琉球新報 2017年6月12日
過去最悪の内部被ばく事故が起きてしまった。茨城県にある日本原子力研究開発機構の大洗研究開発センターで、作業員5人に放射性物質が付着し、うち1人の肺から2万2千ベクレルのプルトニウム239が計測された。
事故の背景には、原子力機構のお粗末でずさんな管理体制が見える。極めて危険な物質を扱っているという自覚に欠けている。リスク管理を甘く見る体質は、根本から改善しないといけない。
事故は6日、プルトニウムなどの粉末試料が入った貯蔵容器の点検中に起きた。一人がふたを開けた瞬間、中にある二重のビニールバッグが破裂し、粉末が飛び散った。
作業員5人は全面マスクではなく、鼻と口だけを覆う半面マスクを装着し、隙間から放射性物質を吸い込んだとみられる。事故後も除染準備が整うまでの約3時間、汚染された室内で待機していた。問題の貯蔵容器は26年間一度も点検されていなかった。安全対策の不十分さは否めない。
プルトニウムはアルファ線という放射線を出す。体内に取り込まれると臓器や組織を継続的に傷つけ、発がんリスクを高めるといわれる。
前例のない事態に、専門家は「半端な被ばく量ではない」と懸念する。50代の作業員が体内に取り込んだ総量は36万ベクレルと推計されている。健康被害が出ないか、長期的な経過観察と治療が必要だ。
今回の事故からは、原子力そのものの問題点も浮かび上がる。研究で使われた放射性物資を最終的にどのように処分するのかはまだ決まっていない。全国の研究施設などで、使用済みのプルトニウムやウランが、ルールに反して本来の保管場所以外で長期間保管されているとして、今年2月に原子力規制委員会が改善を求めていた。
電力会社の原発の使用済み核燃料は、日本原燃の再処理工場に移送すると決まっている。しかし研究施設のプルトニウムなどは、どこに搬送するか今なお未定のままだ。
原子力機構は過去にもトラブルを繰り返してきた。1995年に高速増殖炉もんじゅでナトリウム漏れ事故、2012年に1万個近い機器の点検漏れがあった。13年には放射性物質漏れで34人が内部被ばくした。原子力規制委からは15年にもんじゅの運営能力欠如を指摘された。今年5月にも高速実験炉「常陽」再稼働を巡って出力を低く申請し、規制委から修正を迫られた。
何度も事故を起こし、規制委から指導を受けるのは、組織として重大な欠陥があるからではないか。安全管理に対する意識改革と組織立て直しに抜本的に取り組むべきだ。
東京電力福島第1原発の事故以来、原子力に対する国民の信頼は失われてしまった。政府は原発再稼働を推し進めようとしているが、原子力事業は行き詰まっている。原子力に頼らないクリーンエネルギーへの転換も進める時だ。