2017年4月8日土曜日

今村復興相の「出ていけ」「うるさい」より重大な問題発言

 今村復興相の記者に対する「出ていけ」「うるさい」などの暴言が問題になっています。自主避難者たちへの冷酷な考え方と言い、西村氏が非難されるのは当然です。
 ジャーナリストの志葉玲氏が、被災者支援団体や野党議員は、今村復興相の発言の何が問題だと考えているのかについてレポートしました。
 
 西村氏を追及したフリー記者の西中誠一郎氏は、「年間20mSvで線引きしたため、特に小さな子どもを持つ親たち等は全国各地へ避難するしかなかった。国にはそうした自主避難者たちを引き続き支援する責任がある(要旨)」と述べ、非人道的な「年間20mSvでの線引き」に問題の根源があるとしました

 また環境NGO「FoE Japan」の満田夏花氏は原発事故子ども・被災者支援法では、原発を推進してきた国に、自主避難者も含め被災者救済の責任がある、とはっきり書かれています。被災者支援の基本となる法律に反する発言をしたという点で、今村復興相は厳しく追及されるべきだ」批判しました
 
 「『原発事故子ども・被災者生活支援法』は、野田内閣時代に全員が賛成した議員立法で2012年6月27日に施行されました。その年の暮れに第2次安倍内閣時代に変わってからはずっと放置され、2013年8月30日になってようやく実施のための基本方針が発表されました。
 しかしその内容は、それまで国が応急的に施行していた方策を単に集大成したものであって、適用対象地域も定めていないという骨抜きを絵に描いたようなものでした。そういう体たらくではあったにしても、政府がその基本法の理念を踏み外すことがあってはなりません。西村発言はそうした内閣全体が陥っている筈の病根を明らかにしたと言えます。それを契機に、まことに遅まきながらこれまでそれを放置して来たメディアもそうした姿勢を追及し出しました。復興相をはじめ安倍内閣閣僚は全員猛省すべきです。
 
 西村復興相は4日午後、暴言を謝罪しましたが「自主避難者は自己責任」とする発言は撤回しませんでした。それでは謝罪になりません。7日になって、西村氏は記者たちの追及を受けてようやく「自己責任という発言を撤回する」と述べましたが、自らと安倍内閣が陥っている過ちを認めることはせずに、突然記者会見を切り上げたということです。
 
 志葉玲氏の記事、避難者たちの怒りを報じた時事通信と西村氏の発言撤回を報じた日刊スポーツの記事、そして東京新聞の社説を紹介します。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
激昂”今村復興相の「出ていけ」「うるさい」より重大な問題発言
志葉玲 YAHOOニュース 2017年4月7日 
フリージャーナリスト)     
「出ていきなさい!」「うるさい!」―今村雅弘復興大臣は、今月4日の記者会見で、福島第一原発事故での国の対応や責任を問いただした記者に対し、激昂。机を叩き、罵声を浴びせた。そうした乱暴な言動もさることながら、会見での発言内容が、原発事故対応についての法律に反し、「責任放棄」との指摘がある。4日の今村復興相の発言は何が問題だったのか。被災者支援団体や野党議員に聞いた。 
 
〇復興の要である法律を理解していない復興大臣
4日の会見で、フリー記者の西中誠一郎氏が問いただしたことは、自主避難者への対応についてだった。福島第一原発事故(2011年3月)で、政府の定めた避難区域は「年間20ミリシーベルト以上被ばくする場所」と、事故以前の大人の年間被ばく許容量1ミリシーベルトを大幅に超えるものだったため、避難区域の外でも、特に小さな子どもを持つ親たち等は、全国各地へ避難した。こうした自主避難者たちへの避難先での住宅支援が、今年3月に打ち切られたことについて、西中氏は国の責任を問うたのである。 
 
