<原発からの請求書>(2)特例で電気料金高いまま 福島第一廃炉費
東京新聞 2017年3月2日
Q 東京電力福島第一原発の廃炉にはいくらかかるのですか。
A 当初二兆円のはずでしたが、経済産業省は昨年末、八兆円に膨らむ見通しを公表しました。
Q なぜそれほど膨らんだのですか。
A 政府の予想以上に事故がひどかったためです。炉心がメルトダウンしており、核燃料が下に堆積しています。放射線レベルが高く人が近づけば即死するほど危険な物質。それを全て取り出す必要があるのです。東電は二月にロボットで原子炉内を調べようとしましたが失敗。出足からつまずいています。廃炉作業がいつ終わるかや、いくらかかるのかは不明なのが実情です。
Q だれが払う?
A 経産省は「東電のリストラで費用捻出する」と言っています。
Q 国民にツケ回ししないということですか。
A カラクリが隠れています。電気代には、電力の通り道である送電線の使用料が「託送料」として含まれています。託送料は検針票の裏に記載されています。現在、東電では一キロワット時あたり九・二六円。三百五十九キロワット時使った家庭(図のケース)では三千三百二十四円と、電気代の四割ほども占めます。この託送料に特別ルールが設けられるのです。
Q どんなルールですか。
A 送電線は東電のものですが、電力販売に新しく参入したガス会社や通信会社なども電気を家庭や企業に送るのに使っています。東電が託送料を高くすると、東電ばかりもうかり競争が制限されてしまうので、経産省がチェックし、コストが下がったときは下げさせます。例えば電線の原材料価格が下がれば、託送料も下げるルールです。
ところが、経産省は東電については原材料などが安くなっても「託送料を下げなくてよい」という特例を三年後をめどに導入します。「もうけすぎ」を容認することで、浮いた利益を廃炉に充てるわけです。
Q それでは電気代はいつも高いままで利用者が負担しているのと同じでは。
A そうなります。
Q 東電から別の会社に乗り換えればよい?
A 確かに消費者も昨春から大手電力以外の電力会社と契約できるようになりました。しかし、説明した通り、電気は大手電力の送電線を通って家庭にきます。電線使用料は託送料として消費者に転嫁されるので結局、関東の人ならだれでも廃炉費を実質負担することになるのです。
Q 事故の原因は東電の安全対策不備なのにどうも納得できません。
A この手法では国民がいくら負担しているかも見えにくくなる。廃炉費はさらに膨らむ可能性もあり、識者からはもっと透明で責任が明確になる負担方法が望ましいとの意見は根強いです。 (吉田通夫)