2017年3月18日土曜日

18- 原発避難訴訟、国に賠償命じる判決 「予見可能だった」

 福島原発事故で群馬県などに避難した住民らが国と東電に約15億円の損害賠償を求めた訴訟について、17日、前橋地裁は「東電は巨大津波を予見しており、事故は防げた」と「予見可能性」を認定し、東電と安全規制を怠った国の賠償責任を認めるという画期的な判決を下しました。
 また、原告137人中62人に対して3855万円の賠償の支払いを命じました。
 
 原道子裁判長は、政府が2002、「日本海溝沿いでM8級の津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生する」とする長期評価を発表した数カ月後には、国と東電は巨大津波の予見は可能であるとし実際に東電は長期評価に基づき津波の高さを試算した2008年には予見していたと指摘しました
 国については2007年に東電自発的津波対策を行いのが難しい状況を国は認識していたとして、規制権限に基づき対策を取らせることを怠ったのは「著しく合理性を欠き、違法だ」としました。
 全国で約30件ある集団訴訟の最初の判決で原発の津波対策に対して初めて国と東電の過失が認められた意味は大きく他の審理にも影響を与えそうです
 
 賠償が認められたのは避難指定区域内が原告76人中19人で1人当たり75万~350万円、同区域外が原告61人中43人で7万~73万円でした
 自主避難者にも賠償が認められたのは評価できますが、なぜこんなに少額なのでしょうか。今後の原告の対応が注目されます。
 NHKの記事を紹介します。
 
 またこの判決を受け、同様の集団訴訟を起こしている新潟県の弁護団が会見を開き、「東京電力が再稼働を目指している柏崎刈羽原発の行方などにも影響が出るのではないか」と述べました。
 NHK新潟の記事も併せて紹介します。
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原発避難訴訟 国に初めて賠償命じる判決 前橋地裁
NHK NEWS WEB 2017年3月17日
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、群馬県に避難した人など、130人余りが起こした裁判で、前橋地方裁判所は「津波を事前に予測して事故を防ぐことはできた」として、国と東京電力の責任を初めて認め、3800万円余りの賠償を命じる判決を言い渡しました。原発事故の避難をめぐる全国の集団訴訟では、今回が初めての判決で、今後の裁判に影響を与える可能性もあります。
この裁判は、原発事故の避難区域や、福島県のそのほかの地域から群馬県に避難した人ら137人が、生活の基盤を失うなど精神的な苦痛を受けたとして、国と東京電力に総額、およそ15億円の慰謝料などを求めたものです。
 
17日の判決で、前橋地方裁判所の原道子裁判長は、平成14年7月に政府の地震調査研究推進本部が発表した巨大地震の想定に基づき、国と東京電力は、その数か月後には巨大な津波が来ることを予測できたと指摘しました。
また、平成20年5月には東京電力が予想される津波の高さを試算した結果、原発の地盤を越える高さになったことを挙げ、「東京電力は実際に巨大な津波の到来を予測していた」としました。
そのうえで、東京電力の責任について、「事故の原因の1つとなった配電盤の浸水による機能の喪失を防ぐため、非常用の発電機を建屋の上の階に設けるなどの対策を行うことは容易だったのに行わなかった。原発の津波対策は、常に安全側に立った対策を取らなければならないのに、経済的な合理性を優先させたと言われてもやむをえない対応で、今回の事故の発生に関して特に非難するに値する」と指摘しました。
また、国の責任についても、「東京電力に津波の対策を講じるよう命令する権限があり、事故を防ぐことは可能だった。事故の前から、東京電力の自発的な対応を期待することは難しいことも分かっていたと言え、国の対応は著しく合理性を欠く」として、国と東京電力にはいずれも責任があったと初めて認めました。
そのうえで原告が受けた損害について、「放射線量の高まりや、避難の経緯などから、事故と関係があったかどうか個別に検討することが適切だ」として、自主的に避難した人たちを含む62人について、国と東京電力に3800万円余りの賠償を命じました
原発事故をめぐり、全国の18の都道府県で1万2000人余りが起こしている集団訴訟では、今回が初めての判決で、今後の裁判に影響を与える可能性もあります。
 
