日本学術会議は12日、原発の持つ「リスクを直視し」「深刻な被害が発生しないような電力供給方式を基本としたエネルギー供給計画を樹立することが求められる」とする提言を発表しました。
その中で原発は「工学的に未完の技術である」とし、再生可能エネルギーを基本とする新たなエネルギー供給体制に向けた研究開発をすすめ、その実現を図ることは喫緊の課題であるとしています。
36ページに及ぶ「提言 我が国の原子力発電のあり方について ― 東京電力福島第一原子力発電所事故から何をくみ取るか」は、学術会議のホームページに掲示されているのでそちらをご覧ください。
しんぶん赤旗の記事と「提言」の(要旨)の部分を紹介します。
註 バックフィット=最新の技術・知見を取り入れた基準に適合するよう、既存の設備を更新または改造すること
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日本学術会議 原発のあり方提言
原発は工学的に未完の技術 再エネを基幹的なエネルギーに
しんぶん赤旗 2017年9月18日
日本学術会議は12日、原発の持つ「リスクを直視し」「深刻な被害が発生しないような電力供給方式を基本としたエネルギー供給計画を樹立することが求められる」とする提言を発表しました。
提言は「原子力発電の将来検討分科会」(委員長=大西隆日本学術会議会長)の審議を取りまとめたもの。「我が国の原子力発電のあり方について―東京電力福島第1原子力発電所事故から何をくみ取るか」と題され、福島原発事故の引き起こした問題や原発の安全問題、コスト、倫理問題などに言及しています。
提言では、米国のスリーマイル島原発事故(1979年)の後、福島原発事故まで、学術会議が原子力施設の安全対策強化を求める主張を行ってこなかったと指摘し、こうした沈黙が、「『安全神話』を助長」したとこれまでの活動を総括しています。
広範囲の議論を
原発の安全問題では、福島原発事故の教訓として、今後の原発の在り方について、専門家集団の中だけの議論で決めるのではなく、一般市民を含む「広範囲の人々の議論と合意形成を通じて決めていくこと」としています。さらに、福島原発事故と同様の過酷事故が再発する可能性があると考える必要を強調。使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物の処分のめどが立っていない問題を指摘し、「核燃料サイクル計画の見直しが必要」としています。
原発のコストについて、今回の事故の処理費用が、福島第1原発がもたらした総収入をはるかに上回ることを示しています。さらに、新たな規制基準を既存の原発に適用する「バックフィット」規制が必要なことから、安全対策にかかる費用が事前に予測できないとし、原発が「工学的に未完の技術であることを示している」と指摘。このため原発は、「安価な電力供給法と見なすことは既に疑念が生じて」いると強調し、一部の原発関連企業では深刻な経営危機すら発生していると述べています。
社会的倫理問題
エネルギー構成について、これまでは低炭素性や経済性から原発が選ばれるとされてきましたが、事故を踏まえ「こうした選択について見直しが必要となっているといわざるを得ない」と強調。再生可能エネルギーについては、「基幹的なエネルギーにしていくことが重要」としています。
さらに原発のリスクについてその危険性が受容可能かの分析(リスク・アセスメント)、リスクが顕在化することによる損失の回避や軽減への不断の努力(リスク・マネジメント)をすべての原発に適用していくのでなければ、「原発を稼働していくことはできない」とも指摘しています。
また、原発を「ある範囲の人々に犠牲を強いるシステム」と指摘。特定地域や特定職務に集中し、将来世代に及ぶ原発によるリスクや不利益をどう考えるかという、社会的な倫理問題に向き合う必要があるとしています。
原発の将来に関する政策選択を行う際に考慮すべきとして、原発事故被災者の健康管理と生活再建と被災地域の復興を進める態勢の継続など、7つの提言を示しています。(提言は、学術会議のホームページに掲載されています)
提言 我が国の原子力発電のあり方について
― 東京電力福島第一原子力発電所事故から何をくみ取るか
2017年9月12日
日本学術会議
原子力発電の将来検討分科会
要 旨
1 作成の背景 日本学術会議と原子力平和利用は深い関係を有する。1949 年に発足した日本学術会議の初期の大きな仕事が原子力の平和利用推進に関わる研究体制の構築だったからである。その後、原子力平和利用三原則を提唱し、原子力発電の安全性にも強い関心を示してきた。しかし、1980 年代以降、原子力発電関連事故に際して、安全性の観点から提言等を行ってこなかったことは強く反省しなければならない。
