元通省官僚で、泉田前新潟知事の1年先輩で彼のことをよく知る古賀茂明氏が、「究極の演技派 泉田前新潟知事の裏切りで笑う安倍自民党」とする記事を発表しました。
泉田氏は反東電ではあったけれども脱原発・反原発ではなく、知事時代からいずれ国会議員に転身することを二階俊博氏(現幹事長)と約束していたということです。
泉田氏は次回の知事任期中に柏崎刈羽原発の再稼働が決まるので、そこで再稼働容認派の馬脚を現さないために知事選の直前に立候補を辞退しました。当然、脱原発の米山候補については周囲からいくら促されても応援することはなく、逆に選挙戦終盤で、二階自民党幹事長の求めに応じて官邸で安倍晋三総理と会談し、脱原発派と信じていた世間に意外感を与えました。
そしてこの度の衆院選に自民党から立候補することについては、「自民党を変えなければ脱原発は実現しない」ということと「米山知事の裏切りを止める」という二つの言い訳を用意しました。泉田氏が自民党内で脱原発を叫んだとしても何の意味もありません。個人で「自民党を変える」などと言うのは「寝言」です。
もう一つの「米山知事の裏切りを止める」とは一体何のことか分かりませんが、いずれにしても自民党議員になればそれが果たせるという意味が不明です。
まさにあれこれと、県民を偽る口実をよく考えるものです。「究極の演技派」… それは泉田氏を表す見事なネーミングです。
いずれにしても新潟県民としてこれほど後味の悪い思いもありません。2016年夏の参議院選挙で野党連合の森裕子氏を勝たせ、また同年10月の新潟県知事選で民進党抜きの弱小野党連合候補の米山隆一氏を勝たせた新潟県民は、来るべき衆院選ではどんな結果を導くのでしょうか。
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古賀茂明「“究極の演技派”泉田前新潟知事の裏切りで笑う安倍自民党」
古賀茂明 AERA dot. 2017 年 9 月 18 日
自民党は9月13日、衆議院新潟第5区の補欠選挙(10月22日投開票)の公認候補に泉田裕彦前新潟県知事(54)を推すことを決めた。
報道では地味な扱いだったが、実はこれは今後の政局に大きな影響を与える事件だ。
支持率が大きく低下し、「安倍一強」の危機と言われるが、その最大の原因は、都議選大敗で、「選挙に強い安倍」というイメージが崩壊したことにある。
仮に、10月22日に青森、新潟、愛媛で行われる3つの衆議院補選で自民が1勝2敗以下の戦績となれば、「安倍ではもうダメだ」という印象を決定づけ、来年の総裁選の見通しは極めて暗くなる。逆に、3戦全勝となれば、「選挙に強い安倍」というイメージが復活するかもしれない。
補選が行われる3県はいずれも自民党が強い地方の選挙区だが、最近の新潟は例外だ。2016年夏の参議院選挙では、野党連合の森裕子氏に敗れ、また同年10月の新潟県知事選では、民進党抜きの弱小野党連合候補の米山隆一氏に大差で敗北を喫している。
泉田裕彦氏は、新潟県知事を12年間務めた実績もあり、抜群の知名度を誇る。しかも、保守政治家でありながら、脱原発の野党や左翼系の市民にまで幅広く支持されるスーパースターだ。安倍自民としては、喉から手が出るほど欲しい候補である。
民進党も、立候補を要請したが、あっさりと断られ、先の見通しは立っていない。
このまま行けば、新潟での自民党勝利は固い。愛媛と青森で1勝1敗なら、全体では2勝1敗の勝ち越し。うまく行けば、3戦全勝も視野に入って来る。
■“反原発”とは言わない、実は「再稼働容認派」
泉田氏が自民から出馬と聞いて、「反原発の泉田氏が原発推進の自民から出るのはおかしい」と思った方も多いだろう。
私は、経済産業省時代に泉田氏と一緒に仕事をしたこともあり、彼が県知事なってからも折に触れて連絡を取ってきた。昨年の知事選前後も会食や電話などで連絡を頻繁に取った。
そんな私にとって、今回の「自民から立候補」という話を聞いての印象は、「ああ、やっぱり」というものだ。
私が知る泉田氏は、「反原発」でも「脱原発」でもない。ただ、「反東電」ではあった。中越沖地震で起きた柏崎刈羽の火災事故の際の東電の対応や、福島第一原発事故後の東電の嘘と情報隠蔽への泉田氏の反発は特に強かった。泉田氏は、「福島の事故の検証が終わっていないのに再稼働の議論をすることはできない」とか、「避難計画が万全のものになっていないまま再稼働できるはずがない」と繰り返し述べ、東電の廣瀬直己社長(当時)に非常に強い口調で批判をしていたので、いかにも「脱原発派」だという印象を国民に与えていた。
しかし、彼は自身でも認めていたが、決して「反原発」でも「脱原発」でもなかった。条件さえ整えば、再稼働しても良いという「条件付き再稼働容認派」だったのだ。