激昂する今村復興相の姿は、各局のニュース番組でも報じられたが、冷静さを欠いて怒鳴り散らしたことだけではなく、むしろ、その発言内容の方が問題だろう。環境NGO「FoE Japan」の満田夏花氏はこう批判する。 
「今村復興相は、自主避難を続ける人々について自己責任だと切り捨てましたが、原発事故子ども・被災者支援法では、原発を推進してきた国に、自主避難者も含め被災者救済の責任がある、とはっきり書かれています被災者支援のキーとなる法律に反する発言をしたという点で、今村復興相は厳しく追及されるべきだと思います」。 
 
原発事故子ども・被災者支援法の成立のため、尽力した川田龍平参議院議員も、こう苦言する。 
「当事者に寄り添う視点が欠けている政府に真の復興ができるのか?と首を傾げざるを得ません。怒鳴った事よりも、復興を担当する政府の代表に、被災者が今も置かれている現状への想像力がなさすぎる事に危機感を感じます」。 
 
約2万6000人いるとされる福島第一原発事故による自主避難者には、小さな子どもを抱えた母親だけで避難したケースも多く、経済的にも困窮している。西中氏が「(自主避難者を)路頭に迷わさないでください!」を叫んだのも、そうした現実があるのだ。 
 
自主避難者たちの相談、支援を行っている「避難の協同センター」事務局長の瀬戸大作氏は、こう語る。 
「避難中のシングルマザーたちは本当に追い詰められています。彼女たちは働いていないわけではありません。しかし、非正規雇用で、最低賃金で働いているというケースがとても多い。男性の避難者でも、やはり非正規で経済的に困窮しているということもあります。ですから、この3月に住宅支援が打ち切られたことは、とても深刻です。先日、ある避難者の方から『住む場所もお金もない』と連絡を受けました。聞いてみると、現金は1000円しかないと言います。その後、その方とは連絡が取れなくなってしまいましたが、どうしているのかとても心配です」。 
 
〇今村復興大臣の発言は責任放棄
福島県が先月公表した報告によれば、住宅支援が打ち切られた以降も、県外避難者の約8割が避難先での生活を継続すると答えたという。今村復興相は4日の会見で「(福島県内に)帰っている人もいる」と強弁したが、帰りたくても帰れない避難者に対し、どう支援していくか、具体的なことは何一つ語っていない。原発事故を起こしてしまった責任は間違いなく、東京電力と国にある。それは、原発事故子ども・被災者支援法や、先月17日に原発避難者訴訟で前橋地裁が下した判決文でも明記されていることだ。自身で「公式の場」と言う記者会見で、臆面もなく事実と異なる発言をし、それを追及されると、逆上して怒鳴り散らす。ネット上では、今村復興相の辞任を求める署名も始まっているが、自身の職務内容について正しい認識もなく、その責任を放棄するならば、その役職も辞するべきであろう。 (了) 
 
 
避難者「権力側のいじめ」=復興相発言を批判―東京
時事通信  2017年4月7日 
 東京電力福島第1原発事故で福島県から避難を余儀なくされた避難指示区域外の住民らが7日、東京都内で記者会見し、今村雅弘復興相の「自己責任」発言について「権力側のいじめに他ならない」などと怒りをあらわにした。
 福島県郡山市から2011年に当時5歳の長男と妊娠中の妻を連れ、静岡県富士宮市に避難した長谷川克己さん(50)は「(避難するか否か)親が悩んで選択した。尊重されるべきだ」と訴え、復興相の発言を「心の中に持っていたものをさらけ出した」と指摘した。
 子ども2人と郡山市から大阪市に避難した森松明希子さん(43)は「放射能汚染の実態を調べてほしい」と求めた上で、「権力のある側のいじめに他ならない」と批判した。 
 
 
今村復興相が原発避難者への発言撤回、突っ込まれ…
日刊スポーツ 2017年4月7日
 今村雅弘復興相(70)は7日の定例会見で、東京電力福島第1原発事故に伴う自主避難者の帰還判断を「自己責任」と述べた4日の定例会見の発言を、記者に再三問われる形で、撤回する意向を示した。
 
