<原発からの請求書>(4)新電力利用者にも転嫁 廃炉費
東京新聞 2017年3月4日
Q 福島第一原発以外の原発の廃炉費はいくらかかりますか。
A 核燃料が溶け落ちた福島第一原発の廃炉は難作業ですが、ほかの原発の廃炉も放射能を帯びた部品や廃材の処理が必要です。東京電力なら一九八五年に1号機が運転開始した新潟県の柏崎刈羽原発などの廃炉が将来必要です。政府試算では一基を解体するのに三十年かかります。部品なども処分場に埋め数百年は管理する必要がある。政府は一基あたり最大七百七十億円、全国で二兆九千億円が必要と試算しています。
Q だれが払うのですか。
A 電力各社が各原発ごとに額を見積もり、原則四十年の稼働期間に積み立てます。電気料金に上乗せされ、消費者から徴収してきました。二〇一五年三月末時点で、廃炉決定済みの原発を除き全国四十三基で約一兆二千億円がたまっています。残りの一兆七千億円も電気料金に上乗せして徴収されます。
Q 費用が膨らむ心配は。
A そこが問題です。日本で本格解体が始まった原発はまだないのですが、一九九一年から廃炉作業が進む英国のトロースフィニッド原発の場合、時間経過に伴い見込み額が膨らみ最新では日本の試算上限を35%上回る千百五十億円(一ポンド=一四四円換算)に拡大しています。日本でも費用が膨張する可能性はあります。廃材などの処分場所も決まっていません。
Q 原発を持つ大手の電気料金は上がるかも。太陽光中心などの新電力会社に代えるのも手ですね。
A その手も通用しにくい。経済産業省は廃炉費が予想以上に膨らむ場合、不足分は新電力会社も使う送電線の利用料である「託送料」に上乗せ徴収してよいと、決めてしまったんです。これで負担は新電力利用者にも転嫁されます。
Q また託送料上乗せですか。
A この連載の一、二回目でも触れましたが、福島事故の賠償や廃炉費が膨らむ分も、託送料に上乗せされる仕組みでしたね。大手電力が保有・管理する送電線は全ての利用者が依存する共通インフラのため、少し利用料を上げるだけで巨額のお金が、大手の財布に入ってきます。この仕組みが「安易に使われすぎだ」と批判する識者は少なくありません。
東日本大震災後の規制変更で早めに廃炉にする原発も、積み立てが済んでいない分は託送料に上乗せしてよいルールに決まりました。前倒し廃炉にする関西電力美浜原発1、2号機(福井県)など六基の、不足額は計約千八百億円です。
Q 国民から強制的に取るのなら税金と一緒では。
A 税金は国会論議を経て決定されますが、託送料は経産省が認可するだけです。安易に集金できる分、政府や電力会社の節約意識が緩み廃炉費が膨らむ心配があります。ツケは国民負担に回る仕組みです。