2018年2月24日土曜日

(社説)102歳の自殺 原発事故のもつ罪深さ

中日新聞 2018年2月24日
 福島第一原発事故による強制避難を前に百二歳の男性が自殺した。福島地裁が東京電力に対し遺族への賠償を命じたのは、事故との因果関係を認めたからだ。原発事故の罪深さをあらためて思う。

 福島県飯舘村。農家で生まれた男性は長男で、尋常小学校を出たあと、父母とともに農地を開拓した。牛馬を飼い、田畑を耕した。葉タバコや養蚕も…。
 次男の妻は共同通信に対し、「年を重ねてからは老人会で温泉に出掛け、地域の祭りでは太鼓をたたいて楽しんでいた」と答えている。九十九歳の白寿を祝う宴には、村中から百人近くも集まったともいう。そのとき、「大好きだった相撲甚句を力強く披露した」とも次男の妻は語り、忘れられない姿となったという。

 二〇一一年。原発事故が起こり、飯舘村が避難区域となると知ったのは四月十一日である。
 「やっぱりここにいたいべ」
 男性はこうつぶやいたという。両手で頭を抱えるようなそぶりで下を向いた姿を見ている。二時間もテレビの前で座り込んでいた。
 次男の妻は「避難指示はじいちゃんにとって、『死ね』と言われるのと同じだった」と受け止めている。確かにそうだろう。

 福島地裁の判決も、男性の百年余に及ぶ人生を語っている。
 <結婚や八人の子の誕生と育児、孫の誕生を経験し、次男の妻、孫と生活した。村の生活は百年余りにわたり、人生そのもので家族や地域住民との交流の場だった>
 だから、避難は男性にとり、過酷なストレスとなる。科学的に言えば、降った放射性物質セシウム137の半減期は約三十年。避難は長期にわたるのは必至で、これも耐えがたい苦痛である。
 「ちいと俺は長生きしすぎたな」と避難前にこぼした。判決は「不自由な避難生活の中で家族に介護という負担をかけるのを遠慮したと認めるのが相当」と述べた。原発事故と避難が男性を押しつぶすストレスを与えた。そして、首を吊(つ)って自殺したのだ。

 原発事故での自殺をめぐる訴訟で東電への賠償命令はこれで三件目になる。一方、東日本大震災や原発事故の関連自殺者は厚生労働省調べで一七年までに、福島県は九十九人。岩手県や宮城県のほぼ倍だ。
 政府は原発再稼働の政策を進める。だが、原発事故という取り返しのつかない罪をこの判決は、われわれに思い出させる