 4日夕の会見や、6日の衆院災害復興特別委員会では、「自己責任発言」を撤回する意向を示していなかった。この日も、当初は「自己責任という言葉は誤解を与えた。これについては反省している」「意は通じていると思う」などと明確に述べなかったが、記者に突っ込まれ続け、「撤回するということでご理解していただいて結構です」と述べた。「何がまずくて撤回するのか」と指摘されると、「さっき言った通り。自己責任という言葉は誤った印象での使われ方をした」などと述べた
 4日の会見で、「裁判でもなんでもやればいい」と発言したことについては、「裁判うんぬんの話は一般論として言った」と述べ、撤回はしなかった。
 会見では、既存の法整備で対応していることが、自主避難者の住宅支援打ち切りにつながっているとの指摘が集中した。「もし大臣職を続けるなら、法体系運用を見直し、足りないところも見直すつもりはないか」と問われたが、「どういう理由、状況で帰還しないのか原因を分析しながら、どういうところが足りないのかを把握し、今後対策をたてる際の参考にしい」と述べるにとどめ、具体的な案は示さなかった。
 
 会見は、約20分間で事務方が打ち切った。終了後、打ち切ったことに対して報道陣が事務方に詰め寄る場面もあった。
 
 
社説 復興相の発言 政府の本音が露呈か  
東京新聞 2017年4月7日
 原発事故は国策が招いたという自覚はどこにある。今村雅弘復興相が避難指示区域外の自主避難者をめぐる対応について「裁判でも何でもやれば」と話した。政権の本音が露呈したのではないか。
 被災者支援の要にある大臣として、その認識には疑問符がつく。
 今村復興相は福島第一原発事故後、国の避難指示区域外から避難した「自主避難者」について「本人の責任」「裁判でも何でもやればいい」と記者会見で述べた。全国に避難した自主避難者への住宅無償提供が先月で打ち切られたことを受けた発言だったが、自主避難者もまた国の原発政策の被害者であることを忘れている。
 自主避難者の多くは、放射性物質が広域に降り注がれたにもかかわらず、国の避難指示が限定的だったことに不安を感じ、自ら避難を決めた人々だ。福島県によると全国に二万数千人。母子のみの避難世帯も多く、東京電力からの賠償も行政支援もまともに受けられず、困窮した人が少なくない。
 今村氏は「私の発言で皆さまにご迷惑をかけたことはおわびする」と国会で謝罪したが、発言を撤回したわけではない。暴言が今村氏ひとりのものなのかという疑念も抱かせる。大臣を任命した首相にも責任があるはずだが、撤回を促す様子はない。避難者を愚弄(ぐろう)する誤った認識が政権に共有されているなら問題である。
 「裁判でも」と今村氏が言うのは避難者たちが国や東電を相手に争う損害賠償訴訟を指すのだろう。全国で約三十件が提訴され、原告数は一万人を超える。だが裁判を起こしても納得できる結果が得られないことはある。
三月の前橋地裁の判決も原発事故を招いた国の責任を全面的に認めたが、賠償が認められた原告は半数で金額も少ない。裁判を負わせることをよしとする発言は、負担が重くてもなお提訴を選んだ人々を嘲笑するかのようだ。
 避難指示解除と帰還を進める政府は今春、浪江、川俣、飯舘、富岡計四町村で約一万二千世帯、約三万二千人の避難指示を解除した。除染が進んだと安全を強調するが地元に戻る人は少数派。戻りたくても戻れないと思う人が少なくない。避難指示の解除後は「自身の判断で避難を選ぶ自主避難者」とみられるのだろう。
 だが、これも自己責任で片付けるなら責任放棄だ。国が招いた原発事故の被害を矮小(わいしょう)化せず、多様な声を聴きながら被災者救済に力を注ぐべきだ。