2018年8月5日日曜日

<除染土再利用 原発被災地の行方>(下)

 シリーズ最終回(下)は、飯館村長沼地区のケースで、除染土の上に50センチの覆土をして花などの(試験)栽培用農地にするというものです。
 長沼地区では、23年時点で「180人が居住し、20戸が営農を再開する」を予定していますが、実現するかは不明です。
 ただ試験栽培用地として受け入れた結果、除染する農地や宅地は80ヘクタールに広がったということです
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<除染土再利用 原発被災地の行方>(下)帰還を切望 苦渋の決断
  河北新報 2018年8月4日
◎30ヘクタールの農地を造成(飯舘)
 山あいの集落に、除染土を詰め込んだ袋が次々と運び込まれる。クレーン車が周囲の緑を塗りつぶすように黒色の山を築いていく。
 
<花など栽培へ>
 福島県飯舘村南部の長泥地区。環境省が準備を進める除染土再利用の実証事業は、市道の盛り土に利用する計画の二本松市などの例とは大きく異なる。
 長泥地区は農地造成に使う。放射性物質濃度が1キログラム当たり5000ベクレル以下の除染土に、厚さ約50センチの覆土をして畑とし、花などを試験栽培する予定だ。
 さらに安全性を確認後、「環境再生事業」に進むことが決まっている。村内で発生した山積する除染土を約30ヘクタールの農地造成に使う。
 
 本格的な再利用を前提にした実証事業に対する地域の思いは複雑だ。
 「もろ手を挙げて賛成したわけではない」と行政区長の鴫原良友さん(67)。東京電力福島第1原発事故からの地域再生へ、苦渋の決断だったという。
 長泥地区は、原発事故で全村避難となった飯舘村で唯一の帰還困難区域。昨年3月末の避難指示解除の対象にならなかった。
 
<復興拠点要請>
 帰還困難区域は原則として除染の対象外。帰還実現には、国が除染とインフラ整備を一体的に進める「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)に指定されるしかない。ただ、村中心部から遠く離れた長泥地区は難しいとみられていた。
 切望する地区全体の除染の見通しが立たない中、行政区は昨年夏、「せめてミニ復興拠点を」と、集会所周辺など、数ヘクタール程度の整備を村に要望した。
 そこに持ち込まれたのが実証事業。「受け入れればもっと広く整備の手が入る」と期待が膨らんだ。
 国は今年4月、長泥地区の復興拠点計画を認定した。対象は186ヘクタールで、うち除染する農地や宅地は80ヘクタールに広がった
 「実証事業を受け入れたことで除染の面積が拡大した」と考える住民は少なくない。「除染土には抵抗感がある」との声もあり、地元が葛藤を抱えながらの計画認定だった。
 
<営農は不透明>
 180人が居住し、20戸が営農を再開する
 復興拠点の整備によって避難指示が解除される2023年の長泥地区の姿だ。村が今年1、2月に実施した意向調査を基にした。
 ただ、大半の住民は避難先に新居を構えている。営農再開も見込み通りに進むかどうかは不透明だ。
 除染土を使って造成する農地の行方について、避難前は兼業農家だった男性は「(除染土の)最終処分場のようになってしまわないか不安もある」と語る。
 環境省は今秋以降、長泥地区の実証事業に本格的に着手する。復興拠点計画に基づく除染も同時期に始まる見通しだ。