大阪高裁が3月28日、高浜原発の稼働を差し止めた大津地裁の仮処分決定を取り消したことに関連して、現代ビジネスが1日、元裁判官の瀬木比呂志氏にインタビューした記事を載せています※。
※ 4月2日 大阪高裁 高浜原発稼働の反動的決定(瀬木比呂志氏)
瀬木・明大学大学院教授は「黒い巨塔 最高裁判所」「ニッポンの裁判」を著わし、そのなかで司法が政治に従属していること、日本の裁判所は最高裁事務総局が牛耳っていること、事務総局は原発訴訟に対して却下・棄却するようにきわめて露骨に誘導していることなどを明らかにしています。
LITERAは3日、大阪高裁の今回の決定が再稼働容認という命題に ”予定調和” すべく「原子力規制委の審査に合格した以上安全」、「基準自体が合法性を欠くことを住民側が立証する必要がある」とする決定を行ったことに対して、規制委が原発事故後に制定した審査基準は、海外の基準と比較しても様々に劣るものであって、規制委自身が「合格は安全を保障するものでない」と述べていることを無視しているなどとする記事を載せました。
そこでは、最高裁事務総局が具体的にどのようにして原発推進の判断が下ろされる体制を整えているかを示すとともに、その結果として原発推進の判断を下した判事たちが続々と原子力関連企業に天下っている実態を明らかにしました。
それとは別に、しんぶん赤旗が「原発メーカーから原発再稼働審査の規制庁 東芝「天上がり」3人 16年10月」とする記事で、原子炉メーカーである東芝から原子力規制庁へ3人の職員が「天上がり」(=民間から省庁などへ職員が就職・出向)していることを報じました。
LITERAの記事に併せて紹介します。
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高浜原発、再稼働判決の裏に裁判所と原発ムラの癒着が!
電力会社と政府の意を忖度し国民の命と安全を蔑ろにする裁判官たち
LITERA 2017年4月3日
関西電力高浜原発3、4号機について、3月28日、大阪高裁(山下郁夫裁判長)は大津地裁の命じた運転差し止め仮処分決定を取り消し、関西電力が訴える運転再開を認めた。今年3月の毎日新聞の調査でも、半数以上が原発再稼働に反対する結果が出たが、しかし、これで高浜原発2基の再稼働が可能となってしまったわけだ。
高浜原発については、これまでいくつかの裁判所によって再稼働差し止めと容認が繰り返されてきた。まず、2015年4月に福井地裁において「新規制基準に適合したとしても安全性は認められない」と再稼働差し止めの仮処分が決定されたが、同年12月には同地裁において、出された仮処分決定を取り消し、再稼働を容認。さらに16年3月、大津地裁が再び運転差し止めの命令を下していた。
この際、大津地裁の山本善彦裁判長は「関西電力側の主張では安全性確保の説明が尽くされていない」と厳しい言葉で関西電力を批判。運転中の原発が裁判所命令で停止されたのは史上初で、原子力ムラに大きなインパクトを与える決定だった。
だが高裁で一転、再稼働の容認。今回の判断は、大津地裁が危惧した過酷事故対策や、耐震設計の目安となる基準地震動(想定される最大の揺れ)についてなんら考慮されることなく、また「新規性基準は福島原発事故の教訓を踏まえた最新のもので、合理性がある」と福島原発事故後、原子力規制委員会が策定した新規制基準を単に追認したものだ。さらに、山下裁判長は「(電力会社が)新基準に適合することを立証した場合、基準自体が合法性を欠くことを住民側が立証する必要がある」と、新基準を盲信する形で原発の安全性の立証を住民側に押し付け。「周辺環境への放射性物質の異常な放出に至ることはまず想定しがたい」など、福島原発の甚大な事故の教訓を省みるどころか、事故など “なかった” かのような物言いまでしているのだ。
今回の再稼働の許可は、まさに政府、行政、そして電力会社に司法が追随したものであり、“忖度”の末の暴挙といえる。そもそも今回の判断が大きく依拠する新基準にしても、これまで裁判所だけでなく専門家の間でも疑問が呈されてきたものだ。ヨーロッパの基準に比べても、日本の新基準の安全対策は緩く、実際、当の原子力規制委員会でも新基準は「安全審査」ではなく「適合性審査」と位置付けられている。その証拠に2014年7月の新基準発表の会見の際、原子力規制委の田中俊一委員長自身、「基準の適合性は見ていますけれども、安全だということは申し上げません」となんども強調していたほどだ。さらに15年12月の福井地裁判決で再稼働した直後の16年2月には高浜原発4号機の原子炉が緊急停止するトラブルも起こっているのだ。
しかし、山下裁判長の判断は予想の範疇だろう。なぜなら、これまで電力会社や政府が“国策”として目指す再稼働に都合の悪い裁判所や裁判官に対し、最高裁とそれを牛耳る安倍政権は、人事権を発動し、その決定をことごとく覆してきたからだ。
すでに本サイトでも指摘しているが、15年4月、高浜原発再稼働差し止めの仮処分を決定した福井地裁の樋口英明裁判長(当時)は、その判決を下したのち、名古屋家裁に “左遷” されてしまう。これは懲罰人事であり、今後原発訴訟に関わらせないための追放人事だった。そして、樋口裁判長の後任として福井地裁に赴任してきたのが林潤裁判長だった。林裁判長(当時)は同年12月に高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを覆し、事実上、再稼働を決定。さらに、林裁判長は大飯原発についても周辺住民らが求めていた再稼働差し止めの仮処分の申し立てを却下する決定をした。
