米山知事が週刊ダイヤモンドのインタビューを受け柏崎刈羽原発の再稼働問題について語りました。
聞き手は冒頭で米山氏がかつて「私は反原発ではありません」と発言したことを取り上げるなど、かなり手厳しい質問事項を準備して来ましたが、知事は坦々と再稼働が可能になるための条件を語りました。
力むことなく自然体で語られているのですが破綻はなく十分な説得力を持っています。
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新潟県知事「原発リスクの全体像把握なしに柏崎刈羽再稼働はない」
米山隆一・新潟県知事インタビュー
ダイヤモンドオンライン 2017.6.9
2016年10月に就任した米山隆一新潟県知事。東電は5月、新たな経営計画「新々総合特別事業計画」の中で、最短で19年度に柏崎刈羽原発を再稼働させる計画を示している。再稼働には立地自治体の同意が必要なため、知事の東電への評価と原発に対する考え方には、業界内だけではなく、全国的に注目が集まっている。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部 片田江康男)
“反”でも“親”でもない
マイナスのコスト認識が重要
――以前、講演で「私は反原発ではありません」と発言しています。原子力発電に対する知事の考え方を改めて教えてください。
そもそも、原発に限らず、あらゆる発電方法について“反”とか“親”と言うのは、あまり意味がありません。
発電方法が何であれ、生み出されるエネルギーは同じです。そして、どの発電方法であれ、まったくリスクがないというものはありません。風力だって太陽光だって、一定のリスクはある。太陽光は水害のとき感電したケースがありましたよね。
一方で、あらゆる発電方法にリスクがあるのと同様に、発電するのですから、エネルギーを得られるというベネフィットがあります。
原発もそうです。膨大なエネルギーを生むというベネフィットがありますが、非常に大きなリスクがある。このリスクが明白な形で示されたのが、福島第一原発の事故でした。一度事故が起こったとき、何が起こるのかが示されたわけです。また、事故とは関係ないですが、使用済核燃料の最終処理に関する問題は、原発行政が始まって以来、ずっと積み残されています。
原発にたくさん問題があるのは認識しています。でも、“反”とか“親”の二元論の中では、“反”ではありません、ということです。
――福島第一原発の廃炉と賠償、除染の費用を賄うためには、東京電力ホールディングスの収益力を上げていかなくてはならない。その収益力向上を図る上で、新潟県に立地する柏崎刈羽原発の再稼働は不可欠な存在だと国と東電は考え、新たな事業計画である「新々総合特別事業計画」(新々総特)をつくりました。柏崎刈羽原発を動かして福島関連コストを賄う、という考え方について、知事はどのようにお考えでしょうか。
計算上は明らかにそう。お金に色はありません。問題はどこでその費用を稼ぐのかという事です。お金が必要なのですから、何かで稼がなくてはならない。東電がその費用を支払う主体であると言う前提であれば、東電は電気をつくって売るということが事業ですから、国と東電がそういう考え方をするのは、それはその通りでしょう。
ただ、そのために再稼働が必須の方法かと言うのは、そうとは限らないと思います。東電が儲ければ、賠償に役に立つのは間違いない。でも、だからといって必ず再稼働しなければならない、ということには結びつかないと思います。
――もし、再稼働するなら、新潟県は福島関連コストを賄うために、リスクを負うという図式になります。
そうですね。先ほど原発によってエネルギーを得られるというベネフィットについて言いましたが、事故が起こった場合のマイナスのコストはどうなのか、しっかりと計算し、明示する事が不可欠です。
過大なコストがかかる、とは言いますが、そのコストはいつ、どのような規模で発生するのか分からない。しかし、発生した瞬間にものすごく大きなものになるでしょう。つまり原発は得られるベネフィットと事故を起こした時のマイナスのコストが、ものすごく非対称なんです。
事故が起こる確率は何万年に一回だと東電は言っていますが、確率の問題なのですから、もしかしたら明日起こるかもしれませんよね。
東電の再稼働想定時期と
県の検証作業は別もの
――東京電力は新々総特の中で、早くて19年度に再稼働すると言う経営計画を示しました。もちろん、立地自治体の意向を尊重する事や、あくまで仮定であることを協調していましたが、これについて、知事はどのように受け止めていらっしゃいますか。
