2017年9月23日土曜日

原発避難者訴訟 東電に賠償命令 国の責任は認めず

 福島県から千葉県避難した18世帯45人が国と東電に約28億円の賠償を求めた訴訟で、千葉地裁は22日、東電に約37600万円の賠償を命じる一方、国については責任を認めませんでした
 原告30人余りについては国の指針などに基づく慰謝料に加えて1人当たり最大で1000万円を賠償し、自主避難者については個々の具体的な事情に応じて賠償の対象となると認めたものの、慰謝料1人当たり30万円に抑えられました
 自主避難者への賠償が認められたと評価する見方もありますが、こんな些少の額では認めた内に入りません。
 それよりも国が決めた年間20ミリシーベルト被爆以下では避難する必要がないという、非合理的な基準を実質的に追認したとしか判断できません。

 この判決に先立って今年3月に下された前橋地裁判決「東電は津波を予見でき、対策もとれた」と判断し、国についても「対策を命じなかったのは著しく合理性を欠き違法だ」と指摘していたのに比べると後退しています。

 避難者たちが賠償を求めた訴訟は、全国で少なくとも18の都道府県で31件の裁判が起こされ、原告は12000人余りに上っています。
 残りの訴訟についても今年中には1審判決が下されるものと見られています。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
原発避難者訴訟 東電に賠償命令 国の責任は認めず
NHK NEWS WEB 2017年9月22日
東京電力福島第一原子力発電所の事故で、千葉県に避難した45人が生活の基盤を失うなど精神的な苦痛を受けたと訴えた裁判で、千葉地方裁判所は東京電力に対して、原告のうち42人に総額3億7600万円余りを賠償するよう命じる判決を言い渡しました。一方、国への訴えは退けました。
この裁判は、原発事故の避難区域や福島県のそのほかの地域から千葉県に避難した18世帯45人が、住み慣れた家や仕事を失い、ふるさとでの生活が奪われたとして、国と東京電力に総額28億円余りの慰謝料などを求めたものです。

裁判では、国と東京電力が大規模な津波を事前に予測して被害を防ぐことができたかどうかや、東京電力が避難した人たちに支払っている慰謝料の額が妥当かどうかが争われました。
判決で千葉地方裁判所の阪本勝裁判長は「国は遅くとも平成18年までには福島第一原発の敷地を超える高さの津波が起きる可能性を予測できたが対策を講じても事故は避けられなかった可能性がある」として国の責任は認めず国への訴えは退けました。

東京電力については「津波対策を完全に放置したとまでは言えず、重大な過失があったということはできない」と指摘しました。
一方で「住民がこれまでの暮らしやコミュニティーを失った精神的苦痛は事故と関係があり、東京電力が賠償すべきだ」などとして、原告のうち42人に総額3億7600万円余りを賠償するよう命じる判決を言い渡しました。

このうち原告30人余りについては国の指針などに基づく慰謝料に加えて1人当たり最大で1000万円の増額を認めました。
また避難区域ではない地域から自主的に避難した1世帯4人についても個々の具体的な事情に応じて賠償の対象となるとして、1人当たり30万円の慰謝料を認めました。

原発事故をめぐって全国の18の都道府県で1万2000人余りが起こしている集団訴訟では2例目の判決で、国と東京電力の責任を初めて認めたことし3月の前橋地方裁判所の判断とは異なり、国の責任を認めませんでした。

原告団「到底納得できず控訴」
判決を受けて原告団が支援者らを集めて千葉市内で報告集会を開きました。
原告の弁護団の事務局長を務める滝沢信弁護士は「千葉地裁は原発事故について国の責任を認めていないので不当判決だと思う。私たちも原告の人たちも到底納得できないので控訴します」と話しました。

原告の代表の遠藤行雄さんは「まさかこういう判決になるとは思っていませんでした。これでは終われないので改めて頑張っていきたい」と話しています。

東京電力「判決内容精査し対応検討」
判決を受けて東京電力は「当社、原子力発電所の事故により、福島県民の皆さまをはじめ広く社会の皆さまに大変なご迷惑とご心配をおかけしていることについて、改めて心からおわび申し上げます。きょう、千葉地裁で言い渡された判決については、今後、判決内容を精査し対応を検討してまいります」というコメントを発表しました。

原子力規制庁「原発審査 厳格に進める」
(中 略)
前橋地裁の判断との違い
今回の判決は原発事故に対する国の責任を認めなかったうえ、東京電力の事故前の津波対策についても「重大な過失があったとは言えない」として、国と東京電力の対応を厳しく指摘したことし3月の前橋地方裁判所の判断とは大きく異なる結果となりました。

