4月2日、放射能問題に詳しい医学博士で、福島県以外でも甲状腺がんと診断された人のために「甲状腺がん子ども基金」を立ち上げている崎山比早子さんの講演会が、さいたま市で行われました。
講演のなかで、今度福島県の4地区で避難指示が解除された基準が、何と “年間20mSv以下” という呆れかえるほど非人道的なものですが、それを正当化する学者や研究者が居座っていることを「この国の病だ」と断じました。
そもそも20mSvは放射線作業従事者が5年間で浴びていい累積線量で、そこには18歳未満は立ち入れないし、飲食、喫煙、就寝してはならないとされていて、作業員のなかでも5年で20mSvを超えた人は17%だということです。今回の避難解除は、そういう環境での生活を子どもを含む帰還者たちに強いるものだと強調しました。
そして「放射能の安全性に閾値はなく、ゼロでなければ安全とはいえない。これは科学者なら誰でも認めていること」と述べました。
そして「放射能の安全性に閾値はなく、ゼロでなければ安全とはいえない。これは科学者なら誰でも認めていること」と述べました。
4日、西村復興相が記者に暴言をはいて問題にされているのも、20mSv地区での生活を避けるために避難した人たちを「勝手に避難した自主避難者」だと見なして、「自己責任での対処」を主張するという安倍政権の大誤りの感覚が根底にありました。
政府が、ICRPが事故時の措置として20mSvを許容していると説明していることについても、ICRPの幹部がそれは事故直後のことであって(6年も経過した現在に適用するのは)「誤り」であると述べています。
※ 3月12日 報ステ:年間20mSvまでOKというのは大間違い
安倍政権の原発事故対応は間違いだらけです。
レイバーネットの記事を紹介します。
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「放射能はゼロでなければ安全とはいえない」
~医学博士・崎山比早子さんが講演
レイバーネット 2017年4月6日
4月2日、医学博士の崎山比早子さん(写真)の講演会が、さいたま市で行われた。主催は「原発問題を考える埼玉の会」。埼玉県に避難している福島の人や、除染・原発作業に携わった経験者など、60名が集まり、熱気あふれる質疑応答が続いた。折しも、3月31日に浪江町、飯館村、川俣町、4月1日には富岡町が避難解除になったばかり。これによって、3万2千人が「自主避難者」となり、住宅提供や精神的慰謝料が打ち切られることになる。「還れるんだから帰ればいいじゃないか」という人もいるかもしれないが、避難を解除する基準になっているのは“年間20ミリシーベルト以下”。それを正当化する学者や研究者が居座っていることを、崎山さんは「この国の病だ」と断じた。
●年間20ミリシーベルトの意味するもの
一般の人が浴びていい放射能は、年間1ミリシーベルトである。20ミリシーベルトは放射線作業従事者が5年間で浴びていい累積線量だ。このような区域に18歳未満は立ち入ってはいけないし、飲食、喫煙、就寝してはならない。そもそも事故前には、大概の作業員の平均値は五年で0・7ミリシーベルト。限界値の20ミリを超えた人は17%だという。その17%に当たる作業員と同じ生活環境を、帰還する人たち(子どもを含む)に強いるのが今回の避難解除なのだ。もちろん最初は、一ミリシーベルトの基準を目指し除染してきた。しかし、フレコンバックの耐用年数は3~5年。入っているのは土なので、草の根っこが袋を突き破ってしまい封じ込めることができない。3・11後、大気中や水に交じったヨウ素やセシウムで、関東汚染されているのだが、6年たった今も、福島第一原発の敷地内にはこれまで放出された800倍の放射線が滞留しているそうだ。原子炉近くでロボットが650㏜を示したということがニュースになったが、広島の原爆の13万4千発分の死の灰が残っているのだという。
●健康被害の実態
崎山さんは、低線量被ばくのメカニズムを、医学博士の立場から説明した。はっきりわかったのは、人の細胞は壊れても修復するものだが、放射能によって遺伝子が傷つくと、細胞は修復できないということだ。被ばく者にみられる疾患は、がんだけではない。『チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店)によると、胃潰瘍、肝炎、てんかん、腎障害、心筋梗塞、脳こうそくなど多岐にわたり、同時に4~5種類の疾病にかかったり、老化が早まったりする。
福島県立医大は「子どもはガンになっていないからチェルノブイリとは違う」と言い続けていたが、実は4歳児のがん患者がいることを隠していた。実際に患者は増えていると崎山さんはいう。アイソトープ治療を必要とする甲状腺疾患の子どもが増えているため、県立医大は建物を増築したそうだ。
●福島県内の放射線教育
崎山さんは、「放射能の安全性に閾値はなく、ゼロでなければ安全とはいえない。これは科学者なら誰でも認めていること。にもかかわらず、『不安にさせてはいけない』という理由で公にしない。住民をあまりにも馬鹿にしている」と憤る。福島県内では環境省作成の『なすびのギモン』というパンフレットが、コンビニやスーパー、役所などに置かれている。ネットで観ることもできるし動画にもなっているのだが、ここには「100ミリ㏜以下では発がん率が増加する根拠はない」等といったことが書かれている。また、文科省が出した放射線教育フォーラム成果報告書には「原子力の安全性とは、つまるところ放射線の安全性に他ならない。」「現状を放置しておくと人々が僅かな放射線を恐れて、原子力の需要が進まず、エネルギー問題の観点から日本の前途が危うくなる」という記述があり、この価値観のもとに福島県内での学校教育が行われているということだ。ベラルーシでは小学校に入学する前の子どもたちに、放射能の危険性や食べてはいけないものなどを教えているというのに、福島県では子どもたちに、手袋もマスクもなしで国道六号(福島第一原発から最も近い国道)の清掃をさせている。何ということだろう。
●不安を持つ人が追い詰められないように
会場には、いわき市から埼玉に避難しているお母さんが「甲状腺がんでアイソトープ治療が必要になった場合、将来子どもを産めるのか」といった切実な質問もあった。「福島県内の人は不安を感じていないようなので、県外に避難している自分が発信しないといけない」との思いを強く持っているという。崎山さんは、福島県以外でも甲状腺がんと診断された人のために「甲状腺がん子ども基金」を立ち上げた。「通院に交通費がかかったり、母親が仕事を休まなければならないといった負担を少しでも軽くしてあげたい」という。そして『よくわかる原子力』」というウェブサイトを作っているので、危険性を把握し、対策をたてるのに役立ててほしいと語った。
この報告を書いている矢先に、復興大臣の「原発自主避難は自己責任」発言が飛び込んできた。崎山さんの言葉で締めくくりたい。 「除染作業で数兆円をかけ、作業員を大量に被ばくさせても一ミリ㏜にならない。安全なところに移住させても、数兆円なんてかからないのに。ICRPの放射線防護体系のどこにも、現在の被ばく線量よりも高いところに住民を移動させる政策は見当たらないのに、日本政府は逆のことをし、研究者も従順に従っている。一人一人が考え、決めていくことが必要。民主的で原発のない社会を築くためには、最終的には個人の力だ」。【有森あかね】