■究極の演技派? 新潟知事選直前の辞退は出来レース
泉田氏は、世の中では、原発再稼働を止めている知事として有名だったが、それ以外はあまり知られていない。しかし、私の印象では、彼はどちらかというとタカ派的な保守政治家だ。国政にも強い意欲を持っていたが、出るなら当然自民党ということになる。その観点から見れば、昨年の知事選辞退騒動は、彼にとっては非常に合理的な選択だった。
昨年春には、近々、柏崎刈羽原発再稼働が原子力規制委員会の審査で認められるという見通しだった。これは泉田氏にとって非常に厄介な問題だ。一般には、泉田氏が原発を止めていたという印象が広がっていたが、実は、止めていたのは規制委であって、泉田氏は外野から東電批判をしていただけだった。
しかし、規制委がゴーサインを出せば、次は県知事の同意という段階になる。それは県知事に「原発を止めるか動かすか」の踏み絵を迫る。不同意なら、安倍政権とは決定的な対立となる。将来、自民党から国政に転出したい泉田氏としては、非常に困る。
一方、再稼働に同意すれば、市民から「嘘つき」というレッテルを貼られる。そのどちらをも避けるには、知事を辞めるしかない。「逃げるが勝ち」ということだ。
その場合、彼としては、当然、保守層の支持を維持するとともに、野党支持者や無党派層の支持も減らしたくない。彼は、選挙直前に出馬辞退を表明することで、この相矛盾する要請を両方満たす答を出すことに成功した。
彼は最後まで、なぜ出馬を辞めたのかという問いに対して、地元紙・新潟日報との対立という理解不能な言い訳を述べるだけで、最後まで有権者を納得させる答をしなかった。
当然、世間では種々うわさが飛び交った。さらには「命を奪われるような怖ろしい脅迫を受けた」という話がまことしやかに広がった。
泉田氏は、「私からは具体的には何も言えないが、いろいろなことがあるんです」というような思わせぶりな発言をして、こうした噂が広がることをむしろ助長していた感がある。
これによって、彼は一気に「悲劇のヒーロー」となった。いわば、市民がだまされるのを放置したのである。
これを称して、「究極のペテン師」ということもできるし、それが言い過ぎだとしたら、少なくとも、「究極の演技派」とは言えるだろう。
一方、選挙直前の辞退によって、自民党は非常に有利な立場に立ち、逆に野党側は不戦敗さえ懸念された。泉田氏としては、自民党に大きな恩を売った形である。
実は、この時から泉田氏と二階氏の間には、国政進出を二階派丸抱えで支援するという密約があったという説があるが、その後の展開を見ると、非常に納得のいく説である。密約がなかったとしても、少なくとも、泉田氏が、後の展開を予想して、うまく立ちまわったということだけは言えると思う。
■私が泉田氏に抱いた二つの疑念
その後、米山隆一氏(現新潟県知事)の出馬で情勢は急転するが、その選挙戦で私が非常に不審に思ったことが二つある。
まず、泉田氏が市民連合の再三の求めにもかかわらず、再稼働慎重派の米山氏を支持することを最後まで断り続けたことだ。今から考えれば、自民党との関係で米山氏支持は打ち出せなかったということなのだ。
さらに不思議だったのは、泉田氏は、選挙戦終盤で、二階俊博自民党幹事長の求めに応じて、官邸で安倍晋三総理と会談した。これを受けて、菅義偉官房長官が、「知事にお越しいただいたことは大きい」と述べて、泉田氏と自民党の蜜月ぶりをアピールした。
これは、二階氏が要請したものだが、それに乗った泉田氏は、明らかに将来を考えて、二階氏と安倍総理に恩を売ったのである。
この時、私は彼が二階派から国政に出るつもりなのではないかという疑念を抱いた。人気抜群の泉田氏だが、実は、いつも「お金がない」と漏らしていた。資金面の面倒を見てくれそうな二階氏とのタッグは「願ったりかなったり」のものだったのだろう。少なくとも、彼にそうした思惑があったとしても何ら不思議はない。
地元の自民党関係者やマスコミの話では、この夏前までに、泉田氏は、5区ではなく4区から立候補することになっていたそうだ。泉田氏は元々4区の加茂市出身。既にかなり積極的な選挙準備の活動が展開されていたという。
そこに突然の5区長島忠美議員の死去で、5区候補として急浮上したのである。
泉田氏としては、今5区で出ても、すぐにもう一度衆議院選がある。ここは自重して、4区から出る方が得だ。5区から出れば、4区で活動している後援者たちへの裏切りとなる。
実は、泉田氏が最後まで迷ったのは、「脱原発派への裏切り」の問題ではなく、「4区への裏切り」問題だった。結局5区から出ることにしたのは、二階氏や安倍総理への大きな貸しになるからであろう。
■泉田氏の裏切りと言い訳とは?