これについては、特に言う事はないです。それはなんというか、東電が考えた経営計画なのですから、東電の論理であるに決まっていますよね。東電はそういう風に考えているんですね、ということだけです。
新潟県ではこれから三つの検証(事故原因検証、事故の健康と生活への影響の検証、安全な避難方法の検証)を行いますが、新々総特とこの検証はまったく別です。
――まったく別というのは、もし三つの検証が三年、もしかしたら五年かかるかもしれないとなった場合、その検証が終わらなければ具体的な再稼働の議論は始められないという方針ですから、19年度に再稼働できるかどうかは、まったくわからない、と。
そう、そういうことです。
――三つの検証について、現時点ではどのような状況でしょうか。
今、委員会の人選ができた段階で、佳境です。委員の方にこれからお願いするという段階になります。いろいろな意見を持たれている方をバランスよく人選をしています。特段の結論の方向性も設定していません。
当初の予定である6月から少し後ろにずれるかもしれませんが、遅くとも7月には委員会の立ち上げができると思っています。
――改めて、三つの検証について、具体的に何を検証するのか、お教えください。
原発のリスクの全体像を示すことです。実はこれはあまりやられていないことです。それは今まで、原発安全神話があったからです。福島第一原発の事故が起こるまで、事故は起こらないと言われてきました。したがって、リスクとして何があるのか、ほとんど示されていません。
実際に事故が起こったから、リスクの全体像が示されたかというと、そうではないです。調査報告所はいくつか出ていますが、あれは事故原因についての調査です。
事故そのもののリスクについては、県で技術的な新しい検証ができるわけではないと思います。ただ、これまでの報告書や今ある情報をきちんと検証していく。報告書の後に、出た知見もありますからね。
どんな被害が出るのかということも検証していきます。健康にはどのような影響が出るのか。社会的な影響はどうなのか。多くの人が避難して、町が放棄されると、野生動物が繁殖してしまい、復活させるのは非常に難しいということがわかってきました。こうした健康や町の被害の全体像を明らかにしていきたいです。そして、それらを防ぐためにはどうしたらいいのかも考えていくべきでしょう。
避難計画については、事故の全体像を踏まえて練るべきです。例えば、ベントする場合、水素爆発が起こる場合、それぞれでどの程度放射性物質が放出されるのかを踏まえ、それを前提にして、避難計画も考えるべきです。そうすれば、避難そのものに、どれだけの人や費用、体制が必要なのかがわかってくる。
ここまでいくと、ほぼ全体像として、もし事故がおこったときは、何がどのように起こって、それをどう防いだらいいのか。それには、どのくらいのコストがかかるのか。どう避難するのかといったものが見えてくる。
こういったマイナスのコストをきちんと計算して、ベネフィットと比べて、原発再稼働について考えるべきです。ベネフィットの部分だけを見て、再稼働しましょう、というのは、それはおかしいということです。
――マイナスのコストを明示するということをおっしゃいました。明示した上で、それをすべてなくしていくという考え方なのでしょうか。
いや、ゼロはありえません。あらゆるものにはリスクはありますし、ゼロにはできない。
事故のリスクは永遠にあり続けます。小惑星が突っ込んでくるかもしれませんよね。大切なのは、マイナスのコストを認識しておくことです。それをすべて理解して、原発再稼働は結論を出すべきです。そこに蓋をしておくのは正しくない。マイナスのコストを、可能な限り減らすことをしないといけない。
福島第一原発事故でわかったことは、事故が起こればすぐに20兆円もの巨額のお金が必要になる。中には50兆円という説もあります。町の復興について考慮するなら、猪駆除からはじまって、インフラの再整備など、膨大なコストがかかる。そうすると総額70兆円になってもおかしくない。日本の年間の税収総額をゆうに超えてしまいます
もし、もう一回事故が起こったら、日本は完全に終わりです。まず風評として終わります。海外の国からは、あんな危ない国にいけるかとなる。それから、事故対応のカネも人手もまったく足りない状況になります。
