東電福島第一原発の事故で世界を汚染、日本を壊滅させそうになった
無責任集団が原発再稼働推進
櫻井ジャーナル 2017年9月14日
原子力規制委員会は東京電力柏崎刈羽原発の6、7号機を再稼働させる方向で動いている。言うまでもなく、東電は福島第一原発の炉心溶融事故を引き起こし、環境中に膨大な放射性物質を放出させ続けている会社。しかもその責任が事実上、問われていない。原子力規制委員会、経済産業省(2001年1月まで通商産業省)、原子力安全保安院(2012年9月に廃止)は勿論、警察、検察、裁判所も責任を果たしたとは言えない。その検察は福島県知事として原発に慎重な姿勢を見せていた佐藤栄佐久を事故の5年前、スキャンダルで失脚させている。そうした無責任集団がまた無責任なことをしているわけだ。
原発の専門家であるアーニー・ガンダーセンも指摘(アーニー・ガンダーセン著『福島第一原発』集英社新書)しているように、福島第一原発から環境中へ放出された放射性物質の総量はチェルノブイリ原発のそれを大幅に上回ることは間違いない。当初、チェルノブイリ原発事故の1割程度、あるいは約17%だとする話が流されたが、福島のケースでは圧力容器が破損、燃料棒を溶かすほどの高温になっていたので放射性物質を除去することになっている圧力抑制室(トーラス=サプレッション・チャンバー)の水は沸騰、しかも急上昇した圧力のためトーラスへは爆発的な勢いで気体と固体の混じったものが噴出したはずである。トーラスで99%の放射性物質が除去されるという計算の前提は成り立たない。少なくともチェルノブイリ原発事故で漏洩した量の2〜5倍の放射性物質を福島第一原発は放出した。十数倍に達した可能性もある。
放出された放射性物質について政府や電力会社は情報を隠しているが、そうした中、漏れてきた情報もある。例えば、2011年4月17日に徳田毅衆議院議員は「オフィシャルブログ」(現在は削除されている)で次のように書いていた:
「3月12日の1度目の水素爆発の際、2㎞離れた双葉町まで破片や小石が飛んできたという。そしてその爆発直後、原発の周辺から病院へ逃れてきた人々の放射線量を調べたところ、十数人の人が10万cpm(=1667Bq)を超えガイガーカウンターが振り切れていたという。それは衣服や乗用車に付着した放射性物質により二次被曝するほどの高い数値だ。」
12日に爆発したのは1号機で、14日には3号機も爆発している。政府や東電はいずれも水素爆発だとしているが、3号機の場合は1号機と明らかに爆発の様子が違い、より深刻なものだった。15日には2号機で「異音」、また4号機の建屋で大きな爆発音があったという。
こうした爆発が原因で建屋の外で燃料棒の破片が見つかったと報道され、2011年7月28日にはアメリカのNRC(原子力規制委員会)の会合でこの問題が取り上げられた。新炉局のゲイリー・ホラハン副局長は、発見された破片が炉心にあった燃料棒のものだと推測している。
その会議の直後、8月1日に東京電力は1、2号機建屋西側の排気筒下部にある配管の付近で1万ミリシーベルト以上(つまり実際の数値は不明)の放射線量を計測したと発表、2日には1号機建屋2階の空調機室で5000ミリシーベル以上を計測したことを明らかにしている。ダメージコントロールのために発表したようにも思える。
徳田のブログは重要な情報が含まれているが、その徳田をスキャンダルが襲う。彼の姉など徳洲会グループ幹部6人を東京地検特捜部は2013年11月に公職選挙法違反事件で逮捕、徳洲会東京本部や親族のマンションなどを家宅捜索した。2006年11月に行われた沖縄県知事選との関連が指摘されているが、原発事故の問題も関係している可能性がある。
また、事故当時に双葉町の町長だった井戸川克隆は心臓発作で死んだ多くの人を知っていると語っている。福島には急死する人が沢山いて、その中には若い人も含まれているとも主張、東電の従業員も死んでいるとしているのだが、そうした話を報道したのは外国のメディアだった。
この井戸川元町長を作品の中で登場させた週刊ビッグコミックスピリッツ誌の「美味しんぼ」という漫画は、その内容が気に入らないとして環境省、福島県、福島市、双葉町、大阪府、大阪市などが抗議、福島大学も教職員を威圧するような「見解」を出し、発行元の小学館は「編集部の見解」を掲載、この作品は次号から休載すると決めたという。
福島県の調査でも甲状腺癌の発生率が大きく上昇していると言わざるをえない状況。少なからぬ子どもがリンパ節転移などのために甲状腺の手術を受ける事態になっているのだが、原発事故の影響を否定したい人びとは「過剰診療」を主張している。
事故直後、福島の沖にいたアメリカ海軍の空母ロナルド・レーガンに乗船していた乗組員にも甲状腺癌、睾丸癌、白血病、脳腫瘍といった症状が出ているようで、放射線の影響が疑われ、アメリカで訴訟になっている。カリフォルニアで先天性甲状腺機能低下症の子どもが増えているとする研究報告もある。
ロシア科学アカデミー評議員のアレクセイ・V・ヤブロコフたちのグループがまとめた報告書『チェルノブイリ:大災害の人や環境に対する重大な影響』(日本語版)によると、1986年から2004年の期間に、事故が原因で死亡、あるいは生まれられなかった胎児は98万5000人に達する。癌や先天異常だけでなく、心臓病の急増や免疫力の低下、あるいは知能の問題が報告されている。日本ではそれ以上に深刻な事態が生じている疑いが濃厚だ。
どこかの国が核実験したといって放射性物質を気にしてみせる日本の政府やマスコミだが、自国の原発事故が引き起こした環境汚染は見て見ぬ振り。機械に故障はつきものであり、原発事故の場合は国どころか生物の存亡に関わる事態になりかねない。そうしたことを気にしない人々なら、アメリカの好戦派がロシアや中国との全面核戦争に向かって突き進むことも気にならないのだろう。