2017年3月19日日曜日

避難者集団訴訟 前橋判決 東電・国の責任明確化 高い壁越えた意義大きい

 産経新聞は原発推進派ですが、17日にあった原発事故避難者集団訴訟前橋地裁判決については、「ある程度避難者の気持ちに寄り添った」 2本の記事を載せています。
 記者の良心が感じられるものです。
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【原発避難者集団訴訟】心ない非難に「くさび」 責任明確化の声に対応
産経新聞 2017.3.18 
 東京電力福島第1原発事故では、事故の責任追及が曖昧なまま、賠償や復興に重きが置かれてきた。こうした状況に違和感を覚える被災者も多い中、前橋地裁は国と東電の責任を明確に認めた請求に対する認容額に不満はあれ、原告らが判決を評価した理由だ。全国の同種訴訟の原告が求めるのも、責任の所在の明確化だ。
 
 こうした被災者の思いとは裏腹に、原告を「賠償の上積みを狙う金銭目的だ」と決めつける向きが一部にあることは気掛かりだ。とりわけ、自主避難者に対しては「自己責任で避難したのに賠償請求は筋違いだ」との批判もある。原告団の大半が顔と実名を公表していないことには、こうした事情がある。
 しかし、原告が訴えたように、子供を持つ親や出産を望む女性にとって「避難せずに将来的に子供が病気になった場合、『避難しなかった自分のせいだ』との後悔に一生さいなまれる」との思いは切実だ。もしリスクがあるなら、それを極小化しようとするのが親のありようだからだ。職や住居を手放してまで自主避難した人たちも、利益と不利益を熟慮した末の選択だったことは想像に難くない。賠償だけが目的だと非難されるいわれはないだろう。
 判決は損害に対する賠償が不十分だった被災者に道を開いたといえる。言い換えれば、安易かつ心ない非難に対する“くさび”だ。
 
 一方で、この判決は28ある同種訴訟の一つにすぎない。それぞれ別個に判断されるため、同様の判決が出る保証はなく、被災者救済にどれだけつながるかは、なお不透明だ。(小野田雄一)
 
 
原発避難者訴訟 先例となる判断基準提示“高い壁”越えた意義大きい 群馬
産経新聞 2017年3月18日 
 全国に先駆けて判決に至った今回の訴訟で、原発事故の予見可能性や国の規制権限不行使の違法性などに並び、原告団が問題視した「中間指針の妥当性」や避難指示区域内外を問わない「避難の合理性」も大きな争点だった。「原発事故を恐れ、避難することは当然だ」。避難者間にこれ以上の線引きは必要ないと原告団が一律の賠償金を求めたことで、先例ともいえる算定方法が示された。
 
 裁判所は賠償額を算定するにあたり、失職、健康不安、失業など原告個々人の事情を勘案すべきと判断。原告137人全員に対して「放射能汚染のない環境で生活する権利」「居住・移転の自由」など、全27項目にわたって、どの権利を侵害されたのか個別に精査、最低7万から最高350万円の賠償額を認めた。
  結果として、「中間指針」を上回る賠償金の支払い命令が区域内外を問わず認められ、弁護団も、その点は評価した。
 この算定方法を導き出すため、原告団の全45世帯から最低1人が証言台に立ち、胸の内を吐露。原道子裁判長らは昨年5月、福島県南相馬市小高区などに出向き、原告の自宅周辺を視察した。
 
 一方で厳しい判断も示された。原告側は公判で避難指示区域外という線引きが「賠償額を押し下げる事情にはなり得ない」と指摘してきた。しかし、同地裁は「指針に基づく任意の支払い段階から、同額が支払われなければならない理由はない」と断じ、広範囲に及ぶ賠償に対応する中間指針の妥当性を認めた。
 求めた賠償額からはほど遠く、原告団からは落胆の声も聞こえた。しかし、国家賠償という“高い壁”を乗り越え、健康上問題がなくても「被曝(ひばく)に対して不安感を抱くことは否定できない-」との司法判断を得た、その意義は大きい。(吉原実)
 
【用語解説】 中間指針
 福島第1原発事故における損害賠償の範囲や考え方の概要。原子力損害賠償法(原賠法)に基づき、文部科学省内に設置された原子力損害賠償紛争審査会が示した。精神的損害の他、営業損害に対する賠償などについても定められている。平成23年8月に初策定され、第4次追補まで更新されている。避難指示区域内外で賠償額に差があることなどが問題視されている。