東電福島第一原発事故以降、日本学術会議は、事故への対処、被災地の復興、被災者への支援等の観点から多くの提言等を公表してきた。これらを踏まえて、我が国が、今後、原子力発電をどのように考えていくべきかを審議し、そのあり方をまとめた。
2 現状及び問題点
東電福島第一原発事故はなお多くの未解決の問題を残し、賠償等に巨費を投じながら今後とも事故への対応が継続される。東京電力と国は、事故の責任を明確にしつつ、被災者と被災地に対して、それぞれの現状や要望に即した生活再建や復興のための多様な支援を行うべきである。特に、年少者をはじめとする被災者の健康管理には、長期にわたる体制整備が求められる。
原発事故の原因解明は種々進められてきた。自然現象に関する想定や人工物側の事故予防策の甘さ等の人為的な過誤が重なって重大事故に至ったと総括できる。将来においては、さらなる大規模自然災害、テロ、サイバーテロや犯罪から原発が安全かという問題も検討課題であり、バックフィットの考え方による不断の安全性向上が欠かせない。また使用済み核燃料と高レベル放射性廃棄物の処分の見通しも立っていない。
また、原発事故で、国民意識は原子力発電に否定的な方向に大きくシフトしている。原子力発電については、ある特定の範囲の人々に犠牲を強いるシステムという社会的な倫理問題も未解決である。立地地域・周辺地域、作業従事者等への危険の集中をどう軽減するのか、将来世代への危険の持ち越しをどう避けるのかを考えていくことなしに国民的合意を形成することは困難である。
これらを踏まえるならば、再生可能エネルギーの安定的かつ低価格での供給を基本とする新たなエネルギー供給体制に向けた研究開発をすすめ、その実現を図ることは喫緊の課題である。
3 提言等の内容
提言1 東電福島第一原発事故では、被災者の健康管理、生活再建、被災地の除染による環境回復、事故原発の安全管理と廃炉、汚染物質の中間貯蔵と最終処分等の十分に解決されていない問題が多い。東京電力と国は、被災者の健康管理と生活再建、被災地の復興を最重要の課題として認識し、そのための取組みを継続するべきである。
提言2 国と原子力発電事業者は、原発が様々な事故の危険を内包していることを理解して、稼働中から廃炉に至るまで、その安全性を向上させる努力を継続するとともに、常にすべての原発が最高レベルの安全対策を維持するバックフィットの考え方を実践するべきである。また事故が起こった際の住民等の避難の安全確保も重要事項である。地域間、世代間のリスク負担の偏りを是正しつつ行われる安全の追求に要する費用は原発の稼働に不可避の費用とみなすべきで、原子力発電によって得られる収益をもとに、安全向上のために投入可能な費用を判断するべきではない。
提言3 原発の災害は自然の脅威やテロ・サイバーテロ・犯罪によっても引き起こされ得る。また我が国が地震多発地帯で、地球の地殻変動の影響を被りやすい地学的条件にあることを認識して、国と原子力発電事業者は十分な安全確保策とモニタリング・予測システムを整備する必要がある。
提言4 国と原子力発電事業者は、使用済み核燃料と高レベル放射性廃棄物の処分では、超長期に及ぶ安全確保が必要であることを認識し、適切な処分方法に関する技術革新を進めること、将来の世代に残す負の遺産を減少させるための措置をとることが重要である。また、プルトニウムの安全確保、量の減少に努めることが重要である。
提言5 東電福島第一原発事故を経て、我が国のエネルギー供給の転換を図ることは喫緊の課題となった。国は、このための多数の事業者が参入する仕組みを発展させるべきである。また、エネルギー関連分野の研究者においても、経済効率的な電力供給や公共目的の実現のために的確な研究成果を上げることが求められる。特に再生可能エネルギーの低コスト化、安定供給化に向けた研究開発は最重要の課題である。その際、再生可能エネルギーに付随するバックアップ電源による温室効果ガス排出等の負の効果の抑制も重要である。
提言6 原子力発電の将来のあり方に関わらず、福島事故への継続的対応、他の原発の廃炉、使用済み核燃料や高レベル放射性廃棄物の処分、その他の原子力利用等、原子力利用関連事業は長期に続く。これらに携わる専門的人材育成は国として継続的に取り組むべき課題である。そのため、原子力発電、放射性物質・放射線に関わる専門知識はもとより、エネルギー問題全般、安全や安心、社会との対話や社会における合意形成等に関わる幅広い知識を習得した人材の育成を図るべきである。
提言7 日本学術会議は、国内外の原発・関連施設の事故等に際しては、原子力利用の安全管理の観点から検討を行い、科学的見地からの提言等を発し続けることが必要である。海外の原子力研究者や放射性物質の管理に関する研究者との連携を図り、原子力発電や放射性物質の処分・管理の安全性向上に向けて、科学的見地から政策的助言を行う体制を整えるべきである。また、原子力関係の専門家が、閉ざされた集団として信頼を失った事実を謙虚に省み、他分野の研究者や市民社会との相互的な関係構築に努めるべきである。