菅官房長官「エネルギー政策に影響ない」
(省 略)
原子力規制庁「対処方針検討したい」
(省 略)
廣瀬社長「判決文を精査したい」
(省 略)
 
争点(1)東電の過失の有無
今回の裁判では、津波の予測をめぐって、東京電力に民法上の過失があったかどうかが争点の一つとなりました。
原告側は、津波は予測できたにもかかわらず、東京電力は原発事故を防ぐ必要な対策をとらなかった過失があると主張しています。その根拠として、平成14年に政府の地震調査研究推進本部が発表した「長期評価」では、三陸沖から房総沖にかけてマグニチュード8クラスの巨大地震が、30年以内に20%の確率で発生することが示されていたとしています。さらに平成18年に当時の原子力安全・保安院や電力会社が参加した勉強会で、福島第一原発については、14メートルを超える津波が来た場合、すべての電源を喪失する危険性があると示されていたとしています。こうしたことなどから、津波は予測できたにもかかわらず、東京電力は原発事故を防ぐ必要な対策をとらなかった過失があると主張しています。
一方、東京電力は、国の専門機関が地震のあとに、「想定された規模を大きく上回る地震と津波だった」と評価していることから、津波を予測し、対策を行うことは不可能であり、過失はなかったと主張しています。
 
争点(2)国の責任の有無
もう一つの争点が、国に責任があったかどうかをめぐるものでした。
原告側は、国も、東京電力と同様に平成14年に政府が発表した「長期評価」や、平成18年に国の原子力安全・保安院や電力会社が参加した勉強会の内容などをもとに津波を予測することはできたとしています。そのうえで、国は東京電力に対して、防潮堤を高くしたり、電源盤を高台に移したりするなど対策を指示する義務があり、原発事故の発生について責任を負わなければならないと主張しています。
一方、国は、平成14年の「長期評価」は、あくまで阪神・淡路大震災を受けた防災目的のもので、原子力施設を想定したものではなく、原告側が「津波は予測できた」とする主張については、原発事故の発生について具体的な想定や試算をしたものではないとしています。さらに、「具体的な安全対策を指示するべきだった」とする原告側の主張については、原子力発電所の具体的な設計の変更を指示することは、そもそも国の権限としては認められていなかったとしています。
 
争点(3)賠償額の妥当性
さらに、今回の裁判では、避難者に支払われている賠償額が妥当かどうかも争点となりました。
これまで東京電力は、国の審査会で示された指針に基づいて、避難指示区域の住民に1人当たり最大で1450万円を支払っているほか、自主避難した人には最大で大人に12万円、子どもと妊婦に72万円を賠償として支払っています。
原告側は、これらの賠償には、住み慣れた家や仕事を失ったり、転校を余儀なくされたりしたことによる精神的な苦痛は含まれていないとして、現在の賠償の枠組みでは十分ではないと主張しています。さらに、避難指示区域の住民も、自主避難した人も、同様に精神的な苦痛を受けており、区別はできないとしています。
一方、国と東京電力は、現在の賠償の枠組みで十分補償されていると主張しています。
 
争点(4)自主避難の妥当性
また今回の裁判では、避難指示区域外の住民の自主避難の妥当性も争点となりました。
原告側は、放射線の被ばくに安全な線量は存在しないという、平成19年の国際機関の勧告を引用して、当時、福島県に住んでいた人が健康被害を予防するために避難することは合理的だったと主張しています。そのうえで自主避難をした人がそれまでの人間関係を断ち切られるなどして受けた精神的な損害については、現在の賠償の枠組みでは補償されておらず、不十分だとしています。
それに対し、国と東京電力は、事故直後の混乱などから被ばくをおそれて避難することに一定の合理性は認められるとしていますが、避難指示区域内の住民と比べて精神的苦痛は少なく高額の賠償は認められないとしています。
 