リスクの全体像を見て、絶対はないが、よほどのことがないかぎり事故がほぼない、というところまで、必死になってやるしかない。国のチェックは必ずしも成功しなかったわけです。したがって、多くの人の目で見て、リスクを減らす努力を続ける事だと思います。
原発の再編も中身次第
看板付け替えなら意味なし
――知事は「東電の意識改革が必要だ」と発言されています。また、国の委員会でも、原子力事業者としての東電の体質が変わらなければならないと指摘する識者は多くいます。こうした東電の体質の検証も、委員会で話し合われるのでしょうか。
安全性を高めるという文脈で、言及することになるでしょう。県と東電はある程度、線は引かなければならなくて、県や委員会に東電の体質を変えるように求める権限はありません。東電がどうあるべきかということには、県は口を出しません。
――ただ、知事にとっては、もし再稼働の可否を判断するときに、東電の意識が変わったのか、安全文化が根付いているのか、ということは重要な判断要素となるのではないでしょうか。知事は、東電が変わった、安全文化が根付いたと、どのようにして客観的に評価、判断するのでしょうか。
それを評価したり判断するのは難しいですよ。そりゃ意識改革は必要ですよ。でも、それが実際にできているかは、人の内面が分からないと同じで、知る由もないです。
原発リスクの全体像を検証するときには、県は東電にいろいろと問い合わせたりすると思いますが、そのときにきちんとした情報が出てくるのか。避難計画を作る上で、東電にも組織を整えてもらう必要があるので、それにきちんと相応しい組織を作ってくれるか。そういったことを通して、判断されていくのだと思います。
――新々総特の中で、東電は原発事業において、「他社との連携を強化し、協働で取り組む」「立地自治体の理解を得つつ、協力を得られるパートナーを募り、協議を重ね、2020年頃を目途に協力の基本的枠組みを整えていく」と書かれています。この背景には、発災事業者である東電が再び原子力事業者として運転することに対する非難をかわす、地元自治体への理解を得やすくするといった狙いがあると言われます。知事はどのようにお考えになりますか。
率直に言って、県内には東電アレルギーはあります。これはもう事実です。そこで、他社と連携して運転すると言うことなのですが、これが単なる看板の付け替えになっては意味がないと思います。
複数の事業者で取り組む中で、新しい芽が出る事もあるかもしれませんし、自分たちのカルチャーに浸っている中で、新たな気付きもあると思います。また、将来的に技術者の確保も問題になるだろうと聞いています。
結局は実質的に安全性が向上したり、プラスになるのであれば、いいと思います。看板の付け替えになるようでしたら、意味はありません。要は中身次第ということでしょう。
――東電は今年の株主総会後、経営体制が大きく変わります。会長には日立製作所出身の川村隆氏、社長には小売り事業会社の東電エナジーパートナーで社長を務めた小早川智明氏が就任します。小早川氏は営業畑の人で、原発事業には関わってきていません。次期体制について、どのように受け止めていますでしょうか。
これについては、特段ないですね。私だって、原子力について深く関わってきたわけではないですし。トップがものすごく専門知識がなければならないということではないと思います。専門知識がある人を、きちんとマネージできることが重要だと思います。小早川氏がそういう意味で手腕を発揮されれば、特にバックグラウンドは関係ないのではないでしょうか。小早川氏がこれから何をされるかで、評価されるべき事だと思います。
新体制に期待する事は、専門知識ではなくて、しっかりと専門知識を持った集団をマネージすることでしょう。安全文化を根付かせる事と、地元にきちんと向き合っていただく事でしょう。
いずれにしても、トップに誰を選ぶかを決めるのは東電であって、こちらからは特になにもありません。
よねやま・りゅういち/1967年9月生まれ。新潟県出身。92年3月東京大学医学部卒業。99年4月独立行政法人放射線医学総合研究所。2003年1月ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員。05年4月東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師。11年9月医療法人社団太陽会理事長。同年10月弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。16年10月新潟県知事