産経ビジネスが「東芝の誤算 原発事業撤退」を3回シリーズの連載で取り上げました。
(上) と (中) が12日、13日で掲載されたので紹介します。
東芝の失敗の根源は2006年にWH社の原子力部門(当時英国社が所有)が売りに出されたとき、2000億円くらいが相場と言われていたのを東芝が三菱と競り合って6500億円もの高額で買収したことにありました。
そこに2012年に迎えたダニー・ロデリック会長を東芝は親会社でありながら実質的に支配できずにこの惨状となりました。東芝はWHを手放しはしましたが1000億円弱の株券買い取りや、納期遅れの賠償金の負担などのリスクが残っているということです。
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【東芝の誤算 原発事業撤退】(上)
ゆがんだ親子関係示すWHの「暴走」 東芝を介入させない名門のプライド
産経ビジネス 2017年4月12日
米ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)が米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を申請した3月29日、知らせを受けた東芝取締役の一人は、こう漏らした。
「これでやっと縁が切れる…」
東芝は前週末までに「合理的な理由がない限りWHの申請を拒否しない」と伝えていた。しかし当初米国時間28日とされていた申請は、29日未明にずれ込んだ。親会社の東芝がコントロールできない。WHの“暴走”は、こんないびつな親子関係を如実に示す。
会長がネックだった
申請を決めたWHの取締役会に、ダニー・ロデリック会長の姿はなかった。27日に解任されたためだ。東芝幹部は、こう振り返る。
「彼がネックだった」
ロデリック氏は、原発事業を率いていた志賀重範氏(東芝前会長)が2012年に招聘(しょうへい)した原子力のプロだ。米電力会社やGE日立ニュークリアーエナジーの副社長などを歴任。14年にはオバマ米前大統領とともにインドを訪れ、モディ印首相と協議した。
「29年度までに64基の原発を受注する」
東芝が不正会計問題の渦中にあった16年も、ロデリック氏はこう豪語した。拡大路線に、不安を感じる東芝社員も少なくなかったが、経営再建を急ぐ東芝経営陣は、WHを志賀氏とロデリック氏に一任。巨額損失の原因となった原発建設会社の買収も見過ごした。
「数千億円の損失が出る可能性があります」
東芝が昨年12月21日に開いた取締役会。WHの巨額損失を説明する志賀氏に対し、他の取締役から報告の遅れを非難する声が上がったという。
WH内部で損失の可能性を把握したのは10月初めだった。しかし、綱川智社長がその事実を知ったのは、12月の取締役会直前だ。経営に重大な影響を与える事象が、親会社に2カ月も届かない。綱川社長は会見で「チェック時期が遅かった」とうなだれたが、東芝の統治能力が疑われるのも当然といえる。
プライドゆえの反発
東芝とWHのゆがんだ関係は、06年にWHを買収した際、東芝が「経営に介入しすぎないと約束した」からとの指摘もある。
WHは、1957年に世界で初めて現在主流の加圧水型原発を完成させた名門だ。社員のプライドが高いとされ、米国から技術を学んだ東芝を含む日本の原発メーカーは“教え子”だ。東芝OBは「WHと顧客対応を一本化しようとしても聞き入れてもらえなかった」と証言する。
例えば納めた機器に不具合が生じた場合、東芝は機器そのものを交換する。だが、WHは不具合のあった部品だけを交換し、「東芝の対応は考えられない」と反発した。最終的に東芝方式を受け入れさせたが、一部はWHの自主判断に任せる条件がついたという。
会見で過去の誤りを問われた綱川社長は「WHを買収したことといえなくもない」と答えた。子の過ちを放置した東芝は、取り返しのつかない代償を負った。
【東芝の誤算 原発事業撤退】(中)
不透明な追加損失、米政権からむスポンサー探し WH破綻後も東芝に3つのリスク
産経ビジネス 2017年4月13日
西太平洋からインド洋にかけての広大な地域に展開する米海軍第7艦隊。神奈川県横須賀市の米海軍横須賀基地に配備されている原子力空母ロナルド・レーガンはその中核だ。1隻で中小国の空軍に匹敵するという同空母の心臓部には、米連邦破産法11条の適用を申請した米原子力大手、ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)製の原子炉2基が搭載されている。
安全保障
「WHが中国の手に渡るのだけは、阻止しなければならない」
米通信社ブルームバーグによると、米トランプ政権幹部らはWHの行方に神経をとがらせているようだ。最先端の原子力技術は軍事機密に通じる。WHは中国にとって、のどから手が出るほど欲しいものだ。2014年には中国軍当局者5人が、WHから機密情報を盗み出す目的でハッキング行為をし、米国内で起訴された。
破産法申請でWHは東芝の連結対象から外れた。とはいえ、株式売却が終わるまでは“縁切り”とならない。買い手候補が限られる中、安全保障をめぐる米政権の意向がからむスポンサー探しは、東芝の再建の大きなリスクだ。米連邦破産法11条の適用を申請したとはいえ、東芝の再建には課題が山積している。前述の安全保障に加え、追加損失、資金調達の3つのリスクは大きい。
追加損失
WHの経営破綻を発表した3月29日の記者会見。海外原発事業を切り離した後も損失が拡大する可能性を再三、問われた原発担当の畠澤守常務はポツリと漏らした。「私どもの観点では(追加負担は)ない」
WHが顧客への支払いを親会社として保証している金額を東芝は全て損失として織り込んだ。だが、WHが米国で契約する原発工事が遅れた際に米電力会社が東芝に損害賠償訴訟を起こすとの見方があり、この分の追加負担は損失想定に含んでいない。
加えて、WHの株式の10%を保有するカザフスタンの原子力会社は東芝に株の買い取りを求める権利を持っており、実行された場合は「1000億円弱の株主資本の減少要因になる」と財務担当の平田政善専務は明かす。
東芝はWHの破産処理に伴い、懸案だった16年4~12月期決算も11日に発表。再生への道のりを歩み出したかにみえる。
「WHの破綻には不透明な部分がある。金融機関にとってはストレスだ」
資金調達
東芝本社で4日開かれた取引銀行団への説明会。主力取引銀行の担当者らは、東芝の融資枠拡大要請に応じる意向を示す一方、厳しい言葉を投げかけた。平田専務は深々と頭を下げるしかなった。
WHの破綻処理で東芝は17年3月期に1兆円超の最終赤字を計上する。取引銀行は相次ぎ融資先の信用度を示す債務者区分を引き下げた。一部の地方銀行は融資引き揚げの動きを隠さない。
債務超過の東芝にとって銀行支援は生命線だ。だが、一連の事業リストラで多数の看板事業を手放した東芝にとって、融資の担保も限られており、WHの負の遺産が重くのしかかっている。