2018年8月3日金曜日

03- <除染土再利用 原発被災地の行方>(上)(中)

 福島原発事故で発生した除染土を再利用する環境省実証事業が、福島県内で計画・実施されています。安全性を確認した上で公共事業に活用し、将来の最終処分の減量につなげたい考えですが、地域は期待と不安、反発が交錯していま。河北新報が3つの地域を取材しました。
 <上>では南相馬市を、<中>では二本松市の実情を伝えます。
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<除染土再利用 原発被災地の行方>(上)進まぬ搬出、戻らぬ生活
 河北新報 2018年8月2日 
 東京電力福島第1原発事故で発生した除染土を再利用する実証事業が、福島県内で計画・実施されている。環境省は安全性を確認した上で公共事業に活用し、将来の最終処分の減量につなげたい考えだ。実証事業を巡り、地域は期待と不安、反発が交錯する。三つの地域を取材した。(福島第1原発事故取材班)
 
◎消えない仮置き場(南相馬)
 国道6号沿いに黒い袋の山が幾列も続く。南相馬市小高区南部。市内最大規模の除染土仮置き場だ。
 
<早期解消期待>
 「再利用されれば仮置き場解消が早まる。地域の復興が進む」。地元行政区長の山沢征さん(75)は仮置き場の一角で進む実証事業に期待を寄せる。
 実証事業は、放射性物質濃度が1キログラム当たり8000ベクレル以下の除染土を公共事業に使うため、安全性などを確認するのが狙いだ。
 小高区では2016年12月に始まった。3000ベクレル以下の除染土約700立方メートルを使い、高さ2.5メートルの土手のように造成。17年5月から、周辺の空間放射線量や染み込んだ後の雨水の放射性物質濃度を調べている。
 地元が事業を受け入れた最大の理由が「消えない仮置き場」の存在だ。
 除染土は第1原発周辺の福島県大熊、双葉両町に整備中の中間貯蔵施設に県内各地から運ばれるが、用地確保が遅れているため搬入は住民が期待するほど進んでいない。
 
<国は成果強調>
 小高区南部の仮置き場も除染土が積まれたまま。3年程度とされた土地の利用契約は今春、延長された。
 「仮置き場の目の前で暮らすのはもうたくさん。元の生活に一日も早く戻りたい」。土地所有者の一人でもある山沢さんは地域の思いを代弁する。
 調査開始から1年余。環境省は実証事業の成果を強調する。
 <空間放射線量は毎時004~009マイクロシーベルトと低い値で推移している>
 <放射性物質の雨水への流出も確認されていない>
 同省は6月、今回の手法で「安全性を確認した」と国会に報告。年度内を目標に「手引」を作成して再利用の拡大を目指す。
 除染土はそもそも、30年以内に福島県外で最終処分することが法律で決まっている。ただ、最終処分地の確保は難航が必至。同省は最大約2200万立方メートルを見込む除染土の圧縮に懸命で、再利用を何とか実現させたい考えだ。
 だが、再利用が進むかどうかは分からない。
 
<実用化不透明>
 公共事業への実用について、南相馬市は「現時点で全く考えていない」(環境回復推進課)と強調。福島県も「コメントできる段階にない」(中間貯蔵施設等対策室)と慎重だ。
 実証事業の受け入れを決めた当時の南相馬市長の桜井勝延氏は取材に「住民のために何をすべきかを考えた。(再利用は)科学的に問題ない」と強調した。
 小高区南部の実証事業で使われた除染土はごく一部にすぎない。住民が強く望む仮置き場解消が一気に進展する状況にはない。
 
 
<除染土再利用 原発被災地の行方>(中)風評懸念受け計画頓挫
   河北新報 2018年8月3日 
 東京電力福島第1原発事故で発生した除染土を再利用する実証事業が、福島県内で計画・実施されている。環境省は安全性を確認した上で公共事業に活用し、将来の最終処分の減量につなげたい考えだ。実証事業を巡り、地域は期待と不安、反発が交錯する。三つの地域を取材した。(福島第1原発事故取材班)
 
◎道路盛り土に活用(二本松)
 東京電力福島第1原発事故で発生した除染土を再利用する環境省の実証事業は計画通りに進んでいない。
 
<不十分な説明>
 二本松市原セ(はらせ)地区。田園地帯を走る市道の改良工事に伴う盛り土として、市内で出た除染土約500立方メートルを使う計画が、地元農家などの反対で頓挫した。
 環境省は5月中旬に予定していた測量調査を断念。6月28日付で「本年度の事業計画を再検討する」との文書を地区全戸に配った。
 「なぜ、原セ地区なのか。私たち住民に対し、納得のいく説明がなかったことが大きい」。地元農家の高宮文作さん(62)は語る。
 高宮さんは実証事業が計画された地区内の60アールで飼料用稲を栽培。他の農家47戸と共に、約5キロ離れた飼料生産組合に納めてきた。
 ところが、組合から飼料を購入してきた福島県内の畜産農家が5月上旬、「原セの稲を使う飼料は要らない」と伝えてきた。実証事業が理由だった。
 間もなくあった環境省主催の住民説明会。高宮さんは「もう実害が出ている」と風評被害を訴えた。
 同省の担当者は「情報公開を徹底する」「東京で農産物のPRイベントを開く」と話したが、住民側は「説明は不十分」と感じた。「事実上の最終処分につながる」と、再利用そのものを問う声も上がった。
 
<国側に丸投げ>
 説明が足りないのは環境省に限らない。
 除染土を使うのは市道の改良工事。再利用の候補地として原セ地区を国側に紹介したのも市だった。
 にもかかわらず、市は「事業主体はあくまで環境省」と、距離を置き続けた。4度の説明会は同省や地元住民主催だった。
 高宮さんは「住民側に立つべき地元自治体の姿が見えなかった。市が説明責任を国に丸投げしたようになったことで、不信感が広がった」と指摘する。
 環境省は計画頓挫に戸惑いを隠さない。利用を想定していた除染土の放射性物質濃度は1キログラム当たり1000ベクレル台。再利用基準(8000ベクレル)を大きく下回り、同省幹部は「これほどの反発は意外だった」と語る。
 
<余波収まらず>
 県内の農家は原発事故後、農産物や原乳の出荷停止、取引価格の低下などに直面してきた。理屈や数字では解決しない風評におびえてきた生産現場の不安にまで、国や地元自治体が思い至ったのかどうか。
 事業計画が来年度以降に延期された地元では、余波が消えていない。行政区の関係者の一人は飼料組合のある地区名を挙げて「向こうが騒いだために風評が起こった」と決め付けた。
 稲と堆肥をやりとりしてきた耕畜連携も、揺らぐ恐れが出ている。