福島県は、甲状腺がんやその疑いがある子どもは218人(今年3月時点)としていますが、NPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金」は〈県の集計は6月末時点で少なくとも18人漏れている〉と指摘しました。
福島県は、一斉検査で「要経過観察」と判定するとそれ以後は保険診療へ移行するので関知しないという姿勢で、その後がんに移行しても「カウント」対象にしていないためです。理解できない話です。
理解できないといえば、福島県民健康調査検討委員会はこれらの「甲状腺がんあるいはがんの疑い」のある患者について、一貫して「被ばくとの関連は認められない」と結論付けています。何故そんなことが断言できるのでしょうか。
先月9日に福島地裁で行われた「子ども脱被ばく裁判」の20回目の弁論で、福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一氏と「県民健康調査」の甲状腺検査の責任者だった鈴木眞一氏の証人採用がようやく内定しました。国と福島県から『鈴木氏の尋問は書面で足りる』と猛反発があったそうですが、裁判所は突っぱねました。当然のことです。
記事中に「チェルノブイリ法」(=避難の権利)が出てきますが、それは1986年に起きたチェルノブイリ事故で、ソ連が年間被曝量1ミリシーベルト以下は避難は不要、1~5ミリシーベルトの地域の住民は自己判断で避難を決め、5ミリシーベルト以上は強制的に避難させ、避難者にはいずれも手当をだすということを法制化したことを指しています。
それに比べて26年遅れて起きた福島原発事故で、年間被曝量20ミリシーベルト以下が居住可能地域で、そこから自らの意志で避難した人たちを「自主避難者」と呼んで事ごとに差別しているのが日本の実態で、余りにも非人道的で許されないことです。
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「告白」あの事件の当事者
甲状腺がんになりうる経過観察の子どもたちは“3500人”いる
日刊ゲンダイ 2019/08/17
柳原敏夫さん(弁護士)
2011年3月の東京電力福島第1原発事故からまもなく8年半になるが、放射線被ばくによる甲状腺がんの疑いのある子どもが増え続けているという。
甲状腺検査の対象は、事故当時18歳以下や事故後1年間に生まれた福島県内の子どもら計38万人。県は甲状腺がんやその疑いがある子どもは218人(今年3月時点)としている。だが先月、NPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金」は〈県の集計は6月末時点で少なくとも18人漏れている〉と発表。県外の医療機関で見つかったり、検査後に経過観察になって、がんと診断された例があるという。
先月の県民健康調査検討委員会は県民を対象に実施している検査では27万540人のうち、71人に「甲状腺がんあるいはがんの疑い」と報告したが、この71人について「被ばくとの関連は認められない」と結論付けているのだ。
「子ども脱被ばく裁判」弁護団で「市民が育てる『チェルノブイリ法日本版』会」共同代表でもある柳原敏夫さんは言う。
「そもそも71人もいるのは多いし、県民健康調査検討委に2次検査でがんの可能性が低いとして“経過観察”と診断された子どもは今年7月時点で3500人を超えます。しかし、のう胞やしこりが大きいため依然要注意です。ところが、経過観察からは保険診療へ移行になるため県は関知しないという姿勢なのです。経過観察で放置しておくと、がんに発展する可能性が高まります。私たちが裁判で何度も問いただしても、県は経過観察中に甲状腺がんが発症した症例数を決して明らかにしません」
過去には、検査で経過観察となった事故当時4歳の男児がその後、甲状腺がんと診断されていたこともある。
事故から8年にして真相解明に向け明るさも見えてきた。
先月9日に福島地裁で行われた「子ども脱被ばく裁判」の20回目の弁論で、長崎大教授で福島県放射線健康リスク管理アドバイザーの山下俊一氏、そして福島県立医大の教授で「県民健康調査」の甲状腺検査の責任者だった鈴木眞一氏の証人採用が内定したのだ。
「鈴木氏の採用については被告である国と福島県から『鈴木氏の尋問は書面で足りる』と猛反発がありましたが、裁判所は『健康被害はなかったのかどうか聞きたい』と突っぱねた。私たち原告にとっても想定外の展開でした」
柳原さんたちは、現在新たな取り組みを始めた。1986年のチェルノブイリ原発事故後に旧ソ連が制定した「チェルノブイリ法」、その日本版の条例制定を目指す直接請求の署名活動だ。
これは「放射能の汚染地区から移住する権利」「医療・健診の保障」などを認める条例である。
「立ちあがったのは、三重県伊勢市の保養団体『ふくしまいせしまの会』の人たちです。3・11以降、福島の子どもたちを積極的に受け入れていますが、汚染地区から自主避難した住民への公的支援はありません。『チェルノブイリ法』と同様の原発事故の救済をまずは条例から作っていこうという草の根運動です」
8月30日までに2500人以上の署名が集まれば、市長を通じて市議会に条例案の審議・採決を求めることができる。 =この項おわり
(取材・文=小野真依子/日刊ゲンダイ)