の不安解消が大前提である。
県は、住民の不安に寄り添う形で、必要なシミュレーションを再度実施するべきである。
■再稼働前に課題山積
川内原発は再稼働第1号と目されている。その条件となる原子力規制委員会の審査が最優先で進んでいる。
規制委は新たな規制基準に適合するかどうか審査するだけであり、実際の再稼働には地元の同意が欠かせない。
その同意は避難計画が有効であってこそだ。
中部電力浜岡原発を抱える静岡県御前崎市の石原茂雄市長が、「万全な避難方法が整う前に再稼働の議論はあり得ない」と指摘するのはもっともである。
懸念はシミュレーションの結果だけではない。
シミュレーションで避けた要援護者のいる福祉施設などの避難計画もほとんど手つかずなのだ。施設は30キロ圏内に240カ所あるが、計画ができたのは5キロ圏の7カ所のみ。10~30キロ圏の施設は策定のめどさえない。
また、甲状腺被ばくを防ぐ5キロ圏での安定ヨウ素剤の説明会や事前配布もこれからだ。
再稼働を急ぐ前に、規制委の徹底した審査はもとより、地元でもやり終えておかなければならないことは山ほどある。