前橋と千葉の地方裁判所で起こされた2つの集団訴訟では、東京電力に対する国の規制の在り方が適切だったのかが争われ、ことし3月の前橋地方裁判所の判決では「国は福島第一原発の敷地の高さを超える津波を事前に予測することが可能だった。東京電力に対策を命じていれば事故を防ぐことができた」として国の責任を認めました
千葉地方裁判所の判決では「事前に津波を予測することは可能だったが、国や電力会社が投資できる資金や人材は限られ、すべてのリスクに対応することは現実的には不可能だった。仮に対策をとっていたとしても、東日本大震災の津波の規模から考えると事故は避けられなかった可能性がある」として国の責任は認めませんでした。

東京電力の責任についても判断が分かれました。
前橋地方裁判所は東京電力の津波対策について「常に安全側に立った対策をとらなければならないのに経済的な合理性を優先させたと言われてもやむをえない対応で、今回の事故の発生に関して特に非難するに値する」と厳しく指摘しました。
千葉地方裁判所は、東京電力が事故の前、想定される津波の検討を土木学会に依頼していたことなどから「津波対策を完全に放置したとまでは言えず、重大な過失があったということはできない」としました。

原発事故をめぐる集団訴訟は前橋と千葉を含めて全国18の地方裁判所で起こされ、今回の判決が今後の裁判に影響を与える可能性があります。

国の指針以上の慰謝料認める
原告への慰謝料について22日の判決では「長年住み慣れた家や地域での生活の断念を余儀なくされたことによる精神的苦痛も賠償の対象となる」として国の指針を上回る金額の支払いを命じました。
(中 略)
22日の判決では「長年住み慣れた家や地域での生活の断念を余儀なくされたことによる精神的苦痛は、避難生活に伴う慰謝料では補填(ほてん)しきれないもので、原発事故と関係がある損害として賠償の対象となる」として、原告のうち30人余りについて50万円から1000万円の慰謝料を認めました。

自主的に避難した人の慰謝料についても個々の具体的な事情に応じて賠償の対象となるとして、自主避難した1世帯4人について1人当たり30万円の慰謝料が認められました。

専門家「損害広く認めた」
原発事故の賠償に詳しい東洋大学法学部の大坂恵里教授は判決について「損害を広く認めたことに特徴がある」と話しています。
大坂教授は、原告側が求めていた「ふるさとの喪失」に対する慰謝料が認められたことを挙げ「事故が起きる前の生活や地域のつきあいを失ったことなど東京電力がこれまでの賠償で認めてこなかったことも損害と認めていて、今後の集団訴訟に大きな影響を与える可能性がある」と指摘しています。
また自主的に避難した人にも賠償が認められたことについては「今回は避難したことに合理性があれば賠償を認めるという判断を示していて、個別の事情を考慮した判決で評価できる」と話していました。
そして事故の責任について前橋地方裁判所と判断が分かれたことについては「今年度中に各地で集団訴訟の判決が言い渡される予定で、その判断が注目される」と話していました。

各地で訴訟 来月は福島で判決
原発事故で被害を受けた人たちは事故の責任を問う裁判を各地で起こし、来月10日には福島で判決が言い渡されます。
(中 略)
件数はしだいに増え、国や弁護団などによりますと、全国の少なくとも18の都道府県で31件の裁判が起こされ、原告は1万2000人余りに上っています。
(中 略)
ことし3月には集団訴訟で初の判決が前橋地方裁判所で言い渡され「国と東京電力は津波を事前に予測して事故を防ぐことができた」として3800万円余りの賠償を命じました。この判決に対しては双方が控訴し、東京高等裁判所で改めて審理されます。

一連の集団訴訟では来月、全国で最も多いおよそ4000人が原告となり、「生業訴訟」と呼ばれる裁判で、福島地方裁判所が判決を言い渡します
この裁判では国と東京電力に対して、千葉の裁判と同じようにふるさとでの暮らしを失ったことに対する慰謝料などを求めているほか、放射線量を事故の前の状態に戻すことも求めていて、裁判所の判断が注目されます。
この裁判の原告団の馬奈木厳太郎弁護士は22日の判決について「追加の賠償を認め、今の救済の在り方は不十分だと判断した点は当然とはいえ評価できる」と述べました。
一方で国の責任が認められなかったことについては「国は津波を予見できたにもかかわらず万が一にも事故を防ぐための努力をしなかったことを許容した判決で極めて不当だ」と強く批判しています。

争点1 津波予測し被害防げたか
(中 略)
争点2 「ふるさと喪失慰謝料」認められるか
裁判では、避難生活に伴う慰謝料とは別に、ふるさとでの生活が失われたことに対する「ふるさと喪失慰謝料」が認められるかどうかが争点の一つとなりました。
原告側は、原発事故によって、一人一人の人格を育んできた自然環境や文化環境の中での暮らしや、地域の人と人とのつながりなどが失われ、生涯にわたって続く精神的な苦痛を受けたと主張しています。
そのうえで避難生活に伴う慰謝料とは別に「ふるさと喪失慰謝料」として原告1人につき2000万円を求めています。
後 略