泉田氏は、「4区支持者との関係で、大義名分が必要」と繰り返していたそうだが、今回彼は、しきりに故・長島忠美衆議院議員(5区の補選は同氏死去によるもの)及び山古志村との関係を強調している。彼の口からは、知事になって最初に公務で会ったのが当時の山古志村の長島村長で、一緒に震災対応を不眠不休でやったとか、最後の公務で訪れたのが山古志村で、住民から感謝と激励の言葉をもらったなどの話が出て来る。そうした「深い縁」が大義名分になるということなのだろう。
裏切りと言えば、もう一つ、「原発推進の自民党から出るのは、脱原発を願う県民への裏切りだ」という批判への言い訳も必要だ。
そこで、彼が用意した言い訳は、二つ。
まず、「自民党を変えなければ脱原発は実現しない」というものだ。しかし、彼が自民党で脱原発を叫んだとしても全く意味がないだろう。永田町で彼に一目置く政治家など皆無だ。私が良く知る経産省OBの政治家も、泉田氏のことを「ああ、あの人ね」と見下している。自分が自民党を変えるなどと言うのは、選挙のセールストーク。本気で言ったら、「寝言」だと馬鹿にされるだけだ。
もう一つの言い訳は、「米山知事の裏切りを止める」である。泉田氏は、最近、米山知事批判を強めている。彼によれば、米山氏は、再稼働を止めるためのいくつかの歯止めを少しずつ外しているというのだ。そこで、県庁にいろいろ言っても、自分は無役で影響力がない。国会議員になれば、地元選出の国会議員の声を無視するわけにはいかなくなるので、自分が再稼働を止める役割を果たすというようなことを言っている。これもかなり苦しい言い訳だ。そんな批判をするなら、なぜ、知事を辞めたのかという批判がでるだろう。
ちなみに、最も重要なポイント、泉田氏の「再稼働反対は嘘だったのか」という疑問に対する言い訳が気になるかもしれないが、実は、その言い訳は必要なさそうだ。
なぜなら、泉田氏は、今も支持者たちに、「これまでの自分の考えは微動だにしない。現状での再稼働には反対だ」と言い続けているからだ。選挙中もそういう路線で行くのだろう。それなら、言い訳は不要だ。
自民党の政策との整合性が問われるが、実は、当選さえすれば良いというのが自民党の懐の深いところ。河野太郎外相も、大臣になる前までは、いつも原発反対と言う主張を繰り返していたが、党議拘束に反する行動さえしなければ、不問に付されていた。泉田氏が当選すれば、選挙期間中の発言がもんだいになることはないのだ。
■苦境の民進党は森裕子参院議員に泣きつく
泉田氏の自民党からの出馬によって、追い詰められたのは民進党だ。幹事長候補山尾志桜里氏の不倫スキャンダルで出ばなをくじかれた前原誠司新代表にとって、この三補選は最重要課題だ。少なくとも、野党側が連勝中の新潟では何としても勝ちたい。
しかし、今の民進党には魅力がなく、民進党県連は独自候補を立てられず、野党・市民連合の事実上のリーダーである森裕子自由党参議院議員に泣きついた。もちろん、野党共闘前提だ。今後、民進党は主導権を失い、森裕子氏らが市民連合と連携しながら、候補者選びを行うことになるだろう。
一方、だらしない民進党の動向よりもはるかに大事なのは、泉田氏の「裏切り」に対して、一般市民がどのような反応を示すかである。泉田氏を信じたいという人もまだまだ根強く存在するが、そんな泉田ファンには、是非以下のことを考えていただきたい。
まず、泉田氏に自民党を変える力があるなどと言うのは幻想に過ぎないことは前述したとおりだ。
そして、何よりも、泉田氏が当選して誰が喜ぶのかを想像するべきだ。泉田勝利は、脱原発の野党候補敗北を意味する。
選挙後の安倍総理のコメントはこんなものになるだろう。
「わが自民党は、昨年、参議院選挙と県知事選で、新潟県民から大変厳しい審判を受けました。しかし、今回は、我々自民党の政策を新潟の方々に理解していただくことができた。心から感謝します。これまで通り、原子力規制委員会が安全だと判断した原発に限り、安全第一で、しっかり再稼働を推進して参ります。」
脱原発の最後の砦とも言われる新潟での自民党勝利は、全国の原発再稼働の流れを決定的なものにするだろう。
それだけではない。3補選で自民が2勝あるいは3勝すれば、安倍政権は息を吹き返す可能性が高い。
問題は、こうした複雑な状況を有権者が正しく理解して投票できるかどうかだ。選挙が近づくと、マスコミは当たり障りのない報道しかしない。泉田氏を支持するにしても、野党候補を支持するにしても、十分な情報が提供されたうえでの判断となるように期待しつつ、これから約1カ月後の開票日まで、新潟5区の動向を注視していきたい。