判断のポイント
判決では、事前に巨大な津波が到来することが予測できていたのに、国と東京電力が津波に対する安全対策を取らなかったと、厳しく指摘しました。
判決の中で、裁判所は三陸沖から房総沖にかけて、マグニチュード8クラスの地震が30年以内に20%の確率で発生することを示していた、平成14年7月の政府の「長期評価」を、原発の津波対策で考慮しなければならない合理的なものだとしています。
そのうえで、東京電力については、長期評価が公表された数か月後には、地震によって非常用の電源設備が浸水するほどの津波が到来することは予測でき、平成20年5月には、予想される津波の高さを試算した結果、高さ15.7メートルの巨大な津波が到来することを実際に予測していたと指摘しています。
さらに、こうした予測に基づいて、配電盤や非常用の発電機を高台に移すなどの津波対策をしていれば、原発事故は発生しておらず、こうした対策は期間や費用の点からも容易だったとしています。
また、国については、平成14年の長期評価のあと、5年が経過した平成19年8月に東京電力から提出された原発の安全に関わる報告書に津波に関する記載がなかったことから、国は東京電力の自発的な対応を期待することは難しいと認識していたと指摘しました。
そのうえで、裁判所は、国が東京電力に対して規制を行う権限に基づいて津波対策を行わせるべきだったのに、行わなかったことは著しく合理性を欠くと、国の対応についても厳しく指摘しています。
 
賠償求める訴えは各地で
原発事故で被害を受けた人たちは、各地で賠償を求める訴えを起こしています。
6年前の福島第一原発の事故のあと、東京電力は、国の指針に基づいて福島県に住む人たちや県外に避難した人たちに賠償を行っていますが、裁判を通じて事故の責任を問う動きが広がっています。今回のように福島県から避難した人たちが、国や東京電力には対策を怠った責任があるとして賠償を求めている裁判のほか、福島県では、賠償に加え、放射線量を事故の前の状態に戻すよう求める裁判も起きています。
件数は次第に増え、国や弁護団などによりますと、全国の少なくとも18の都道府県で29件の裁判が起こされ、原告は1万2000人余りに上っています。去年2月には全国の集団訴訟の原告たちが全国規模の連絡会を結成し、それぞれの裁判の情報を共有するなど連携して被害の救済を求めています。
一方、国や東京電力は、事故を予測することはできなかったなどとして、各地の裁判で争っています。審理の進み方は異なっていますが、17日の判決以降、千葉地方裁判所や福島地方裁判所などでもことし中に判決が言い渡される見通しで、裁判所が今回のように原発事故の責任を認めるかどうか注目されます。
 
 
新潟弁護団 柏崎刈羽に影響も
NHK NEWS WEB 2017年3月17日
原発事故によって福島県から避難した人たちが東京電力と国を相手取り損害賠償を求めている裁判で、前橋地方裁判所で、双方の責任を認める判決が初めて言い渡されました。
この判決を受け、同様の集団訴訟を起こしている新潟県の弁護団が会見を開き「東京電力が再稼働を目指している柏崎刈羽原発の行方などにも影響が出るのではないか」と指摘しました。
 
 原発事故によって福島県から県外に避難をした人たちが、全国で東京電力や国を相手取り損害賠償を求めている裁判は17日、前橋地方裁判所で初めて判決が言い渡され、国と東京電力の責任が認定されました。
この判決を受けて、807人が同様の集団訴訟を起こしている新潟県の弁護団が会見を開きました。
この中で、遠藤達雄弁護団長は「判決では事故が予見できたことを認め、国と東電の責任を厳しく非難していて、同様の裁判が続けられている新潟にとっても先例として価値がある」と述べました。
 
また、東京電力が再稼働を目指している柏崎刈羽原発についても「判決では東電が安全に対して経済的合理性を優先させたと、企業の体質についても指摘している。今後、柏崎刈羽原発を含め原発の再稼働の行方にも、影響が与えるのではないか」と指摘しました。
 一方で、今回の賠償額については「避難者の苦痛に見合った正当な賠償額とは言えず、まったく不十分だ」と批判しました。