2017年6月11日日曜日

葛尾村 篠木弘村長にインタビュー

<原発被災地の行方> 教育 少人数を魅力に
河北新報 2017年6月11日
◎福島・首長に聞く 葛尾村/篠木弘村長
 
 -東京電力福島第1原発事故による葛尾村の避難指示が一部を除いて解除されて1年となる。
 「村民の帰還率はようやく1割台になった。暮らしの基盤が避難先に移っていたため、帰還が進まないことは覚悟していた。明るい兆しはある。飲食や雑貨など従来の店舗の多くが戻ったり、帰還のめどが立ったりしており、住民の帰村につながる」
 
<畜産再開へ助成>
 -基幹産業の農業の現状は。
 「(主力の)畜産はこれまで、計4戸が地元で再開した。再開には準備期間と多額の投資が必要で、断念する例も少なくない。繁殖農家を対象に、資金の4分の3(1頭当たり最大50万円)を助成する制度などで再開を支援している」
 「原発事故前に130ヘクタールあった水田は本年度、農家14戸が計9ヘクタールで作付けする。年度内に低温倉庫を整備し、収穫したコメは農協に買い取ってもらうことにした。(野菜栽培向けに)パイプハウスの費用(1人40万円)も助成する」
 
 -来春の村内での教育再開に向け、幼稚園と小中学校の改修が完了した。
 「村の存続や発展を担う子どもは宝だ。(児童生徒数は激減したが)少人数教育の魅力を生かしたい。(災害公営住宅のある)三春町から1時間かけてバスで通う児童が多くなるとみられる。バスの車内に英語を学べるモニターを設置することなどが考えられる。国にも支援を求めていく」
 
 -雇用創出は。
 「工業団地を来年10月までに3区画整備する。うち1区画では、愛知県のニット製造会社が来月にも工場建設に着手する。進出希望は他に2社からあり、誘致を実現させ、雇用促進と村の活性化につなげたい」
 
<研究に農地貸与>
 -大学との連携にも力を入れている。
 「郡山女子大の運営法人とは特産のエゴマの栽培や商品開発などに取り組んでいる。学生たちに『第二の古里』として村のファンになってもらうとともに、客観的な視点で村の特徴を全国に発信してもらうことを期待している」
 「同様に協定を結ぶ東北大大学院農学研究科には、農地を実験場として貸している。福島大にも提供する予定だ。研究を通じて、専門的なノウハウや先端技術を高齢農家の負担軽減に役立てることも狙っている」
 
 -帰還困難区域で避難指示が続く野行(のゆき)地区の復興方針は。
 「小さな集落で、(国が除染とインフラ整備を進める)特定復興拠点は設けられない。複数の世帯が帰還を希望しており、対策室を設置し、住民の声を聞きながら議論し、今秋には将来像を打ち出したい。除染など国への要望も続ける。同様の地域を抱える福島県飯舘村とも足並みをそろえていく」
(聞き手は福島総局・柴崎吉敬)