林裁判長は1997年の最初の赴任地が東京地裁で、2年後に最高裁判所事務総局民事局に異動。その後も宮崎地裁勤務以外、東京・大阪・福岡と都市圏の高裁と地裁の裁判官を歴任している。この最高裁事務総局というのは、裁判所の管理、運営、人事を仕切る部署でエリート中のエリートが集まるところ。林裁判長は人事権を握る事務総局から目をかけられ、将来を約束された最高裁長官さえ狙えるようなエリートだったのだ。さらに、林裁判長と一緒に高浜原発再稼働を認めた左右陪席の2人の裁判官、中村修輔裁判官と山口敦士裁判官もまた最高裁判所事務総局での勤務経験があるエリート裁判官だった。そんなエリート裁判官たちが高浜原発のある福井という地方地裁に赴任したことは、異例のこと。つまり、政府や電力会社に都合が悪い決定を下した樋口裁判官を左遷し、代わりに最高裁がお墨付き与えたエリート裁判官たちを原発再稼働容認のために送り込んだのだ。
それだけでなく、裁判所は電力会社や原子力産業とも直接癒着もしている。これまで数多くの電力会社と住民との訴訟において、電力会社に有利な決定を下した裁判官や司法関係者が原発企業に天下りするなど、原発利権にどっぷりと浸かっているからだ。
その典型的な例を「週刊金曜日」2011年6月3日号でジャーナリストの三宅勝久氏がレポートしている。記事によれば1992年、伊方原発と福島原発設置許可取り消しを求めた裁判で「国の設置許可に違法性はない」と電力会社側に沿った判決を下した味村治氏(故人)が、退官後の98年、原発メーカーでもある東芝の社外監査役に天下りしていたという。
味村氏は東京高検検事長や内閣法制局長官を歴任し、最高裁判事となった人物で、いわば司法のエリート中のエリート。しかも味村氏の「原発は安全」との味村判決が、その後の原発建設ラッシュを後押しする結果となった。原発企業に天下ったのは味村氏だけではない。同じく三宅氏のレポート(「週刊金曜日」2011年10月7日号)でも司法関係者の原発企業天下りが紹介されている。
・野崎幸雄(元名古屋高裁長官) 北海道電力社外監査役
・清水湛(元東京地検検事、広島高裁長官) 東芝社外取締役
・小杉丈夫(元大阪地裁判事補) 東芝社外取締役
・筧栄一(元東京高検検事長) 東芝社外監査役・取締役
・上田操(元大審院判事) 三菱電機監査役
・村山弘義(元東京高検検事長) 三菱電機社外監査役・取締役
・田代有嗣(元東京高検検事) 三菱電機社外監査役
・土肥孝治(元検事総長) 関西電力社外監査役
つまり、政府や電力会社の意向を “忖度” した裁判官たちには天下りというご褒美が与えられる一方、逆に、政府や電力会社にとって不都合な判決を出せば、左遷されてしまうということだ。そのため多くのエリート裁判官たちは、自分が得られる地位や経済的な恩恵のため、そして最高裁人事という “圧力” のもと、曖昧な根拠しか示すことなく再稼働を安易に容認し、国民の命や安全を蔑ろにする。これでは、司法の独立どころか、裁判官や検事までが原発企業の利益共同体、原発ムラの一員と批判されて然るべきだ。
そう考えると今回の高浜原発再稼働を認めた大阪高裁の山下裁判長の決定は、
ある意味当然の結果と言えるのだろう。こうして大阪高裁のお墨付きを得た高浜原発3、4号機は、再稼働に向け現在も着々とその準備を進めている。
未だ大量の放射性物質を放出し続ける福島第一原発、にもかかわらず進められる避難指示解除と、住民の強制的ともいえる帰還、そして無視され続ける子どもたちの甲状腺がんの実態──。このままでは、第二の福島原発事故が近い将来起こっても決して不思議ではない。(伊勢崎馨)
原発再稼働審査の規制庁 東芝「天上がり」3人 16年10月
しんぶん赤旗 2017年4月3日
原子炉メーカーである東芝から、原発再稼働の規制基準の適合審査をする原子力規制庁へ、2016年10月1日時点で3人の職員が「天上(あまあ)がり」していることが分かりました。「天上がり」とは「民間」から省庁など国の機関へ職員が就職・出向することです。
東芝は巨額損失を抱える一方で、原発再稼働により2016年度からの3年間で33%増、2000億円の売上高を目指しています。原子力規制庁によると、東芝から「天上がり」している3人はいずれも非常勤職員となっています。規制庁人事課の担当者は、「それぞれ専門的な知見を生かして、原子力関係の人材育成や調査研究、技術検査のサポートを担当している」と話します。
規制庁によると、非常勤職員の契約期間は1年間。任期終了後の再就職先について制限はなく、出身企業に戻ることも可能です。
「官民人事交流」 安倍政権が拡大
「民間」から国へ人材を受け入れるには、非常勤職員による採用のほか、(1)官民交流法にもとづく人事交流(2)任期付き職員(3)任期付き研究員(4)国家公務員への中途採用―などの制度があります。官民交流法は、一定の制限のもとで出身企業の身分を保ったまま5年を上限に公務員として働くことができる制度で、交流期間の終了後は出身企業へ戻ることが前提です。
第1次安倍内閣は07年5月に「官民人事交流推進会議」を立ち上げ、官民交流の「抜本的拡大」を推進。第2次安倍内閣は14年5月に官民交流法を改定し、官民交流の対象となる民間企業の範囲を拡大しました。
民間企業からの「天上がり」は、比較可能な統計のある01年には155社422人でした。16年には962社1996人と5倍近くへ急増しています。民間企業と政府の一体化が人事面でも進んでいます。(清水渡)